兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

医科2016.02.25 講演

[保険診療のてびき] 第23回日常診療経験交流会演題より
両眼開放オートレフ普及が弱視児童を激減させる

灘区・山中眼科  山中  忍

はじめに
 弱視は、おおよそ8歳を過ぎると、視力の回復が困難である! にも関わらず、いまだに小学生になり弱視が発見されている現状は不可解である。
 それには理由があり、3歳児健診や保育園および幼稚園健診という弱視発見のチャンスに、的確な健診が本当に行われているのかが改めて問われてくる(図1)。
両眼開放オートレフの有用性
 日常診療経験交流会にて、両眼開放オートレフというコンピューター内蔵の自動屈折測定装置を、3歳児健診を主として小学生以下の各種健診に導入することで、弱視児童が激減できることを報告した(図2,3)。
 当方は2003年、この両眼開放オートレフ装置の第2世代に、さらにミラーを利用することで、従来の通常の気球を見る単眼式のオートレフよりも、あらゆる年齢で正確な屈折値が得られることを、45名85眼で統計的に実証し、視能訓練士学会にて発表報告を行った。さらにその後始まった保育園健診では、機器使用の屈折検査は全く義務化されていなかったが、新たな弱視児童が発見できるため約10年間、両眼開放オートレフ屈折検査を実行・継続してきた。そして数年ごとに遠視性弱視疑いの児童を発見している。過去最高の遠視度数は+9.0Dであった。
 前半では弱視の説明と両眼開放オートレフ機器の説明および関連症例を提示して、一般的な通常の単眼式自動屈折測定器(通常オートレフ)と比べて特に10歳以下では、器械近視の発生が極めて少なく、いかに両眼開放オートレフが正確に測定できるかを実例提示した。症例2では調節の介入を減弱させたサイプレジン点眼による瞳孔を開く精密検査の数値が通常の両眼開放オートレフの値に近いことを明示した。
保護者への啓蒙で早期発見・治療を
 次に弱視とは、何らかの要因で乳幼児期に網膜に焦点が合わないことで生じる視力の発育障害であると論じた。
 2009年文部科学省の小・中・高等学校弱視児童生徒に係る調査結果では、全国の学童に約6800人もの弱視児童が存在し、保健所で指摘され眼科で異常と診断された児童の約64%が両眼開放オートレフで対応可能な屈折が関係した弱視であった。(2012年度日本眼科医会公衆衛生部3歳児健診健康診査調査報告より参照)
 3歳児健診を実施する保健所では、主に視力0.5を基準に目の異常を指摘するが、幼児が返答する視力でのチェックでは、弱視は見落とされる可能性がある。さらに3歳児健診にて要精密検査と指摘された児童の約38%が眼科での精密検査を受けていない実態も報告した。
 弱視のほとんどは早期発見早期治療で治せるのに、限界年齢10歳を過ぎれば一生涯の完璧な見え方はできなくなり、その視力低下は今の医学でも治せない状態になるのであるが、失明に至る病気ではなく保護者の認識が甘い可能性がある。そこで改めて啓蒙的な意味合いも含めて、弱視は視力の発達障害と呼ぶべきであると再認識する。
両眼開放オートレフ装置の問題点
 後半に両眼開放オートレフ装置の問題点も明示した。
・問題点1 初期型第1世代は不正確であったため、ベテラン眼科医の信頼性が低い。
・問題点2 マニュアル通りの5m遠方指標では、幼児の固視が不安定になる可能性が大きい。
・問題点3 大手機械メーカーではないためか、手術専門の多くの大学病院には設置されていないので、研修医の認知度が低い。
 問題点1に対しては、初期型以降の第2世代以降は通常のオートレフよりも正確に測定できることを実証した。問題点2は、マニュアル通りの5m遠方指標ではなく半分の距離の2.5mに鏡を設置して幼児が自然に自分の顔を観るミラー法により、通常オートレフよりも正確な測定が可能であることを実証した。問題点3の低い認知度の原因は若干分かりにくいが、こども病院には常設されている機器である。
3歳児健診での導入を
 関係者のご努力により、全国の3歳児健診の受診率は96%以上に向上している。3歳児健診への眼科医の関与は低く、4%程度であるが、眼科医が現場にいたとしても両眼開放オートレフなどのコンピューター内蔵の自動屈折測定器がなければ、屈折に関与した多くの弱視児童を発見することができないのが現実である。
 両眼開放オートレフは1人約30秒で測定でき、10年間の保育園健診での実績では測定できない子どもは極めてまれであった。(測定不能は10年間で重度障害児1人のみ)、眼科医がいなくても屈折性弱視を発見できうる両眼開放オートレフの存在を全国に広めて、主に3歳児健診での各市町村での導入推奨をお願いしたい(兵庫県では姫路市が導入を開始した)。加えて眼科専門医による保育園および幼稚園健診にこそ斜視弱視検診の導入の必要性があることが強く示唆された。
(小見出しは編集部)

図1 弱視発見のチャンスはいつどこで!?
1806_01.jpg

図2 両眼開放オートレフとは(1)
1806_02.jpg

図3 両眼開放オートレフとは(2)
1806_03.jpg
※学術・研究内検索です。
歯科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(医科)
2017年・研究会一覧PDF(医科)
2016年・研究会一覧PDF(医科)
2015年・研究会一覧PDF(医科)
2014年・研究会一覧PDF(医科)
2013年・研究会一覧PDF(医科)
2012年・研究会一覧PDF(医科)
2011年・研究会一覧PDF(医科)
2010年・研究会一覧PDF(医科)
2009年・研究会一覧PDF(医科)