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学術・研究

医科

こころを診る技術
−面接や問診で重視すべきこと−[診内研より481]

北里大学医学部 精神科 主任教授 北里大学東病院 副院長(現・院長) 宮岡  等先生講演

1.はじめに
 精神科医による向精神薬の多剤大量処方や、プライマリケア医や身体各科の医師の睡眠薬や抗うつ薬の安易な処方が問題になっている。本講演では向精神薬を用いる前に行うべき面接の方法や内容について概説した。
2.不十分な問診から医療面接へ
 医師の面接が患者から十分な情報を聞き出せていない、感情面への対応ができていないなどの理由から、近年、医学部の学生教育の中に医療面接が取り入れられ、実技試験も課せられている。面接は、医師の個性や患者ごとの差が大きいため、「良い、悪い」の評価が難しいとされてきたが、医療面接では採点基準が設けられている。医療面接試験を受けてきた世代の面接をみていると、古い世代の医師よりも安心して聞ける場合が少なくない。
3.基本的な面接技法
 面接方法の基本として筆者が特に重要と考えているのは「傾聴と受容」と「共感」である。研究者によって定義にばらつきがあるが、「相手(患者)に関心をもち、言葉から相手の気持ちや考えを知ろうとしながら聞くこと」と理解してよいであろう。「相手に関心をもち、知ろうとしている」という姿勢を伝えるためにも、相づちや確認は不可欠である。
 さらに医師から共感を示すことが必要であり、共感とは「自分にはあなたと同じ状況に置かれた経験はないが、もし置かれたとしたら感じるであろう気持ちを言葉にして相手に伝えること」と考えられる。共感が適切であれば、相手は受容されたと感じるであろう。
 その他にも医療面接でしばしばとりあげられる重要な面接技法として、「Closed questionsとOpen questionsを適切に組み合わせる」、「要約を述べる」「解釈モデルを尋ねる」、「分かりにくい言葉を用いない」などがある。
4.精神症状から精神疾患の診断を導く考え方
 精神症状は通常、意識、知的機能、知覚、思考、感情、意志・欲動、その他(不安、強迫など)に分けて評価する。主訴ではない精神症状を見落とさないためにあらゆる精神面の特性について評価することは、身体疾患における身体現在症(全身の診察)に相当する。
 次にこれをもとに一定の手順で身体疾患や薬物による精神症状、統合失調症、躁うつ病、うつ病、不安障害などを鑑別する。「ストレスがあるから、ゆううつになっているのだろう」などという「素人的判断」は避けなければならない。
5.Shared Decision Making
 面接の背景にある患者医師関係の考え方として、かつては医師が方針を決めて一方的に患者に伝えるというパターナリスティック・モデルがあった。その後のインフォームド・コンセントは、「医師が患者に情報を伝えて、患者が決定する」と理解されることがある。最近は、簡略化すれば「患者と情報を共有して、一緒に方針を決める」ともいうべきShared decision makingが注目されている。治療complianceに代わってadherenceという言葉を用いるのも、患者医師関係の考え方の変化であろう。面接技法は患者医師関係のあるべき姿を頭に置いて修正していく必要がある。
6.うつ状態・軽度意識障害・軽症認知症
 症状のとらえ方として強調したいのはうつ状態、軽度意識障害、軽症認知症の適切な鑑別である。「うつ状態が認知症と誤診されて適切に治療されていない」、「低ナトリウム血症や薬剤に起因するぼーっとした状態(軽度意識障害)がうつ状態と誤診されて抗うつ薬を処方され、意識障害が増悪する」などの症例はしばしば経験する。適切なスクリーニング検査を実施し、必要によっては早めに専門家に依頼した方がよい。
 最近、うつ病や認知症に関する講習会が各地で開催されている。ある疾患の知識を得ると、医師はその疾患を第一に考えやすい。ある精神疾患の診断に最も重要なのは、それ以外の精神疾患の十分な知識をもち、適切な鑑別ができることである。これは身体疾患でも同様であろう。
7.不眠、抑うつ、身体愁訴への対応の基本
 不眠、うつ、身体愁訴では十分な問診や非薬物的対応なしに、安易に睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬が処方される場合がある。例えば不眠であれば、実際の睡眠状況や睡眠環境を確認し、不眠を呈する多くの疾患の鑑別を考え、その診断に応じた治療を行う必要がある。抑うつや身体愁訴でも同様である。
 また効果があると言われることの多い抗うつ薬や抗認知症薬では、実際に臨床試験データをみると、統計学的に有意な差はあってもわずかであり、本当に臨床で用いるべきか迷うことが少なくない。
8.製薬企業のパンフレットは元データを確認する
 薬剤に関する製薬企業のパンフレットは、グラフの作り方や色の使い方などから、効果が過度に強調されていることが多い。もし不適切に信じると、臨床上、プラスマイナスゼロに止まらずマイナスが大きくなることもある。必ず元の論文やPMDA(医薬品医療機器総合機構)のホームページにある治験データを確認し、論文の場合はその論文の利益相反まで評価しておくべきであろう。
9.エチゾラム(デパス)を安易に処方しない
 エチゾラム(デパス)は、乱用や依存が多いわりに安易に処方されている薬剤である。処方する場合は添付文書をもとに、患者に対してリスク・ベネフィットを十分に説明してほしい。
10.おわりに
 精神面への対応において筆者が重要と考えることを述べた。抄録という性質上、要点のみ記載したが、詳細は拙著『こころを診る技術』(医学書院、2014年6月)を参照いただければと思う。
(3月28日講演)
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