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学術・研究

医科

しびれの臨床
−シビレにシビレない外来診療−[診内研より486]

千葉県・亀田総合病院 神経内科部長  福武 敏夫先生講演

しびれとは
 しびれは多義語である。口腔内がしびれると消化器外科から紹介された患者によく問診すると、それは口渇のことであり、抗がん剤が開始されてから出現したものであり、直ちに紹介元に送り返した。
 ネットで検索すると、しびれ(paresthesia)の5大原因として、(1)圧迫、(2)パニック障害(過換気)、(3)脱水、(4)血液循環不全がまず挙げられ、(5)神経系疾患はどんじりに控えている。
 このようにしびれの原因は神経系(感覚系)障害とは限らないのである。動脈閉塞の5PにはPulseless、Pain、Pallor、Paralysisと並んでParesthesiaが含まれていることを忘れてはならない。
まず薬物と内科疾患
 しびれの診察にあたっては、まず内科的(全身性)原因に思いを致す必要があるが、中でも処方薬について十分考える。病歴聴取で疑い、中止後の改善で診断できる。脂質異常治療薬、抗がん剤、抗ウイルス薬、抗結核薬はしばしばしびれをきたすが、日常診療の頻度としては胃薬(H2ブロッカー、PPI、D2ブロッカー)や抗うつ薬、免疫抑制薬、ホルモン薬などで高い。
しびれの問診
 しびれの問診ではまず部位の特定が大切で、次にその性状を訊く。「しびれ」の一言で済ますのは論外として、「正座後のしびれ」と狭めても、ジンジン・ピリピリ(大径線維)、チクチク(小径線維)、引っ張られ感(1a線維)、倦怠感(阻血後の乳酸増加)と内容は多様である。
上肢のしびれ
 神経内科の日常診療で最も遭遇するしびれ疾患は手根管症候群である。この疾患は中年女性に好発し、手を使う動作・職業が関連することが多く、朝方に強いという特徴がある。診断にあたって注意すべきは、しびれの範囲が正中神経の支配域に留まらず、全指、さらに前腕・上腕に広がることがある点と、頸椎症(C6〜C7神経根障害)とのdouble crushがありうる点である。
 両上肢のしびれでは頸椎症以外にビタミンB12欠乏症に留意する。この欠乏症は教科書的には亜急性連合性脊髄変性症(側索と後索が連合して障害され、両下肢の痙性と運動失調を呈する)の原因であるため、両上肢のしびれという早期の段階で想起されないことが多いが、胃がん(術後)、制酸剤投与中などのリスクに注意する。
下肢のしびれ
 下肢のしびれで特徴が際立つのは大腿前外側のmeralgia paresthetica(MP;異常感覚性大腿神経痛)と足根管症候群、burning feet症候群である。MPは、外側大腿皮神経が骨盤底から大腿部へ鼠径部を通って出てくるときに上に凸に屈曲している部位で絞扼されて生じ、灼熱感が特徴的である。きつい衣服、股関節の反復動作、長期臥床、体重の変化、下腹部手術などが誘因となる。
顔面のしびれ
 顔面(三叉神経領域)では膠原病や多発性硬化症、頸椎症や脳幹梗塞に伴うもの以外に、numb chin/numb cheek症候群を知っておきたい。これらは悪性腫瘍に併発・先行することがあるからである。片側の口周囲と手先がしびれる疾患に視床梗塞があり、知識がないと心因性にされてしまう。
体幹のしびれ
 体幹では、帯状疱疹の後遺症(疼痛、痒み)が多いが、よく似た帯状の疼痛を呈するものとして糖尿病性体幹ニューロパチーがある。これはまれであるが、糖尿病の重症度によらないので、見逃されやすい。腹部の腹直筋外縁部にピンポイントの圧痛が特徴的な疾患があり、anterior cutaneous nerve entrapment syndromeと呼ばれている。前述のMPと同様に、脊髄神経前枝が同部位で屈曲しており絞扼されやすいことによる。しばしば消化器内科や整形外科(脊椎外科)で不要な検査が重ねられる。痛みに伴い下痢などを伴う場合、過敏性腸症候群とされてしまう。
 同様に神経の屈曲が原因となる疾患として、上背部の痒みをきたすnotalgia paresthetica(錯感覚性背痛)が知られている。痒みに対して繰り返し引っ掻くために皮膚の色素沈着をきたし、皮膚科を受診することが多い。
レベルのあるしびれ
 体幹部に感覚障害のレベルを有する場合や帯状の分布を示す場合、レベル・分布に対応する胸髄病変だけでなく、頸髄病変も疑う(偽性局在徴候)ことが大切である。その鑑別にはcervical lineの診察が有用である。
 体幹部に感覚障害のレベルを有する場合のもう一つのピットホールとして、多発ニューロパチーによる場合があることも知っておきたい。「首以下が海に沈められたような感じ」などを訴えたために、脊髄の検査が繰り返された挙句、食思不振・体重減少や立ちくらみもみられたため心因性とされ、急性期治療の機会を奪われた若い女性の例がある。疾患は急性自律神経性感覚性ニューロパチー(ギラン・バレー症候群の亜型)であり、食思不振・体重減少や立ちくらみなどは自律神経障害とそれによる情動障害・心気症であった。
Restless legs症候群
 Restless legs症候群(RLS)はしばしばむずむず脚症候群と訳されているが、第一の特徴である「脚を動かしたいという強い欲求」が表現されていないため、適訳とはいえない。この疾患はしびれ疾患というよりも睡眠障害の一型と捉えるべきだろう。その際、抗うつ薬は症状を悪化させるので要注意である。
 RLSの病態機序には鉄とドパミンが関与しており、貧血を伴っている例では鉄剤の補給だけで改善することがある。特発性の場合はドパミンアゴニストを少量用いるが、24時間効果の続くロチゴチンの貼付薬が使いやすい。RLSに関する最新の研究では、鉄代謝に関わる遺伝子変異や下腿における低酸素の関与などが興味深い。
しびれ診療のTips
 しびれの診察と治療におけるTipsを表1,2にまとめた。どんなしびれでも脳の感知するところによるが、侵害受容系(感覚神経系)だけでなく、情動系(前頭前野や辺縁系)、認知系(大脳後部連合野)、侵害防御系(運動野)も関与しており、それらも射程に入れた診療が望まれる。

参考文献
・福武敏夫:神経症状の診かた・考えかた−General Neurologyのすすめ−(医学書院、2014)
・福武敏夫:脊髄臨床神経学ノート(三輪書店、2014)
(2月13日、診療内容向上研究会より)

表1 しびれ診療の七つのTips
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表2 しびれの治療の七つのTips
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