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学術・研究

医科2015.03.25 講演

百聞は一見にしかず、動画で理解する"痙攣・不随意運動" [診内研より479]

財務省診療所長・横浜市立大学名誉教授・帝京大学医学部客員教授・日本自律神経学会理事長・東京都医学総合研究所理事 黒岩 義之先生講演

はじめに
 日常診療や救急の現場で、"痙攣・不随意運動"はコモンな症候である。例えば、てんかん重積、甲状腺中毒症の振戦、破傷風による牙関緊急、心呼吸停止後のミオクローヌス、薬物中毒による振戦・舞踏病・ジスキネジア、呼吸不全・肝不全・腎不全・薬物中毒によるアステリキス(羽ばたき振戦)、脳血管障害による振戦・片側舞踏病・口蓋振戦・ヘミバリスムなどがある。
 「筋肉の勝手な動き」の種類には、A)けいれん:錐体路系の興奮性障害(自動車に例えると、エンジン障害)、B)不随意運動:錐体外路系の調節障害(自動車に例えると、アクセル・ブレーキ障害)、C)スパスム:下位運動ニューロン系の障害(自動車に例えると、車輪障害)、D)深部感覚障害:脊髄後索系の障害(自動車に例えると、フィードバック障害)の四つに分類される(表1)。
診断のチェックポイント
1.大脳皮質神経細胞の過興奮による「痙攣」
(1)てんかん
 てんかんは大脳皮質神経細胞の広範な過興奮に由来し、全般発作と部分発作の二つがある(表2)。神経疾患の中でも頻度が高い(1000人に5〜10人)。何らかの脳疾患に起因する症候性てんかんであることが少なくないので、原因となる脳炎などの脳疾患を探索することが大切である。
 全般発作の場合は強直性・間代性の全身痙攣と意識消失を伴う。単純部分発作では意識障害がなく、顔面筋や上下肢の痙攣をみることが多い(これをジャクソンてんかんと呼ぶ)。単純部分発作が二次性全般化をきたすと、全般発作と区別がつかなくなる。特定の筋に限局し、かつ数秒に1回の頻度で痙攣が反復する場合は、単純部分発作の特殊な一型、持続性部分てんかんである。部分発作のうち複雑部分発作(側頭葉てんかん)の場合は、口をもぐもぐさせる口部自動症や恐怖発作がみられる。笑い発作を特徴とする笑いてんかんもある。
 全般発作では、バルプロ酸が第1選択薬である。部分発作では、カルバマゼピンが第1選択薬である(第2選択薬はバルプロ酸、フェニトイン)。
(2)ミオクローヌス
 ミオクローヌスとの原因疾患には低酸素脳症、プリオン病、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、麻疹ウイルス感染による亜急性硬化性全脳炎などがある。
 新生児の低酸素脳症は分娩1000例中1〜8例で起こる。一方、成人の低酸素脳症は医原性アナフィラキシー・ショックの後や心肺停止に対する蘇生後に起こる。
 プリオン病は急速に認知症が進行して、無言無動状態に至る致死的疾患である。有病率は100万人に1人前後であり、男女差はない。発病は50〜70歳代が多く、わが国のサーベイランス調査では孤発性が76.5%、遺伝性が19.0%、獲得性が3.9%である。
 オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群は小細胞肺癌、乳癌、小児の神経芽細胞腫の患者にみられる傍腫瘍症候群の一つであり、オプソクローヌス(急速、不随意、方向も水平および垂直を含んで不特定な眼球運動)、ミオクローヌス、小脳性運動失調を特徴とする。神経芽細胞腫に伴う本症候群は、年間1000万人に1人の割合で発生する(神経芽細胞腫を持つ小児の2〜3%)。
 亜急性硬化性全脳炎は麻疹による遅発性ウイルス感染症であり、発生頻度は10万人に1.7人である。潜伏期間は2〜10年である。
(3)破傷風
 日本では毎年、約100人が発症し、約5〜7人が死亡している。破傷風菌は土壌の嫌気性菌で、それが産生する神経毒素により痙攣が起こる。痙笑、開口障害、嚥下障害を特徴とする顔面筋痙攣を伴う。進行すると後弓反張、呼吸筋麻痺を起こし、致死率は約30%である。破傷風菌は創傷部位から浸入し、3〜21日の潜伏期間を経て発症する。
(4)狂犬病
 日本国内での狂犬病の発生はないが、海外で感染する可能性がある。海外では年間55000人が死亡している。狂犬病ウイルスの感染動物(主に犬)に咬まれたときに、唾液中のウイルスが傷口からヒト体内に侵入して感染する。狂犬病は恐水症・恐風症(水を見たり、冷たい風に当たると頚部の筋痙攣が起こる)を特徴とする顔面筋痙攣を伴う。他に高熱、錯乱、全身痙攣が起こる。

2.錐体外路系の機能異常による「不随意運動」
(1)振戦
 パーキンソン病、本態性振戦、甲状腺機能亢進症、多発性硬化症、脳血管障害などで見られる。
(2)舞踏病
 ハンチントン病、妊娠舞踏病、リウマチ熱による小舞踏病などがあり、しかめ顔を特徴とする。
(3)アテトーシス
 脳性まひなどで見られる。
(4)ジストニア
 全身性のジストニアとして体幹をねじらせる捻転ジストニアがある。局所的なジストニアとして、痙性斜頚、書痙、眼瞼攣縮(あるいはメージュ症候群)などがある。これらは大脳基底核の機能異常に由来するジストニアである(眼瞼攣縮を眼瞼痙攣と呼ぶのは正しくない)。眼瞼だけでなく、筋痙攣が口にも及ぶ場合は、眼瞼攣縮口下顎ジストニアと呼ぶ。開眼失行は眼瞼攣縮やメージュ症候群と間違えやすいが、異なる病態である。
(5)ジスキネジア
 口部や手足のジスキネジアは抗精神病薬の服用後などにあらわれる錐体外路系の機能異常である。
(6)ヘミバリスム
 一側の視床下核病変で、対側の手足に叩きつけるような激しい不随意運動が見られる。
(7)チック
 顔面チックやトゥレット症候群で見られる。

3."痙攣・不随意運動"に含まれない筋の自動収縮現象
(1)下位運動ニューロンの過興奮によるもの
(a)線維束性収縮
 筋萎縮性側索硬化症や球脊髄性筋萎縮症に見られる線維束性収縮は下位運動ニューロンの過興奮に由来する。
(b)片側顔面攣縮・ミオキミア
 片側顔面攣縮やミオキミアは末梢神経の末梢性過興奮に由来する。
(2)反射機構の異常に由来するもの
 把握反射、吸引反射、マイアーソン徴候、バビンスキー徴候などは反射機構の異常に由来するものであり、"痙攣・不随意運動"とは呼ばない。

緊急処置のチェックポイント
1.てんかん重積状態に伴う痙攣
 痙攣がてんかん重積状態の一症状として現れたときは迅速な対応をしないと重篤な脳機能障害を遺す。最初の緊急処置は静脈・気道の確保、酸素投与、塩酸チアミン100㎎静注、50%ブドウ糖50mL静注である。第1、第2選択薬はそれぞれジアゼパム10㎎静注、フェニトイン5〜20㎎/㎏静注である。ミダゾラム0.1〜0.3㎎/㎏やフェノバルビタール15〜20㎎/㎏の静注も有効である。静脈確保ができない場合はジアゼパム注射液10〜30㎎を注腸する。難治てんかん重積状態ではチオペンタール、プロポフォール、ミダゾラムなどを使用して、脳波モニター下で全身麻酔療法を行う。

2.感染性脳炎に伴う痙攣
 破傷風、狂犬病、日本脳炎などに伴う痙攣である。破傷風における最初の緊急処置は感染部位の十分な洗浄、デブリードマンである。破傷風毒素を特異的に中和する抗破傷風ヒト免疫グロブリン(1500〜3000単位/回)の投与が治療の要である。なるべく発症初期に投与することが望ましいので、早期診断が重要である。集中治療室などで呼吸・血圧の管理を行いながら抗菌薬、抗痙攣薬を投与する。
 海外、特に東南アジアで狂犬病が疑われるイヌ、ネコなどにかまれた場合、最初の緊急処置は傷口を石鹸と水でよく洗い流すことである。できるだけ早期に狂犬病ワクチンと抗狂犬病ガンマグロブリンを投与する。狂犬病が発症すると致死率はほぼ100%である。狂犬病はいったん発症すれば特異的治療法はない。

3.脳出血急性期に伴う不随意運動
 視床下核の出血により、ヘミバリスムが起きたような場合は、脳卒中急性期の救急処置を必要とする。

4.リウマチ熱による小舞踏病
 心臓弁膜症を合併する可能性があるので、速やかな診断・治療が求められる。

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