兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2015.04.18 講演

[保険診療のてびき] 医師であれば必ず遭遇する多彩な薬疹の診断と治療、再発予防について

兵庫県立加古川医療センター地域医療連携部長兼診療部皮膚科部長 足立 厚子先生講演

A.薬疹の臨床型
1)遅延型薬疹
 (1)播種状紅斑丘疹型:薬疹の約3分の1を占める。ウイルス感染により生じる皮疹との鑑別が困難で、麻疹型とも呼ばれる。
 (2)多形滲出性紅斑型(多形紅斑型):辺縁がわずかに隆起し、中央部は色淡くやや陥凹するターゲット型と呼ばれる紅斑。薬剤もしくは感染症が原因である。
 (3)スティブンス・ジョンソン症候群(SJS):粘膜病変・全身症状を伴う多形滲出性紅斑の重症型タイプ。粘膜癒着、視力障害など後遺症を残す場合があり、迅速な対応が必要。
 (4)中毒性表皮壊死症候群(TEN):原因薬剤摂取後、高熱・皮膚灼熱感とともにびまん性紅斑が生じ、2〜3日以内に皮疹部が水疱化をきたし、広範囲熱傷のようなべろりと皮がむけたびらん面を生じる。予後不良の場合がある。総合感冒薬なども原因薬となる。
 (5)固定薬疹型(図1):口唇や外陰部などの皮膚粘膜移行部や四肢などの特定の部位に、境界明瞭な貨幣〜手掌大の円形の紅斑を生じ、通常色素沈着を残して治癒する。(総合感冒薬・鎮痛剤・フェノバール)
 (6)光線過敏型(図2):薬剤服用後に紫外線照射を受けることによって、露出部に限局して皮疹を生じる。糖尿病薬、降圧剤(サイアザイド)、高脂血症薬、抗菌剤(ニューキノロン)
 (7)扁平苔癬型:薬剤を比較的長期服用継続後にも発症する。淡紅色ないし紫紅色の表面光沢を有した丘疹が集簇ないし融合して、局面を形成する。原因薬剤を中止しても治癒は遷延化する。降圧剤が多い。
 (8)薬剤性過敏症候群(DIHS):限られた薬剤投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑。多くの場合、紅皮症に移行する。原因薬剤中止後も2週間以上症状が遷延する。38℃以上の発熱、肝機能障害、リンパ節腫脹、異型リンパ球出現を伴うことが多くHHV-6ウイルスの再活性化が原因と言われている。起こしやすい薬は抗けいれん剤、痛風の薬、サルファ剤などである。

2)即時型薬疹
 (1)蕁麻疹型薬疹・アナフィラキシー型:通常、IgE抗体が関与した即時型アレルギー反応により発症。症状が重篤な場合には、血圧低下・呼吸困難・意識消失などのアナフィラキシー症状を伴うこともあるため、厳重な注意を要する。
B.薬疹の治療
 まずは疑わしい薬剤の中止が必要である。
 遅延型薬疹では軽症の場合ステロイド外用、抗アレルギー剤内服で軽快することが多く、DIHS、SJS、TENなどの重症例では入院の上ステロイド内服、パルス療法、免疫グロブリン大量投与などを要する場合が多い。
 即時型薬疹は疑わしい薬剤中止の上、軽症例では抗アレルギー剤内服や補液のみで軽快することが多いが、ショックなど重症例ではエピネフリン皮下投与などが必要な場合がある。
C.原因薬追究のための検査
 薬疹治癒後に再発予防のため原因薬追究のための検査を勧める。対象は薬疹発症の10日前までに使用した薬剤、漢方薬、サプリメントなどである。総合感冒薬などでは成分まで検査をする。可能であれば代替薬を提案する。

1)遅延型アレルギーによる遅延型薬疹
 採血による、薬剤によるリンパ球刺激試験(DLST)が保険適用となったが偽陰性、偽陽性が多く、これのみで判定は危険である。
 (1)皮膚テスト:内服薬では薬剤をすりつぶし同量のワセリンでといて、パッチテスト用絆創膏で上背部または上腕に48時間閉鎖し、剥がした30分後と翌日すなわち72時間後に判定する。注射薬は生食で使用濃度に溶いたパッチテストと、1%濃度の皮内テストをし、24時間後に判定し、直径5㎜以上の紅斑を診た場合陽性とする。
 (2)再投与テストは、軽症例では常用量1回投与で安全に施行できる場合が多いが、重症化が心配される症例では、100分の1,10分の1など少量から開始し、翌日増量していく。
 腎障害、肝障害、粘膜障害が激しい場合では、内服テストをせずに、皮膚テストやDLSTの結果をもって判定する場合もある。

2)光線過敏型薬疹
 光線過敏型薬疹は内服後紫外線を浴びることで露光部位を中心として発疹が出現する。皮膚テストでは同じものを2列パッチテストし、翌日全て剥がし、1列はそのまま、1列はUVA(紫外線A波)のMPD(最小光毒量)の半分量をあて、翌日もしくは2日後に判定する光パッチテストをする。
 光内服テストは薬を内服2時間後の光線テストで最小紅斑量の閾値が、内服していない時に比べて短縮していれば陽性となる。

3)固定薬疹
 固定薬疹は発疹後の色素沈着部のみパッチテスト陽性、正常部は陰性という特徴があるので、両方にパッチテストをする。パッチテストが陰性の場合、内服テストを行うが、誘発を繰り返すたびに発疹の範囲や数が増加することがあり、疑わしい場合には少量から始めた方が安全である。

4)蕁麻疹・血管浮腫・アナフィラキシーショックなど薬剤特異的IgEによる即時型の場合
 皮膚テスト:アナフィラキシーなど重症例では、濃度の薄いものから順番に前腕に滴下し、プリック用ランセットで出血しない程度につつくプリックテスト、注射針で数㎜掻破するスクラッチテストをし、判定は15分後に膨疹径5㎜以上または発赤径15㎜以上、あるいは生食などの陰性コントロールの2倍以上の膨疹径を認めた場合陽性とする。注射薬でプリックテスト陰性ならば0.02ml皮内テストをして、15分後に判定する。15分後に直径9㎜以上の膨疹または20㎜以上の紅斑を診た場合陽性。
 再投与テスト:皮膚テストが陰性の場合に行う。症状が激しい場合にはルート確保し、救急対応の準備を整えた上で100分の1から開始し、10分の1,3分の1と増やす。
 アスピリンなど酸性系解熱鎮痛剤による蕁麻疹は、IgEを介したアレルギー反応ではなく、主として薬の作用機序の個人差による不耐症が原因となる。この場合皮膚テストは陰性で、内服テストの場合、通常の即時型のような1時間以内ではなく、数時間後に誘発されることが多いので注意が必要である。
(4月18日 姫路・西播支部「他科を知る会」より)
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