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学術・研究

医科2014.08.05 講演

iPS細胞を用いた筋ジストロフィーの治療研究 [第46回総会記念講演より]

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)臨床応用研究部門 講師  櫻井 英俊先生講演

 人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)は、体細胞に特定の遺伝子を導入、発現させることにより、胚性幹細胞(Embryonic stem cells;ES細胞)と同等の能力を持つようになった多能性幹細胞である。これらの多能性幹細胞は、高い増殖力があり、理論上あらゆる体細胞へ分化することが可能であるため、細胞移植治療のソースとして期待されている。iPS細胞はES細胞に比べ、(1)患者自身の細胞から作り出すことができるため、拒絶反応が回避できる、(2)受精卵を破壊しないため、倫理的な問題が少ない、といった利点があり、脊髄損傷やⅠ型糖尿病など多くの難治性疾患に対するiPS細胞を用いた細胞移植治療研究が進展している。またiPS細胞は、難病患者本人から作製可能であることにより、当初期待されていた拒絶反応回避による再生医療の進展もさることながら、難治性疾患患者由来のiPS細胞を特定の細胞種へ分化誘導し、試験管内で病態を再現することで、難病の病態解析や薬剤の開発、スクリーニングへの応用がより現実的に期待されている(図1)。
 われわれの研究室では特に難治性筋疾患について、iPS細胞を活用した新規治療法開発研究を行っている。治療戦略としては大きく二つあり、一つは筋再生能力を持った細胞を作製する再生医療研究、もう一つは患者由来iPS細胞を活用した病態解明・創薬研究である。
 まず細胞移植での難治性筋疾患治療研究では、骨格筋の幹細胞(筋サテライト細胞)を使った移植治療法が筋ジストロフィーマウスに対して有効であることが示されている(図2)。このサテライト細胞の機能に注目し、1990年代に北米で父親の骨格筋からサテライト細胞を分離し患児に移植するという臨床研究が行われた。しかしながら、サテライト細胞を分離し培養して増殖させている間に、サテライト細胞は幹細胞としての能力を保持できなくなり、筋再生能力は極めて限定的なものになってしまうことが分かった。マウス実験においては成体から分離したばかりのサテライト細胞を移植することができたが、人間の成体からサテライト細胞を十分量取り出すことは不可能であるため、われわれはiPS細胞から筋サテライト細胞と同じ能力を持った細胞を作り出すことを研究している。われわれも含め世界でもまだ完全に成功したといえる報告はないが、現在は成熟した筋細胞が生み出される過程のどこかに、幹細胞の能力を持つ細胞がいるのではないかと考え研究を行っている。
 またiPS細胞の利点には拒絶反応の回避があるが、遺伝性疾患患者のiPS細胞はその遺伝子変異を引き継ぐため、そのままでは治療に使用できない。遺伝子修復による患者細胞の正常化も研究が進んでいるが、患者あたりのコストを考えると現時点では現実的ではない。そこで、拒絶反応の少ない他家移植の応用をめざし、HLAホモの健常人ドナーよりiPS細胞をストックしておく「再生医療用iPS細胞ストック事業」が昨年度より開始された。
 次に創薬研究の例としては、遺伝子治療薬の開発に応用できるのではないかと考えている。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は原因遺伝子ジストロフィンの変異により筋の進行性の退行変性・壊死をきたし、重篤な筋力低下を招く。このジストロフィン蛋白の発現を回復させるエクソンスキッピングという遺伝子治療法が開発され、現在治験が進んでいる。われわれはDMD患者本人のiPS細胞を用いて、エクソンスキッピング製剤の有効性を確かめることに成功した。患者由来iPS細胞が有効な治療薬の選定に活用できるのではないかと考え、共同研究を進めている。
 最後に病態解明研究では、三好型ミオパチー患者由来のiPS細胞を用いて、膜修復の遅延という病態を再現することに成功した。この結果を受けて、現在は治療薬をスクリーニングする方法を開発している(図3)。また、日本科学技術振興財団からの委託事業である「疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」事業において骨格筋分野を担当しており、いくつかの難治性筋疾患について患者由来iPS細胞を活用し、創薬をめざした共同研究を進めている。その対象疾患以外にも、特に先天性ミオパチーの中には、原因の遺伝子は明らかになっているものの、なぜ筋力低下をきたすのか病態が分からない疾患が多く存在するため、病態解明をめざし患者由来iPS細胞を樹立している。これらの患者由来iPS細胞を、研究開発のリソースとして誰もが利用できる環境整備をめざし、理研に付置されたバイオリソースセンターにおいてバンク事業を進めている。
 われわれは、以上のような戦略で、現在も治療法が開発されていない難治性筋疾患に対して新規治療法を開発することをめざし、今後も研究に取り組んでゆく。

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