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学術・研究

医科

第48回総会記念講演より
マラリア対策から学ぶ〜行動は変えられるか〜

神戸大学名誉教授  川端 眞人先生講演

マラリアの病気負担と対策の歴史
 マラリアは熱帯・亜熱帯地域の開発途上国に流行する感染症です。死亡の多い病気で、犠牲者の多くは子どもたちです。将来を担う子どもたちが犠牲になるため、流行国では社会開発の大きな障壁となります。
 マラリアは蚊によって媒介される感染症です。媒介する蚊はハマダラカで、デング熱やジカ熱を媒介する蚊とは異なります。吸血活動は夜で、人の生活環境から離れた自然が残る環境を好んで生息します。流行地は人口が密集する都会でなく、田舎です。
 感染症対策の基本は二つ、予防と疾病マネジメントです。マネジメントとは、早期に診断して適正に治療することです。マラリアの予防は蚊が標的になります。
 1950年代にWHOの指導でマラリア根絶計画がありました。流行地のすべての家屋内に残留性殺虫剤DDTを散布する作戦でした。作戦は効果を発揮しましたが、1960年代になると殺虫剤に耐性のある蚊が発生します。やがてDDTの土壌汚染や人体への影響が報告され、1970年代にWHOはマラリア根絶計画から撤退しました。
21世紀の新しいマラリア対策
 2000年、「貧困と飢餓から解放しよう」を目標とするプロジェクト:ミレニアム開発がスタートします。開発を妨げる感染症として、エイズ、結核、マラリアがあります。マラリアの治療は安価な抗マラリア剤を数日間飲むだけです。診断の難しさや薬剤耐性マラリアの問題はありますが、最大の課題は資金でした。
 資金調達のスキームとして、新しい枠組み:世界エイズ・結核・マラリア対策基金が登場します。さらに、対策ツールが開発されます。殺虫剤を浸み込ませた線維で編んだ蚊帳LLTN、マラリアの迅速診断キット、2種類の薬剤を組み合わせた抗マラリア錠剤などです。ただしLLTN蚊帳は配布しても、マラリア対策より換金作物の防虫に使われることがあり、正しい普及には時間がかかります(図1)。
ソロモン諸島国:マラリア死亡ゼロ作戦
 ソロモン諸島国では国際協力によるマラリア対策が始まり、私は日本チームのチーフアドバイザーとして参加しました。ソロモン諸島国は南太平洋の島国で、首都はガダルカナル島にあるホニアラです。ガダルカナル島は第2次世界大戦で飛行場の争奪を巡り、日本軍と連合軍の激戦があった島です。今でもゼロ戦が野晒しになり、海には戦艦が沈んでいる戦争の痕跡が生々しく残る島です。
 日本チームはガダルカナル州を担当しました。ガダルカナル島の人口は15万人、うち5万人は首都ホニアラに住んでいます。ホニアラ市周辺に人口が密集するほかは、島の周囲に点々と集落が散らばっています。小さな島ですが中央には3000m級の山が連なり、自動車道路はホニアラ周辺のみで、他はボートで移動します。
 英国の統治時代に簡易医療施設が33カ所に設置され、マラリア治療を提供します。3次救急には対応できないため、重症例はホニアラへ搬送しなくてはなりません。
 ガダルカナル州では年間20名ほどのマラリア死亡例が発生します。マラリアで死亡する背景を調査すると、ほとんどが重症化した患者をボートで搬送する過程で亡くなっています。マラリアの重症化は「死」を意味します。
ソロモン諸島国でのマラリア死亡症例
 ガダルカナル島のマラリア対策〈第1次〉は2007年1月からの3年間で、マラリア死亡:ゼロ達成を目標にしました。作戦は33カ所の医療施設で常時適正にマラリア・サービスを提供することです。それができれば、マラリア感染はあっても重症例はなくなり、マラリア死亡はゼロになるはずです。
 マラリア・サービスを途切れることなく提供するために、次の五つを徹底しました。1:マラリア治療のプロトコールの周知、2:マラリア医療者・地域住民の再教育、3:マラリア施設の在庫管理、4:ヘルス情報システムの整備、5:搬送システムの整備、です。マラリアは早期に診断し適正に治療すれば、死亡ゼロは達成できます。
 プロジェクトが始まって、マラリア死亡はゼロを続けました。しかし2009年9月に死亡例が発生しました(図2)。2次医療施設の看護師、3次病院の看護師、3次病院の検査技師の誰かが機転を利かせて行動すれば、4歳女児の死は回避できたはずです。
行動は変えられるか
 人の行動を変えることの難しさを認識させられました。
 行動を変えるには、「やってはいけないことを禁止する」準則があり、フォーマルなものとインフォーマルなものがあります。さらに「やらなくてはならないことをやる」原則があります。原則を決断するには、想像力・判断力が要るため簡単ではありません。
 臨床の現場では、セルフケアなど行動変容の難しさに直面されると思います。私もどうすれば行動を変えることができるか考えています。そんな折、外国人看護師の国家試験対策の指導をはじめ、7年目に入りました。
 外国人の低い合格率が報道されています。外国人が日本の試験に合格するには、日本人以上の量と質の勉強をしなければなりません。これまでの人生で経験したことのない次元の勉強で、これも行動変容です。
 これまでの経験で分かったことは、「できるだけ丁寧に教える」、「自主性を尊重し、介入しない」では合格率が上がりません。最近は、「ともに学習する」指導を念頭に、毎日工夫しています。甘えさせず、飽きさせず、諦めさせず、が基本です。積極的に介入して、日本人以上のレベルで勉強するように行動を変える試行錯誤を続けています。
(2016年6月19日、第48回総会記念講演より)

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