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学術・研究

医科2014.01.18 講演

皮膚科一発診断実例から学ぶ教訓 〜顔面の皮膚疾患を中心に〜 [診内研より]

自治医科大学附属さいたま医療センター皮膚科  出光 俊郎先生講演

顔面腫脹疾患は特殊で多彩
 顔面の皮膚疾患は、人相が変わるなどの美容的な問題以外に、顔面には機能的に重要な器官が集中しており、生命に危険の及ぶ可能性がある。また、膠原病など全身性疾患の診断の契機となることもある。
 とりわけ、顔面腫脹を呈する疾患では、緊急で抗菌薬やステロイドの投与、外科的処置(切開など)を行うなど、素早い判断が要求される。
 顔面の腫脹の診断で悩ましい問題の一つは、多くの疾患が、関連診療科の境界領域にあることである。皮膚や皮下組織の疾患以外に、眼窩や副鼻腔からの疾患の波及、口腔外科領域、全身性疾患からくるものなど、特殊でかつ多彩である。したがって、各科の疾患を知っておくこと、そして形成外科、口腔外科(口腔内科Oral Medicine)、眼科、耳鼻科、あるいは脳外科とも、協調して治療にあたらなくてはならない。
 実際の臨床では、炎症性、非炎症性腫瘍、浮腫、感染症か非感染症か、など数多くの鑑別診断を思い浮かべる必要がある。したがって、一発診断とその検証を、いかに能率よく迅速に行うかが、臨床家の腕のみせどころである。
顔面の腫脹のパターンと診かた
 顔面の腫脹には、表1のようにいくつかのパターンがあり、炎症(感染症)、腫瘍、肉芽腫、循環障害などを考えていく必要がある。
 もっとも日常ありふれた疾患は、蕁麻疹と虫刺症であるが、重篤な疾患の存在を知らないと、思いがけない落とし穴に陥る。
 救急を要する顔面腫脹には、まずアナフィラキシーショックや遺伝性血管性浮腫がある。アナフィラキシーでは、症状の改善もさることながら、再発防止のためにはアレルゲン(原因物質)を突き止めることにも注意を払う必要がある。
 顔面の細菌感染症は、早期に抗菌薬の投与のみならず、切開、排膿が必要な場合もある。糖尿病患者では、思いもかけない深部病変が存在することがあるために、眼窩や副鼻腔、歯性感染症については緊急で精査する必要がある。
 顔面の丹毒と帯状疱疹は、鬼門である。一般に丹毒は、真皮の比較的浅いところの病変であり、紅斑の境界が明瞭である。一方の帯状疱疹の基本的な発疹は、小水疱(点状)であり、その臨床像は完成した時点では鑑別は容易であるが、初期にはわかりにくいことも少なくない。
 帯状疱疹や丹毒か判断に迷う例では、抗菌薬、あるいは抗ウイルス薬の投与とともにこまめの通院フォローが大事である。近年、重症薬疹である薬剤性過敏症症候群(DIHS)では、顔面腫脹が特徴的であり、たんなる薬疹とあなどらないようにしたい。DIHSは、原因薬が抗てんかん薬などに限られていること、使用開始から発症までの期間が長いこと、薬剤を中止しても症状の悪化がみられることなど、通常の薬疹とは異なる対応が必要である。
 顔面の接触皮膚炎や虫刺されは、日常よくみる疾患であるが、接触皮膚炎では思わぬ原因もある。市販の外用薬には、思わぬ原因成分も含まれているので、接触源の検査(パッチテストなど)も必要である。
 以上のように、急性の腫脹もあれば、慢性持続性の顔面腫脹も存在する。木村病でも、顔面腫脹を呈する。肉芽腫をきたす疾患では、サルコイドーシスのほか、肉芽腫性口唇炎(頬炎、眼瞼炎)もある。
 炎症に乏しい腫脹では、悪性リンパ腫や上顎癌の可能性がある。内科的疾患で日常しばしば経験するのは、皮膚筋炎の眼瞼、顔面腫脹が接触皮膚炎や光線過敏などと紛らわしく、見過ごされている点である。
 急性か慢性か、炎症があるかないか、片側性か両側性かなど、実際の症例をもとに顔面腫脹の診かたについて解説した(表2)。
 最終的に、一発診断は外れる(外される)と思っていた方がよい。謙虚に、最初の診断を修正する柔軟性と、基礎的な鑑別診断をおろそかにしないことが、何よりも重要である。
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≪参考図書≫
■出光俊郎:内科で出会う 見ためで探す 皮膚疾患アトラス 羊土社(2012.4.2)
■出光俊郎:内科で役立つ 一発診断から迫る皮膚疾患の鑑別診断 羊土社(2013.4.11)
■神部芳則、出光俊郎、草間幹夫:日常診療に役立つ 全身疾患関連の口腔粘膜病変アトラス(外科医・総合医・一般医のための「日常診療に役立つ外科系の知識」)医療文化社(2011.8.20)
(小見出しは編集部)

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