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[保険診療のてびき] 認知症と緩和ケア

高砂市・三木医院 院長  三木 健史先生講演

はじめに
 認知症は発症当初は単なる物忘れ程度で認識されるも、家族がおかしいと気づき数年経過する。そのうち、即時記憶低下も目立つようになり、見当識障害、実行機能障害、失認、失行が目立つようになる。身体症状としては失禁なども伴うようになり、会話も成り立たず10年前後経過するころにはADLが低下し寝たきりとなる。そして誤嚥性肺炎などを発症し不幸な転帰をとることが多い。まとめると時間→場所→人の順で認識ができなくなり、日常生活動作が低下し寝たきりとなり、死に至る。
認知症における緩和ケア
 さて、認知症に対してはいつから緩和ケアが必要であろうか? まず早期の緩和ケアとしては、まだADLも自立し病識もあることから、「どうしてこの病気になったのか」「何かこれまで悪いことをしたのだろうか」といったスピリチュアルペインが出現しやすい。こういった行き場のない思いに対しての緩和ケアが必要である。傾聴などを行いその思いをくみ取り、これからの長期的な対策を一緒に考えていくことが重要である。
 中期では、ある程度ADLは保たれるも、認知症が進行し周辺症状が出現し介護者を悩ませることが多い時期である。この時期から、介護負担軽減のため介護保険を使い、通所サービスや訪問介護を利用することが多くなる。
 終末期になるとほぼ寝たきりとなるため、褥瘡の出現、誤嚥性肺炎などの感染症への対処、また延命処置への対応が求められる。この時期になると自宅で介護するのであれば訪問看護、訪問診療、そうでなければ施設入所の選択も必要である。
 特に延命処置をどうするかについて、今の状態が終末期かどうか判断しておかなければならない。その目安として、繰り返す発熱、肺炎がまず挙げられる。以前なら胃瘻などの経管栄養、経静脈的栄養を行うことも多かった。胃瘻などの処置は減少傾向にあるものの、本人の希望がどこまでかを判断しにくいことから家族に判断を迫られることがある。それから自発言語が減少しいわゆる外套症状となること、また笑う能力の喪失も終末期であると判断してよい状況である。さらに進行すると昏睡となる。
PAINADを用いた評価
 意思疎通が困難になると苦痛の評価が困難になるため、PAINAD(Pain Assessment in Advanced Dementia)という指標を用いることがある。呼吸状態や顔の表情などを0,1、2の3段階で数値化し評価する。そのほかにもさまざまな評価方法がある(図)。
 そして終末期になると医療的問題が出現し、特に嚥下が困難となり栄養状態が悪化し、肺炎等による呼吸器障害、また褥瘡も伴ってくることが多い。廃用症候群も進行し拘縮が顕著になり、着替えやおむつの交換が困難になり介護に手間がかかるようになる。また便秘も生じ浣腸や摘便の処置を行うことになる。特に食べられない原因として、感染症・口腔内トラブル・便秘・脳卒中やがんの合併・薬の副作用・電解質異常・心理的な問題が挙げられる。これらは治療によりある程度改善することがある。
 認知症の進行した結果として失行・口腔顔面失行・嚥下反射消失が挙げられる。これらは終末期特有の状態であり、治療というより緩和ケアが必要な状態である。実際の緩和ケアの処置としては、むやみな吸引をひかえることにより呼吸が楽になることがある。
認知症における終末期の特徴
 がんの終末期とは違って認知症の終末期は比較的穏やかで、痛みもそれほど伴わないことが多い。この時期になると周辺症状が出現するほどの体力も残っていない。ただ食事摂取は困難となっているため、家族などが点滴を希望する場合もあるものの、点滴によって浮腫や喀痰の増加があり、できれば控えたほうがのぞましい。
 そのため頻回に訪問し、家族とよく話し合うことが大切である。食べられなくなった時にどうするかは非常に難しい問題であり、当の本人は意思決定が困難となっているため、過去の考え方などを推定することもある。その場合ある程度、予後予測ができればいいのである。特に経口摂取ができなくなると日単位となる。
 家族の希望により胃瘻を造設した症例として、若年型認知症と診断された女性を挙げる。2007年5月から訪問開始した際にはすでに意思疎通不能であったものの、経口摂取は可能であった。2008年には巨大褥瘡が出現し栄養状態の悪化が疑われたため2009年に胃瘻を造設した。その後、2015年4月に永眠された。胃瘻については延命効果のエビデンスはないものの、介護者である夫が非常に熱心であり予後延長につながったケースであるといえる。
基本は多職種連携
 ところで認知症をみていくに当たっては、多職種連携が基本となる。特に末期がんと違い、医療依存度が低く、場合によってはケアマネジャーがチームリーダーとなることが多い。生活面を支えるため、診療する際には訪問看護、ヘルパー、家族の方からの情報が欠かせない。なおケアマネジャーに要望したいこととしては、主治医意見書を作成する際に生活面を知るため情報共有が必要である。また、認知症の方は思いを表出しにくいこともあり、希望を慮ってケアプランを作成すべきであると思われる。
(2月5日、地域医療を考える懇談会より、小見出しは編集部)

図 苦痛の評価 1843_01.gif
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