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今年のインフルエンザの季節を迎えるにあたって
〜インフルエンザと見間違えやすい疾患を含め〜 [特別研究会より]

神戸大学大学院医学研究科 微生物感染症学講座感染治療学分野(感染症内科)講師 大路  剛先生講演

インフルエンザウイルスの種類
 インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる感染症の総称である。
 インフルエンザウイルスは、1173年から1875年の間に2.4年ごとの間隔で299回ほどアウトブレイクを起こしている1)。近年の最大のアウトブレイクは、全世界で2100万人の死者を出した1918〜1919年の3波にわたるH1N1のアウトブレイクとされている2)
 インフルエンザウイルスはRNAウイルスでOrthomyxoviridae familyに属する。A、B、Cの3種類に分類され、A型は人、豚、馬、鳥、海洋ほ乳類が宿主になり、B、Cは人のみで増殖できる。A型はさらにhemagglutinin (H or HA)とneuraminidase (N or NA)活性で分類される。人類ではA型のみが大流行の原因になり、B型は、高齢者および、高リスク患者で問題となる。C型は軽い症状のみとされる。
 また流行のパターンとして、非熱帯地域ではA、Bは季節性があり、Cはない。大切なのはA、Bとも熱帯地方では季節性があまりない。
 通常のインフルエンザではH3N2が最も死亡に寄与しており、H1N1とB型インフルエンザがそれに次ぐ。いずれの株においても、主に小児と高齢者で重症化しやすいとされる傾向は同様である。
 2009年以来、世界中でH1N1pdm株も季節性インフルエンザとして流行している。
ウイルスの変異
 インフルエンザは常に抗原変化を起こしているため、毎年エピデミックを起こし、時にパンデミックを起こす。変異はおもに外膜糖タンパクのHAとNAが起こす。抗原変化にはAntigenic drift(小さな抗原性の変化)とAntigenic shift(大きな抗原性の変化)がある。Antigenic driftはインフルエンザウイルスのHA、NAいずれでも起こり、またA型、B型、C型のいずれでもおこる。A型ウイルスのHA部分の五つの抗原部分の一つ以上の変異によって抗体に認識されなくなり、再度流行すると考えられている。NA部分のAntigenic driftはよく分かっていない。Antigenic shiftはA型インフルエンザのみで起こり、従来のインフルエンザのHA部分と抗原が大きく異なる株が出現する。すなわち、集団免疫が全くない状態であり、パンデミックの原因になる。
鳥インフルエンザの感染の特徴
 前述のように、インフルエンザは鳥も宿主になる。この中で、高病原性鳥インフルエンザH5N1によるいわゆる鳥インフルエンザが東アジアで大きな問題となっている。病気の鳥との濃厚な接触が大半で、闘鶏での鳥との接触や生のアヒル血を飲んでの感染なども報告されている。また動物園で、餌として鳥をトラなどに与える際に感染した症例報告もある。人−人感染は非常に密接なコンタクトであるかもしれないとされている。
 感染者の年齢層は若年から高齢までさまざまである。H5N1の感染患者では特に特異的な症状はなく、上気道症状、発熱などから始まる。嘔吐、下痢、歯肉出血、脳症なども認められる。多くの患者で肺に浸潤影を認める。リンパ球減少なども認められ、不良予後のサインとされる。
H5N1以外のインフルエンザウイルス
 H5N1以外にもH7N7、H7N3、H7N9やH9N2などの、インフルエンザウイルスの人への感染が報告されている。
 H7N7は、アザラシや鳥でのアウトブレイクが報告されているが、ヒトには結膜炎を起こす程度である。
 H7N3では、2004年の鳥でのアウトブレイクの際に、感染症例の報告があるが、やはり、ヒトには結膜炎を起こすのみとされる。
 H7N9は、2013年に中国から人への感染症例3症例が報告されており、87歳、27歳、35歳の男性の症例で、いずれも、肺炎からARDS、多臓器不全を来した。現時点で人−人感染はしないものと考えられている。
 H9N2は、1999年と2003年に香港から散発例の報告があり、鳥との接触で感染したと考えられている。これは軽い"インフルエンザ様症状"のみである。
インフルエンザの所見と治療
 インフルエンザの感染では、感染することで多くは上気道から肺に、気管支鏡でも見える程度の炎症を引き起こしている。病理像ではリンパ球がこれらの組織に浸潤していることが確認できる。同時に特に重症インフルエンザ肺炎では細菌性肺炎を合併することがあり、細菌性肺炎の治療を検討することも重症肺炎症例では必要である。
 治療薬としてはインフルエンザそのものに対する抗インフルエンザ薬の投与は、基礎疾患を有する患者などで推奨されているが、いまだハイリスク患者群においてノイラミニダーゼ阻害薬で死亡率を有意に下げるかどうかは、まだ結論はでていない。
 少なくとも、日常生活に早く復帰できるなどの健常人と同様のメリットは確認(ザナミビル)されている。
インフルエンザ様症状を取る疾患
 インフルエンザの診断では、病歴に加え迅速検査が手軽ではあるが、感度はそれほど高くはなく、陰性であっても否定しにくいことに注意が必要である。2012年のメタアナリシスでは、Pooled sensitivity:62.3%、Pooled specificity:98.2%(RT-PCRまたは培養をGold standard)であり、小児の方が成人より感度が良かったとされている(66.6%VS53.9%)。検体を採取する際には鼻咽頭からの検体の感度が優れるとする報告もある。
 臨床現場では、インフルエンザの流行季節であっても必ず、"インフルエンザ様症状"を取りうるリケッチア感染症、感染性心内膜炎や渡航後のマラリアなど、治療可能であり、重篤な感染症を見落とさないよう注意が必要である。
1)Hirsch A:Handbook of Geographical and Historical Pathology. 2nd ed 1883 New Syndenham Society London
2)Crosby AW:Epidemic and Peace, 1918. part IV 1976 Greenwood Press Westport, CT
(中見出しは編集部)

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