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糖尿病患者の日常診療において留意すべき皮膚疾患 [診内研より478]

昭和大学医学部皮膚科学講座  末木 博彦先生講演

はじめに
 糖尿病患者では皮膚も例外ではなく、直接的、間接的に全身的糖代謝異常の影響を受け、多彩な皮膚症状を生ずる。糖尿病専門外来に通院中の患者を対象に皮膚の検診を行なうと、60%以上の患者に何らかの皮膚疾患が見られる(母斑性疾患を除く)。糖尿病入院患者では皮膚疾患の合併頻度はさらに高く、足白癬のみでも74.1%に達する。
 近年、糖尿病診療にあたる専門医や一般内科医の間でも糖尿病患者の皮膚病変への関心が急速に高まってきている。この理由として、医療の進歩に伴う糖尿病罹病期間の長期化に伴い、糖尿病合併症の終着点ともいえる糖尿病性潰瘍・壊疽も増加し、下肢切断を余儀なくされる症例が多くなったことが一因と考えられる。
 本講演では、十分に解明されているとは言えないが、糖尿病患者の皮膚に生じている病態生理について若干の解説を加え、糖尿病潰瘍・壊疽をはじめとする種々の皮膚疾患との関連性についても言及したい。
皮膚のグリケーションと老化の亢進
 生体蛋白に糖が結合すると非酵素的に蛋白の糖化が生じ、これが蛋白の本来の機能を低下させる。著者らは皮膚のグリケーションを測定することにより、糖尿病に伴う皮膚疾患との関連性が明らかになるのではないかと考え、皮膚角層、爪などのグリケーションを測定したが、HbA1cと強い相関性がみられ、皮膚における特異性は見いだし得なかった。
 著者らは、各年齢層の下腿から角層細胞を採取し糖尿病患者と健常人を比較したところ、健常コントロールでは年齢に比例して角層細胞の増大すなわち表皮のターンオーバーが遅延するが、糖尿病患者では20歳代からすでに角層細胞の増大・ターンオーバーの遅延がみられた。核酸もグリケーションを受け、その寿命が長いためDNA鎖の断裂、修復、複製、転写などの障害を来すためと推測されている。
 糖尿病ヘアレスマウスでも表皮ターンオーバーの遅延、角層水分量や角層トリグリセリド量の減少がみられるが、セラミド、コレステロール、脂肪酸量は増加し、角層バリア機能は正常である。糖尿病における角層機能はヒトの高齢者皮膚の性状と共通しており、糖尿病患者の皮膚は老化亢進状態(accelerated aging)といえる。
糖尿病神経障害と皮膚

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図 糖尿病性水疱(第Ⅰ趾)と鶏眼(第Ⅱ趾)

 軽症の糖尿病でも10年以上続くと高頻度に神経障害を伴う。神経障害は運動神経障害、知覚神経障害、自律神経障害から成る。
 運動神経障害は、支配筋肉の筋力低下により足のバイオメカニクスにアンバランスが生じ、荷重が集中する部位に胼胝・潰瘍を形成する。知覚神経障害は外傷や感染に気づくのが遅れ、重症化することがある。自律神経障害としては発汗低下が特に足部・下腿に始まることが多い。水分保持能の低下と相まって足部は乾燥、角化、亀裂を生じ、潰瘍・壊疽への引き金にもなりうる。
 糖尿病性神経障害が関与する皮膚疾患として、前脛骨部色素斑(pigmented pretibial patches)、糖尿病性水疱、 verrucous skin lesions on the feet in diabetic neuropathy、糖尿病性潰瘍の一部などがある(図)。
糖尿病大血管障害と皮膚
 近年、動脈硬化の進行に伴う下肢虚血症例が増加している。糖尿病患者における動脈硬化症の特徴として、耐糖能異常・軽症糖尿病でも促進因子になる、非糖尿病患者より広範囲に血管閉塞を生ずる、多分節性でより末梢に生じやすいなどがある。
 末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)のうち、虚血性の安静時疼痛を示すもの(Fontaine分類Ⅲ度)もしくは虚血による潰瘍や壊疽を生じたもの(Fontaine分類Ⅳ度)を、重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)と呼ぶ。CLIは心筋虚血や脳梗塞など全身性の疾患であり、2年後には患者の3分の1が、5年後には2分の1が死に至る予後不良の疾患である。
 糖尿病性潰瘍・壊疽の診察にあたっては、最初に血流評価を確実に行う必要がある。足背動脈が十分に触知できればまず問題ないが、触知しない場合はレーザードップラー聴診、皮膚還流圧(skin perfusion pressure:SPP)やTaCO2測定を行う必要がある。
 下肢虚血が認められる場合は、カテーテル治療や外科的血行再建術により血流の改善を先行させる必要がある。重症下肢虚血のある患者では、陥入爪のテーピングやガター法・フェノール法などの爪形成術、デブリドマン、弾性ストッキングなどの軽微な刺激でも壊疽を生ずる引き金になりうるため、注意が必要である。
免疫機能異常と皮膚
 糖尿病患者においては、易感染性や感染を生じた場合の重症化が問題となる。糖尿病による好中球遊走能・貪食能の低下、マクロファージの機能低下、グリケーションによる免疫グロブリンの機能低下などの報告があるが、未解明の点も多い。
 壊死性筋膜炎による死亡例の解析でも、基礎疾患としては糖尿病が最も多い。壊死性筋膜炎とガス壊疽との鑑別は重要であり、XPやCTによるガス像のチェックが必須である。糖尿病性潰瘍が趾先部(特に第Ⅱ趾)に生ずると靴に当たって感染を生じやすく、皮膚直下に末節骨があるため容易に骨髄炎を生じやすく、趾切断に至るため特に注意を要する。
 足白癬の罹患率は糖尿病患者と非糖尿病患者で有意差はないが、爪白癬の罹患率は糖尿病患者で有意に高い。
おわりに
 皮膚病変は、糖尿病診断の契機となりうるばかりでなく、糖尿病神経障害や大血管障害を疑う契機ともなる。糖尿病潰瘍・壊疽の発症予防、早期発見・治療には、足の定期的診察が重要である。
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