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学術・研究

医科2014.11.02 講演

咽頭の視診所見でインフルエンザを診断する [診内研より476] (2014年11月2日)

内科宮本医院(茨城県桜川市)  宮本 昭彦先生講演

 インフルエンザを咽頭の視診で診断できる、というお話をしますと、最初は10人中9人、いや20人中19人の方が、「ウソでしょう!」という反応をされます。
 YahooやGoogleで、「インフルエンザ」「濾胞」のキーワードで検索していただくと私の発表以外に、たくさんの先生の反応が出ています。一人の新人ドクターのブログをご紹介します。
 「咽頭後壁のリンパ濾胞を確認すれば、それはすなわちインフルエンザ! インフルエンザの迅速キットよりも感度・特異度ともに優秀!!−周りの1年生がみんな噂していたんだけれど、『ほんとかよ〜うさんくせぇ〜』と思って聞き流していたんだけれども。2回ほど前の当直から、意識して発熱外来患者の口腔内の咽頭後壁のリンパ濾胞に注目して、結果どうだったかを追っていくと...こいつの威力を実感したんだよ!! ほんとに当たる!! 発熱外来で、リンパ濾胞が確認できた人の迅速キットHit率と、リンパ濾胞が確認できなかった人の迅速キットHit率は、体感的にも歴然だった。噂と合わせても、これはリアルだと信じざるを得ない」
 医師が身体所見を取って診察するようになったのは約2400年前からといわれています。ヒポクラテスもインフルエンザに相当する疾患の記録を残しているので、ヒトとインフルエンザの関係は2400年以上ということになります。
 インフルエンザは、欧米では、少なくとも2009年のパンデミック以前は、アセトアミノフェンを飲んで家で寝ていなさいと、言われる病気でした。医師が、インフルエンザの患者さんの咽頭を診察するということ自体がなかったのかもしれません。Harrison内科書、Nelson小児科学、その他有名な、どの教科書にも「インフルエンザに特徴的な臨床所見はない」と記載されています。
 私は1989年に開業しましたが、それ以前の大学病院勤務中は、感染初期のインフルエンザを診たことはありませんでした。開業した途端に、一冬に100人近いインフルエンザ患者さんを診ることになりました。1999年にインフルエンザ迅速検査キットが登場しましたが、A型のみであり感度も低く満足できるものではありませんでした。すぐ後にA・B型同時検査キットが発売されました。2001年の流行は春まで続き、キット自体が品切れとなりました。
 「麻疹のKoplik斑のように、インフルエンザに特徴的な所見はないものなのだろうか?」という強い疑問を持ち続けました。1998年、咽頭の後壁に「イクラ」のような2㎜ほどの大きさの透明感のある濾胞があることに気づき、2004年に、忘れられない「インフルエンザ濾胞の典型例」に遭遇し、世界で初めて「インフルエンザ濾胞」をデジタル画像に記録することに成功しました。研究を始めてから、比較的早期に、幸運にも「インフルエンザ濾胞」の典型例に遭遇したことが「確信」へとつながりました。
 インフルエンザ濾胞は、国立国際医療センター:感染症内科:忽那賢志(くつなさとし)先生や、10月の診療内容向上研究会で講演をされた京都大学の山本舜悟先生など、多くの感染症専門医、臨床医によって確認されております。山本舜悟先生の著書「かぜ診療マニュアル:かぜとかぜにみえる重症疾患の見わけ方:日本医事新報社」134ページにも、小職と忽那賢志先生が記録された画像が紹介されております。
 山本舜悟先生は、この中で次のように述べられています。「著者は、この所見を知ってから、インフルエンザを疑う患者さんの咽頭後壁を観察すると確かに濾胞を発見できるようになりました。今までも目には入っていたのでしょうが、見ようとしないと見えないのだと実感したものです」
 今日から、先生方が、山本先生と同じ体験をされることになります。

1768_8.jpg 画像(1)

 上段の写真、口蓋垂の画面右下に、インフルエンザ濾胞をみとめます。大きさは3〜4ミリで、典型的なインフルエンザ濾胞と言えます。
 一方、上段の囗で囲んだ範囲を拡大したのが下段です。典型的なインフルエンザ濾胞が3ミリくらいの大きさであるのに対して、この濾胞は大きさが1ミリ程度で、インフルエンザ濾胞の「芽」と呼んでいるインフルエンザ濾胞の発生の初期段階です。
 このように、インフルエンザ濾胞と、インフルエンザ濾胞の「芽」:Influenza Follicle Budsが同時に見られるのは、非常に珍しいことです。
 まず、典型的な「インフルエンザ濾胞」を確実に診断できるよう、修練し、次に、インフルエンザ濾胞の芽を見つけられるようになると、宜しいと思います。


1768_9.jpg 画像(2)

 上記、画像(1)は、インフルエンザ濾胞の典型例と共に、画面の下部に、インフルエンザ濾胞の「芽」とも言える初期のインフルエンザ濾胞が、見られました。
 患者さんの意識の高まりと共に、発症(発熱など)から受診までの時間がどんどん短くなってきています。
 発熱から2時間、3時間、といった、発症超早期の症例では、これまでのインフルエンザ抗原迅速検査はほとんど役にたちません。しかし、インフルエンザ濾胞、インフルエンザ濾胞の「芽」は、発症から2時間程度の、超早期から発現しています。しかし、この画像は、近接撮影して拡大しているので、濾胞の芽が見えますが、実際には1㎜程度の大きさで、濾胞を探そうとすると、見つからないかもしれません。濾胞の頂点の光の反射を見つけてください。咽頭の診察に単光源のLED照明を使うのは、頂点の光の反射を見やすくするためです。


1768_10.jpg 画像(3)

 インフルエンザではない、発熱性疾患の咽頭粘膜所見です。大小、不揃いの濾胞が混在し、形も平坦でインフルエンザ濾胞の特徴のどれをとっても、当てはまらない、のがお分かりになると思います。
 この症例は、マイコプラズマで、発熱から8時間での受診です。
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