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学術・研究

医科2015.05.25 講演

明日から使える夜尿症診療のテクニック[診内研より480]

順天堂大学医学部附属練馬病院 小児科 先任准教授  大友 義之先生講演

病 態
・夜尿症は、世界共通で「5歳を過ぎて週に2回以上の頻度で、少なくとも3カ月以上連続して夜間睡眠中の尿失禁を認めるもの」と定義されている。
・夜尿症の有病率は5歳児で20%であり、その後1年ごとに15%ずつ自然治癒していくが、0.5%程度は成人までキャリーオーバーする。
・生来持続する1次性と、6カ月以上夜尿がない期間を経て再燃した2次性に分けられるが、後者では、心因性(家庭や学校などでの諸問題)、後天性疾患の発症(脳・脊髄疾患、糖尿病など)を考慮する。
・夜尿のみの単一症候性と、夜尿に加えて昼間の症状(尿失禁、頻尿、尿意切迫感など)を伴う非単一症候性に区別されるが、後者では、泌尿器科的疾患(尿路奇形、尿路結石など)、代謝・内分泌疾患(糖尿病、尿崩症など)、脊髄疾患(潜在性二分脊椎など)、発達障害(ADHDなど)、心理的要因などの合併の頻度が高い。
・大多数を占める、単一症候性夜尿症の病因は、「遺伝的素因を基盤に、尿意による覚醒障害に加えて、夜間多尿、排尿筋の過活動のいずれか、または両者による夜間尿量と就寝中の膀胱容量のミスマッチ」とされている。
・夜尿症の児の95%以上は夜尿を呈する器質的疾患を有さないが、5%未満で泌尿器科的疾患(尿路奇形、尿路結石など)、代謝・内分泌疾患(糖尿病、尿崩症など)、脊髄疾患(潜在性二分脊椎など)、発達障害(ADHDなど)が存在している。
治療方針
・一般的には6歳以上が治療の対象となる。
・詳細な問診(尿漏れや排尿の状況、昼間遺尿・多飲多尿・頻尿・排尿時痛・切迫性排尿の有無など)、診察(潜在性二分脊椎の存在を示唆する腰背部の凹みの有無、便秘など)、尿検査を行って、5%未満の頻度で見られる基質的疾患の存在を見落とさない。
・夜尿が持続することは、両親の離別・争いに次ぐ、小児期の精神的なトラウマの原因となる(学校でのいじめ、はその次)という報告があり、積極的な治療介入により児や家族のQOLの改善が期待される。
・最新の診療情報や診療支援の資料がhttp://onesho.comより得ることができる。
Ⓐ生活指導
・就寝2時間以内の水分・塩分制限は必須である。夕方以降の飲水量は10ml/㎏以下に抑える。就寝前に完全に排尿をさせる習慣をつけさせる。
・1週間以上の排尿記録を作成してもらう。おむつに漏れた尿の重さと起床時の尿量の合計が夜間尿量であり、0.9ml/㎏体重/hr(睡眠時間)(最大量250ml)を超える場合には夜間多尿と判断する。一方、昼間に可能な限り排尿を我慢させて尿量を測定する。これが機能的膀胱容量であり、7ml/㎏体重(最大300ml)を下回る場合には膀胱容量過少と判断する。
Ⓑ薬物療法とアラーム療法
・生活指導で夜尿が解決しない場合は、薬物療法やアラーム療法を考慮する(図)。
1.薬物療法
1)デスモプレシン
・夜尿症の児の3分の2以上が夜間多尿であることより、抗利尿ホルモン製剤(デスモプレシン)により夜間尿量を低下させることが効果的である。この製剤は腎尿細管の集合管のV2受容体に作用し、水分再吸収を高めて尿量を減少させる。
・60〜70%の症例で有効とされ、国際小児尿禁制学会(ICCS)の推奨治療では第1選択の薬剤とされている。
・まれではあるが、副作用として水中毒(低ナトリウム血症、浮腫、頭痛、痙攣)の発症が重要であるので、夕方以降の飲水制限を遵守させる。
・夜の運動や習い事などで夜間の飲食制限ができない場合は、本剤の使用が困難なため、アラーム療法を考慮する。
[R処方例]
ミニリンメルトOD錠(120μg・240μg)1錠、分1、就寝30分前
(120μgから開始して、効果が不十分なら240μgに増量する。舌下に置いて水なしで服用する。)
または、デスモプレシンスプレー10 就寝前、1または2噴霧(10μg・20μg)
(1噴霧から開始して、効果が不十分なら2噴霧に増量する。)
2)抗コリン剤
・膀胱容量が過少な症例では、デスモプレシンと併用で使用することがある。
・昼間遺尿を伴う夜尿症では、昼間遺尿の治療に有用である。
・夜尿症は保険適用ではないので、過活動膀胱・不安定膀胱の治療として使用する。
[R処方例]
1.ベシケアOD錠(2.5㎎・5㎎)1錠、分1、夕食後
昼間遺尿の合併例では
2.ウリトス、ステーブラOD錠(0.1㎎)2〜4錠、分2、朝食後・夕食後
3)漢方薬
・夜尿症の患児の多くが睡眠・覚醒障害を有することから、小児の夜泣き・疳に対して適用ある抑肝散の併用が有用である。
[R処方例]
抑肝散(ツムラ)2.5g、分1、夕食時
(苦くて飲みにくいので、チョコレートアイスに混ぜるとコンプライアンスが改善する。)
2.アラーム療法
・夜尿感知装置を就寝前に装着し、夜尿時にブザーやバイブが作動し、就眠中の児が排尿を抑制し、夜間の膀胱蓄尿量を増加させる治療である。
・効果発現1カ月以上の時間がかかる症例が多い。2カ月経過しても効果が見られない場合は、治療の中断が望ましい。
・本人の強いモチベーションの維持と、同居する家族の協力が必要なため、ドロップアウトすることが多い。
・米国製のウェットストップ3(株式会社MDKが日本総代理店)か、ピスコール(アワジテック社)が汎用されている。
3.専門医へのコンサルト
・かつて汎用された3環系抗鬱剤(トフラニールなど)は、心毒性、肝障害、悪性症候群等の報告により米国では使用禁止であり、欧州でも使用が控えられるようになってきた。本剤の使用は難治の症例に専門医が使用することが推奨されている。
・難治の症例では、基礎に泌尿器疾患や精神疾患を有している可能性があることに留意し、それぞれの専門医への紹介を考慮する。
4.その他
・規則正しく節制した生活が行えて、服薬やアラーム治療がうまくできたら良く褒めてあげて、場合によってはご褒美を与えることにより、治療の意欲を高めて行くことが重要である。

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