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[保険診療のてびき] 糖尿病の合併症管理最前線

医療法人社団慈恵会新須磨リハビリテーション病院院長 
いきいきの郷施設長 東邦大学名誉教授        芳野 原先生講演

はじめに
 わが国ではこの10年間ほど、糖尿病は激増の時代に入ってきました。そのため、糖尿病はまさに国民病と呼ぶにふさわしい地位を占めています。推定では毎年100万人程度、つまり、1年間に産まれてくる赤ちゃんと同じ数だけ増え続けてきたことになります。
 糖尿病が増えた原因の一つは、われわれのライフスタイルの変化、すなわち、食生活の欧米化、特にファーストフードに代表される動物性脂肪摂取量の増加です。また、モータリゼーションの発達による運動量の減少、それらによる肥満の増加、そして社会の複雑化がもたらす種々のストレスなどが、糖尿病の発症に拍車をかけています。
1.糖尿病の管理が十分ではありません
 一方、糖尿病で医療機関にかかっている人の推計は、わずかに246.9万人(2005年患者調査)でしかありません。つまり、糖尿病であることを知っていながら治療を受けずに放置している人の方が、治療を受けている人たちよりも圧倒的に多いのです。
 また、治療を受けていても、薬さえ飲んでいたら問題ないと思い込んで、高血糖のまま経過している症例も少なくありません。糖尿病は、病気になった初期では自覚症状に乏しいため、きちんと治療をすれば重大な状態にならない時期をみすみす逃してしまい、合併症が出現し、重症になるまで放置してしまうことが、糖尿病の最大の問題と言えるでしょう。
2.糖尿病の発症の原因
 2型糖尿病の発症原因としては、遺伝因子と環境因子のいずれもが関与することが知られています。
 糖尿病を起こしやすい遺伝子を保持していても、これだけでは糖尿病は発症しませんが、日常のライフスタイルが糖尿病の発症に大きく影響してきます。食事の問題(過食や、動物性脂肪豊富な食材の摂取)、運動不足、ストレス、肥満などの因子が加わると、眠っている糖尿病の発症遺伝子を目覚めさせてしまうのです。つまり、遺伝子的素因に環境因子が加わって、初めて糖尿病は発症します。
 他方、1型糖尿病は、インスリンを合成分泌する膵β細胞が破壊されたために発症するものです。1型糖尿病になりやすい体質(感受性)に、自己免疫機序やウイルス感染などが関与して発症すると言われています。
3.糖尿病の合併症とは
 糖尿病の合併症は、三大合併症(細小血管症と呼ばれています)と、心筋梗塞と脳梗塞を引き起こす動脈硬化があります。糖尿病の三大合併症は、糖尿病に特有な網膜症、腎症、神経障害を言います。
 これらの合併症は頻度的にも多く、また日常生活を送る上で大きな障害となります。合併症は糖尿病発症後すぐには出現せず、初期の合併症は、血糖値を良好に保つと元に戻りますが、しかし、ある一定の年限(約10年と考えられています)を超えて進行した合併症は、血糖値をその後いくら厳密にしても、完全には元に戻すことができないとされています(このような現象をmetabolic memory、またはlegacy effectとも呼んでいます)。
 血糖値が良好に保たれ、およそ糖尿病の合併症とは無縁の症例がいる一方で、血糖値が高く、いくら入院を勧めても「症状がないから大丈夫です」と言って、入院を拒否する患者さんがいるのも事実です。このような高血糖症例は、時間が経つにしたがって、網膜症による失明、腎不全による透析、脳梗塞による寝たきり状態に陥る危険性が極めて高いことが予測されます。
(1)糖尿病性網膜症
 2008年度の全国視覚障害の調査では、視覚障害の原因疾患として糖尿病網膜症が19.0%(第2位)を占めています(1位は緑内障です)。
 この網膜症が始まった初期の段階では、通常視力は低下せず、無症状で放置されることが多く、逆に視力が低下し眼科を受診したときには、網膜症がかなり進行している場合が多いのです。
 それゆえに視力が正常のうちから、眼科専門医の定期的な眼底検査が非常に大切です。網膜症の重い患者さんには、レーザー光凝固術や硝子体手術を行いますが、これは病気の進行を止めるだけで、失われた視力の回復は極めて困難なものとなります。
(2)糖尿病性腎症
 わが国では、糖尿病腎症による透析導入は、1998年新規透析導入となった原因疾患の第1位となってからはさらに増加し、2007年の1年間に糖尿病腎症が原因で透析導入した患者さんの数は15,750人となっています。そして、その60倍に近い「透析(末期腎不全)予備群」が存在している恐れがあると言われています。
 毎週(3回、3〜4時間)の透析に要する時間も長く、日常生活のなかで自由な時間がかなり制限されてしまいます。また、年間500万円程度の医療費がかかります(ほとんど公費負担となりますが)。糖尿病性腎症症例への腎移植は、臓器提供者が少ないなどの理由で、進んでいないのが現状です。
(3)糖尿病性神経障害
 糖尿病による神経の合併症である末梢神経障害は、具体的には、手足がしびれたり(手袋型やソックス型から始まります)、足がつったりする症状から、最後には神経が鈍くなり、痛みや熱さを感じなくなります。最後は、画鋲や釘を踏んでも痛くない状態になり、化膿して壊疽から下肢切断の原因になります。
 一方、自律神経が障害され胃や腸の神経が麻痺すると、便秘や下痢を繰り返したり、血管の神経が障害されると立ちくらみを起こしたりします。
 また、心臓の神経が障害されると、心筋梗塞を起こしても、激烈な痛みを感じなくなり(無痛性心筋梗塞と呼ばれています)治療の遅れの原因となり、心不全から致命的になることがあります。
(4)大血管障害
 ヒトは、年齢とともに動脈硬化も進みますが、糖尿病の人は若年から動脈硬化が出現します。特に、脳、心臓、末梢血管の動脈硬化が重要です。
 糖尿病以外にも、高血圧、高脂血症、タバコ、肥満、高尿酸血症などが動脈硬化を促進させますので、糖尿病症例はこれらに対する積極的な治療介入が必要です。
 糖尿病では、動脈硬化進展による心筋梗塞の頻度が高く、さらに上記のように糖尿病性神経障害による無痛性心筋梗塞が致命的なものとなります。
(5)脳梗塞
 糖尿病症例では、脳梗塞の頻度が高いことが知られています。大きな梗塞巣があれば片麻痺が起こり、小さな脳梗塞が多発すれば、脳血管性痴呆になることがあります。管理の不十分な糖尿病症例の認知症の進行度は、非糖尿病の高齢者よりも4〜5年早いことが報告されています。
 療養型の施設で調査してみますと、寝たきりになったご高齢の方で、糖尿病のあるなしで2群に分けてみると、糖尿病のある群はそうでない群より4〜5年若いことがわかっています。つまり、管理不良な糖尿病があると、数年早く寝たきり(要介護)になることになります。
(6)閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterance ASO)
 下肢の血管が閉塞し始めると、しびれや痛みのため、長く歩くことができなくなります。完全に閉塞すると、足先が腐って(足壊疽と呼ばれます)足を切断することになります。
 糖尿病でなければ、こんな状態になる前に足には激痛が走るのですが、長い間高血糖を放置しておくと神経障害が進行し、痛みを感じることがないので壊疽に気がつかず、切断に至ることになるのです。そこで、糖尿病専門外来におけるフットケアの重要性が理解できます。
おわりに
 以上、糖尿病の合併症とその予防について、お話しいたしました。
 ここでは、糖尿病であることを知っていながら治療を受けずに放置している方が圧倒的に多いこと、そのため、きちんと治療をすれば合併症進展という重大な状態にならない時期をみすみす逃してしまい、合併症が出現し、重症になるまで放置してしまうことが、糖尿病の最大の問題であることを強調して、まとめといたします。
(2013年12月8日、神戸支部・医科歯科連携研究会、医科の話題提供から、次号に歯科を掲載)
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