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[保険診療のてびき] 漢方診療の実際〜四診を駆使する〜

大阪府・三谷ファミリークリニック 院長 奈良県立医科大学 大和漢方医学薬学センター 三谷 和男先生講演

はじめに
1773_1.jpg  医者が患者さんを診る、ということはどういうことでしょう。私は患者さんを診察するとき、いろいろなお話をします。例えば、「今日は何時に起きましたか?」「毎日便は出てますか?」「昨日は仕事で無理したんとちがう?」等々。こういった何気ないお話が、実は大切なんです。患者さんの日常が、かなりはっきり浮かび上がって、その方の生活全体がイメージできるかどうかが漢方治療の第一歩なのです。
 例えば、カゼで患者さんが来られたとしましょう。「先生、からだがガタガタふるえて、頭が痛いんです」「たいへんやね。それはいつからなの?」「そうですねえ、昨日ぐらいからでしょうか」「ご飯食べてるの?」「食欲はあるんです」「そうですか、じゃあ、べーっと舌を出してください」「べーっ」...この方が、普段は体力のある人で働き盛り、そして仕事を休める可能性があるならば、葛根湯をお出しするだけで、まず大丈夫です。1〜2包飲むだけで、もうその日のうちに治っちゃいますね。ところが、です。確実に休養がとれるのであれば、葛根湯や麻黄湯といった桂枝・麻黄のおくすりを服用して、あっという間に治ってしまうことが多いのですが、みなさん、いかがですか。すぐに休めますか。「明日は仕事どうするの?」「もちろん行きますよ。そんなん、休めるくらいやったらここ(三谷ファミリークリニック)に来ませんよ」私はよく「休みなさい、養生しなさい」というので、「先生は、二言目には休め休めと言わはるけど、そんなん無理無理」よく患者さんに言われます。それはそうですね。しかし私は「休みなさいね」とお話ししたときの患者さんの表情をみて「休める人、休めない人、強く説得すれば休める人」を判断しています。休めない人は、どうしても不養生になりますから、桂枝・麻黄のおくすりに、小柴胡湯に代表される柴胡剤を併用していきます。「休まんとあかんよ」というのは、「休めへんかったら治らへんで!」というおどしじゃないんです。その患者さんに適切な薬方が、こういったやりとりで考えられるのですね。ここではもちろん、ニコニコとしてお話ししないといけません。こわーい表情で「休め!」じゃだめなんです。ちょっと強く説得すれば休めそうな人だけに、わざと眉間にしわ寄せて「しっかり休みなさいね」とお話しています。
 それでは、漢方医療の四診(望、聞、問、切)についてお話しします。
【望診】
1773_2.jpg  漢方的診断は、望、聞、問、切の四診を用い、総合的に判断して「証」を決めます。望診は視覚によって観察するわけで、西洋医学のINSPECTIONに相当しますが「望ンデ之ヲ知ルヲ神トイウ」とありますように、観察力の鋭さが、医術には大切であると考えられています。また、「病、内ニ在レバ、応、外ニ表ル」といわれるように、体表の観察から患者さんの病状を理解します。
 望診は、神、色、形、態に分けて考えます。神は、精神、神気、神志などを意味し、色調と形態を含んだ総合的な印象です。中国の古典である黄帝内経・霊枢に「神気ヲ失フモノハ死シ、神気ヲ得ルモノハ生キル」と書かれています。血液検査のデータが少々悪くても、神気があれば予後は良好と考えてよいでしょう。しかし、神気が虚している状態では、次第に病状は悪化してゆくわけです。
 色は色調(血色)、光沢、栄養状態などの観察で、漢方の代表的な病理観である瘀血症とか虚寒証を判断します。形と態は、「かたち」と「働き」という意味で相互関係にあります。患者さんと向き合った時、私の方をしっかりみつめ、からだの動きがよい状態であれば、治りやすいと考えます。しかし、私の方をみることも億劫がっているようでは、治療に難渋します。西洋医学においても、歴史的にチフス様顔貌、テクヌス顔貌、ヒボクラテス顔貌といわれるように、くわしい観察があり、これらの所見は今でもある程度参考になります。
 しかし、漢方では視(目を止めてみつめる)診といわずに望(つま立ちをして遠くを望む)診としている意味を考えておく必要があります。古く、「霊気を望んでその妖祥(ようしょう)をみる」とか「望気によって敵情を察する」といわれますように、単に目で見えるものを視る、観察する、だけでなく、目に見えないもの、つまり患者さんの背景にあるものを望視する、というわけです。
【聞診】
 聞診は、患者さんの声を聞き、臭気を嗅ぐことから病態を理解します。音声には言語、呼吸、咳嗽などがあり、感情の起伏と関係があります。楽しい時、悲しい時、それぞれの心のありかたによって変化しますが、一時的な怒りによる「急」声、うれしい時の「和」声などは病態と直接には関係しないと考えています。言葉を話したがらない、小さくて話がとだえる、前後の続きがはっきりしなくて、一つのことを二度も三度もくりかえす、こういった方は虚証と考えます。これに対して、言葉がはっきりとよく通り、積極的にお話される方は実証でしょう。
【問診】
 洋の東西を問わず診断学のなかで問診の占める比重は高くなっています。東洋医学の特徴は、現症(今の病状)の問診で、発熱、発汗、二便(大小便)、頭痛、食欲、口渇、口乾などについて、主訴と同時にくわしく聞くことが大切で、これらによって独特な陰陽虚実の病態を知ることができます。
【切診 脈診】
1773_3.jpg  切診には脈診と腹診があり、触診によって病態を知ります。
 まず脈診では、橈骨動脈の拍動を診ていくのですが、茎状突起部を関上の脈と呼び、その遠位を寸口、近位を尺中と区分、三脈を丁寧に観察します。漢方的に脈は、浮、沈、遅、数(さく)、滑、渋(じゅう)、虚、実、長、短、洪、微、緊、緩、弦、孔、革、牢、濡(なん)、弱、散、細、伏、動、促、結、代(たい)、疾の28脈があります。西洋医学的に脈を診る湯合は、まず脈拍数をみます。正常は毎分60〜100ですから、これより速い場合を頻脈、おそい場合が徐脈ですが、漢方では前者を数、後者を遅とよびます。リズムの不整には、洞性不整脈、期外収縮(上室性、心室性)、刺激伝導障害があり、これらは心電図によって鑑別しますが、陽証の不整脈を「促」、陰証の不整脈を「結」、期外収縮を「代」とよびます。
【切診 腹診】
1773_4.jpg  腹診は病態を把握する上で、日本漢方の場合、特に重視しています。従って内科疾患のみならず皮膚科、眼科、耳鼻科などの疾病でも腹診を行い、虚実を判断しています。西洋医学的には腹壁の緊張をとるため、わずかに股膝関節を曲げて触診することが多いのですが、漢方では一般に両下肢を伸ばした仰臥位で触診します。西洋医学では浅い触診(滑走触診)と深い触診を行いますが、漢方では主として浅い触診によって判断します。「内臓皮膚(体壁)反射」という考え方により、臓器の皮膚反応点、反応面を指頭感覚で把握します。古人は「外感(がいかん=急性熱性疾患)では脈を主にし、内傷(ないしょう=慢性消耗性疾患)は腹を主とする」と述べています。
 漢方的腹診のなかで特徴的な所見に「胸脇苦満」があります。肋骨弓下の抵抗で自覚的にもありますが、他覚的には肋骨弓下から指頭を胸腔内に圧迫した時に抵抗があり、このとき患者さんはちょっと苦痛を訴えます。柴胡剤の適応ですが、必ずしも肝臓や脾臓の腫脹とは比例しません。「心下痞鞭」は心窩部のつかえ感のことです。「心下痞」という場合は自覚症状ですが、痞鞭の方は他覚的に抵抗があります。腹直筋の緊張が下腹部にまでおよぶ場合は、拘攣とか裏急(りきゅう)とよび、虚証、陰証に表われることが多いです。「少腹不仁」「臍下不仁」といって下腹部に力がなく、フニャフニャとした場合は陰証と考えます。下腹部のS字状結腸を中心に抵抗のある場合が「少腹急結」で、これは瘀血(おけつ)の腹証です。「心下悸」「臍下悸」といわれますように、腹部大動脈の拍動を自覚したり触知する場合には黄連、茯苓、人参をそれぞれ主薬にする薬方を考えます。最後に「腹満」の判断ですが、お腹を診察した時に患者さんが痛みを訴えたり、その他腹水、炎症の有無、便通の状態によって陰陽、虚実を判断しますので、同じ病名でも薬方を異にします。
(2014年11月15日 薬科部漢方研究会より)
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