兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2014.07.25 講演

「患者参加型医療」を実現するiPadや革新的ICT活用(下)
〜健康情報と医療情報のシームレスな連携〜 [特別研究会より]

千葉県・習志野台整形外科内科  宮川 一郎先生講演

(前号からのつづき)
患者説明用アプリ=CG動画【IC動画HD】
 最大の患者不満であるコミュニケーション不足の原因として、医師側には医療用語を分かりやすく説明することが難しく、患者側として専門用語を理解するのが難しい点がある。このていねいに説明したつもりが理解してもらえていない解決策として、メモに書いたり、パンフレットを渡したり、変化しない模型を用いたりと試行錯誤している現状であるが、患者側の理解したいと思う興味付け不足もその理由の一つになっている。連続性のない紙媒体や模型の代わりに、CGで病態や薬効、治療方法を提示することは、患者への興味付けや治療への安心感の向上に有効な手段である。
 とはいえ、CGの制作費は高く、インターネット上に散在している動画も著作権の問題で安易に活用ができない。
 そこで、散在している動画を集めたり新規に作成したりした、医療用患者説明用CG動画集となる【IC動画HD】を作成した。(図)
 30秒程度の短編CGアニメーションで構成しており、操作しやすいようボタンを大きくし、科別・部位別・シーン別に検索する機能、対面説明を想定して中の動画を反転させるICモード機能がある。オフライン環境でも使えるようにしており、iTunesストアで無料ダウンロードが可能である。
 現在はたった33本の動画しかないが、登録者は医師含めて約6800人、動画の閲覧回数は11万回を超える。多くの動画リクエストをいただいており、今後も製薬・機器メーカーや医療機関の協力を得ながら動画本数を増やす予定である。
健康情報と医療情報のシームレスな連携
 「患者参加型医療」とは、患者自らが自立的に健康・疾病管理を実践することであり、そのためには、患者自らが考え、理解することが必須だ。医療機関が持つ医療情報と患者が持つ健康情報がシームレス(※)に連動する必要があるが、現在のところは患者が医療者に渡す情報として問診票やお薬手帳、医療者が患者に渡す情報としてパンフレットや血液検査の結果などと、紙媒体が中心で再活用可能なシームレス連携とは言いがたい状況である。
 しかも、当院において初診患者のお薬手帳の持参率は27%と低く、紙媒体での連携も良いとは言えない状況である。そこでお薬手帳・血圧手帳にQRコード付きのシールを貼って診察券として使えるようにし、少なくとも再診患者の各種手帳の持参率向上をめざしている。
 またQRコードは、ユニークなIDを発行することで当院の患者IDなど個人情報を保護することと、同様にユニークIDを持つ健康機器も診察券として活用できる仕組みを構築中である。
 具体的には、NFC(近距離無線通信)機能を有する活動量計を診察券として用いることが可能になる。活動量計はユニークIDだけでなく約2週間分の活動量などの健康情報を有しており、その情報も同時にデジタルデータとして取得が可能となる。将来的には、自宅の血圧計なども診察券として紙媒体への転記なしに情報を得ることが可能になる。
【MICカード】の開発
 逆に医療情報を患者に渡す仕組みとして【MICカード】の製作にも携わっている。
 MICカード(Medical Information Card)とは、カード型のUSBメモリで、電子カルテ内の情報をSS-MIX規格・画像をDICOM規格で格納できるカードである。患者さん本人も内蔵された専用ビューワーで個人情報・受診歴・処方歴・検査結果・特定健診結果などが閲覧できたり、自身のアレルギー歴や緊急連絡先などを追記できる。医療機関では、これに追加して病名や画像の閲覧が、インターネットがなくても可能な仕組みである。
 2011年の大震災では、カルテだけでなくお薬手帳も紛失したり、インターネットや通信も分断されてクラウドサーバーにアクセスできなくなった現状もある。そこで患者自身が情報の保持者となり病診連携の橋渡しや自身の健康・疾病管理の補助となってもらう目的で開発を行った。患者負担はカード代のみで、医療機関がデータを入れるプログラムは無償配布するので、既存の病診連携のサーバー構築費用に比べ大幅に費用削減が可能である。
 カードのセキュリティーや閲覧制限については、患者は自身の暗証番号で、医療機関や救急隊の場合は、了承の取れた専用プログラムが必須となる(救急隊の場合はサマリー・受診歴・処方歴のみが閲覧可能となる)。デメリットとしては、紛失した際には、全てのデータがカード内のみのため、改めて医療機関から情報の取得が必要となる。紛失の心配のある方や将来的な家族連携を含むヘルスケア連携や外部事業連携のためにも、クラウド上にバックアップすることができる患者ポータルサイト(QOLMS;Quality of Life Management System)の構築も検討中である。QOLMSは、医療機関の予約機能や家族と連携する仕組みを考えている。
より安全でより確実な医療にITやICTを活用
 患者参加のための患者行動変容には、エンターテイメント性を重視した外発的モチベーション(Positive Incentive)だけでなく、本人の希望には関わらない、いわば強制的要素(Negative Incentive)や家族と連携する仕組み、医療機関と連動する仕組みなど多面的にアプローチする必要があると考えている。
 ITやICTの活用は、より安全でより確実な医療の実施のための道具であり、医療者の代わりにはなり得ない。医師として医療者として真摯に患者に手を当て続けることが最も重要であることを忘れてはならない。
 改めて、今回の講演の場を提供していただいた、下山均先生ならびに協会の皆さまに感謝いたします。
※編集部注 シームレス:継ぎ目のないこと

図 CG動画【IC動画HD】
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