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[保険診療のてびき] 2型糖尿病治療の展開〜turning symptoms into therapy〜

神戸大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌内科学部門 助教 坂口 一彦先生講演

 糖尿病の患者数は全世界的に爆発的に増え続け、2035年には5億9200万人になるとIDF(国際糖尿病連合)は予想している。日本においても2012年の国民健康・栄養調査においては糖尿病予備軍と考えられる人は約1100万人と若干の低下を認めるものの、糖尿病の疑いが強いとされる人は950万人とまだ増え続けている。糖尿病は今や国民病ともいえる存在であり、専門医のみで診療できるレベルではない。医師は専門を問わず、糖尿病をもった患者さんを診ないわけにはいかない状況である。
 近年の糖尿病に対する大きな変革は、単純にHbA1cを下げれば良いというわけではないこと、また、患者さんに応じて治療目標を個別に考える必要があるという点ではないかと考える。
 したがって、「誤った治療をすれば、HbA1cは下がっても患者さんに死亡という最大の不利益をもたらす可能性がある」とともに、「一人ひとりが違う糖尿病を持っているため、薬剤の選択にあたっても適材適所という考えが必要」であると言える。
 一方、医学の進歩は著しく、米国の糖尿病学者であるDeFronzo先生が1980年代末にLilly賞を受賞した際の講演では、2型糖尿病は肝臓と膵臓と筋肉の3人の役者の協調作業が乱れている状態である、としていた。しかし、2000年代に入り、Banting賞を受賞された際の講演では2型糖尿病を構成する役者は3人から8人に増えたとしている。消化管から分泌されるインクレチン、脂肪細胞から放出される遊離脂肪酸、膵臓のα細胞から出るグルカゴン、自律神経系を含む神経伝達物質、そして尿細管におけるブドウ糖の再吸収の亢進である。
 健常人においてはブドウ糖は1日約180gが腎臓の糸球体において濾過され、直ちに近位尿細管において180gが回収されるというメカニズムで、血糖の恒常性維持に関わっている。この尿細管におけるブドウ糖の回収に関係するのがSGLT2である(図1)。濾過されたブドウ糖の方が回収されるブドウ糖よりも多ければ、尿糖排出ということになる。腎臓は水分や電解質などをいったんは大量に糸球体を通して(原尿と呼ばれる)、糸球体で再吸収や分泌をすることで水分や電解質の微調整をしている臓器である。一見無駄に思えるこの機序だが、生体のホメオスターシスには極めて重要である。血糖の恒常性維持に関しても、血糖が上昇したときにインスリンの作用とは無関係に、尿にブドウ糖を排出するという機構(見方をかえれば上がった血糖がインスリンの助けを借りずに自らを元に戻そうというメカニズムともとれる)はいわば最後の砦のようなイメージを抱かせる。
 しかしながら糖尿病の患者においてはSGLT2の発現が増えており、その機能も亢進していると報告されている。上がった血糖を下げにくくする方向に向かうことになり、ここにも悪循環が存在することになる。
 SGLT2を阻害する薬は、尿糖を増やすことによって血糖を下げる薬剤である。尿糖を増やすことにより、体重減少効果も期待され、またブドウ糖毒性の解除によりインスリンの感受性の改善も期待できる。その結果、脂質や尿酸、血圧も改善するというデータが多い。
 しかしながら、インスリン作用を介さず血糖を下げるということは、特に投薬初期にはインスリン作用を増強しないことを意味する。従来の薬がインスリンの分泌を促進したり、インスリンの感受性を増強したり、インスリンと血糖のピークを合わせるように調整したりといずれもインスリン作用の増強により血糖を下げていたのに対して、SGLT2阻害薬が大きく異なる点である。インスリンは血糖を下げること以外にタンパク質の同化にも関係しているため、特に筋肉量の少ない高齢者においてはSGLT2阻害薬の使用には注意が必要である。また尿糖が増加することにより、尿路や性器感染症の増加や悪化が懸念される。尿量増加に伴う頻尿、口渇、脱水などの可能性もある。実験動物においては薬剤の開始後、摂餌量が増えたとも報告されているため、食欲に対する影響もあるかもしれない。
 さらに海外を中心にすでに発表されているデータをみると、SGLT2阻害薬は単純に糖の排泄量を増やすだけではなく、投薬を期に体内の血糖を維持する種々の機構が変化するようである。血糖を下げようとする力と逆に血糖を上げようとする力の総体として、患者さんにおいては血糖が下がるものとの理解が得られつつある(図2、図3)。
 新薬の登場により、人体に備わった新たな血糖の恒常性維持機構が明らかになるかもしれない。
(6月14日 薬科部研究会より)


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