兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2017.06.10 講演

[保険診療のてびき]
めまいのリハビリテーションと漢方薬の選択について

横浜市立みなと赤十字病院 めまい平衡神経科部長  新井 基洋先生講演

 めまいの治療は、一般に軽症の場合には安静と抗めまい薬による薬物療法が選択され、症状が激しい場合には点滴で急性期を乗り切り、亜急性期になって抗めまい薬が投与されるというケースが多い。理学療法は薬物療法で十分な効果が得られない場合に行われるが、めまいの中でも最も頻度が高い良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)と診断された場合ではエプリー法やレンパート法に代表される頭位治療が行われる。まず、騙されやすい小脳梗塞の話をしたあとで、以下を中心に講演を行った。

1.めまいリハビリテーションの選択
 われわれはこれまで、薬物療法や生活指導による一般的なめまい治療では十分な改善が得られず、慢性的なふらつきや再発を繰り返す難治性めまい患者に対し、短期間入院加療を含むめまい集団リハビリテーション(以下、めまいリハ)療法の有用性について報告してきた1〜5)。今回は難治性慢性めまいの代表である、1)一側前庭障害代償不全、2)Possible BPPV(典型的眼振消失後、耳石器障害)、3)加齢性平衡障害、などに対するリハビリを用いた治療効果を動画で供覧した。
2.めまい漢方薬の選択
 めまいの治療の基本は薬剤であることは言うまでもない。しかし、めまい領域の薬剤は新薬がこの40年間出ていないのも事実である。一方、めまいという保険病名に適応を持つ薬剤のひとつに漢方がある。漢方は証を診て処方をするため、なかなか非漢方専門医では処方に躊躇が伴う。そこで、われわれはめまい専門医の立場で現代医学的な見地から漢方薬の効果を検討することで、めまいを扱う全ての耳鼻咽喉科医がめまい薬物治療の手札を増やすことに繋がると考え、以下の検討を行ったので紹介する。
1)一つ目は、めまいの保険病名を持つ半夏白朮天麻湯(以下、半白天)の有用性について、ベタヒスチンメシル酸塩(以下、従来薬)とのレトロスペクティブな比較検討を、入院加療によるめまいリハに伴う併用薬剤として多数例で検討を行った。まためまい患者に対する半白天の適正な投与対象を探索するため、めまいに対する治療効果と本剤の東洋医学的な使用目標のひとつである"胃腸虚弱(消化器症状)"との関係について検討した。
 調査項目は、めまい症状全般に対しては、めまい重症度判定尺度としてDHIスコア(Dizziness Handicap Inventory;DHI)、一般的なQOL検査としてSF-8調査票の身体症状(PCS)を、また重心動揺検査(閉眼状態での重心動揺記録〈30秒〉の総軌跡長と外周面積)およびめまいに伴う精神症状の検査として日本語版POMS(Profile of Mood States)、SF-8調査票の精神症状(MCS)を実施した。消化器症状の調査項目については、小林らの気虚判定表6)を一部改変したものを用いて消化器症状のめまい関連症状に及ぼす影響を調査した。
(1)検討項目に対する従来薬群105例と半白天群118例の比較検討
 従来薬剤と半白天のめまい治療における有効性を比較するため、めまい症状検査と精神症状検査について検討した。結果は重心動揺検査の一部に違いはみられたものの総じて両薬剤ともほぼ同様の効果を示し、めまいリハと半白天の併用は従来治療薬との併用と同様の有効性があることが示唆された。なお患者年齢による層別解析を行った結果では、65歳以上の患者において従来薬群と比べて半白天群の優位性が示唆された。
(2)半夏白朮天麻湯の、消化器症状とめまい関連症状との関連性に関する検討
 半白天群118例を対象とし、治療開始時の消化器症状の程度に基づいて層別解析したところ、消化器症状を呈する胃腸虚弱の見られる患者においてめまい関連症状に対する治療結果はより高い改善度を示し、また治療後の消化器症状の改善度との関連性について検討した結果では「治療後におなかが空かない」、「食欲がわかない」、「胃がもたれやすい」の3項目との関連が認められた。これらのことから半夏白朮天麻湯は消化器症状を有する患者に有用性が高く、またこれら消化器症状の改善を以ってめまいの治療効果を高めている可能性が示唆された。
2)二つ目の検討は、めまいに伴う精神症状改善についてである。めまい患者の多くは精神的不安を有することが報告7)され、それがめまいを難治化させQOLを低下させる。めまい患者は不安に加えうつ状態の併存も認められており、その治療に際しては精神症状評価の重要性が示唆されている。われわれはうつ状態(SDS≧50)を呈する患者に抗うつ薬(SSRI)を併用し、めまい症状の治療効果が高まることおよびその至適投与量など8〜9)を報告した。難治性めまい患者では疾患に対する精神的苦痛・葛藤だけでなく、めまいが遷延することで怒りと活気の低下を認める。日常のQOLを高めることはめまい治療の重要な指針の一つである。入院めまい患者の情緒不安定をPOMS検査10)で検討すると、A-H(怒り)、V(活気)、QOL(MCS)がなかなか改善しない8〜9)ため、補中益気湯を併用して改善するか否かを比較検討した11)
 結果は、各種スコアの治療前値と治療後値の差から算出した変化量を両群間で比較検討したところ、投与群のSDS、QOL検査(MCS)、STAI(特性不安)、POMS(A-H、TMD)で有意に変化量が大きかった11)。これらの結果は、従来の治療に本剤を併用することでより高い精神症状の改善が見込めることを示唆した。補中益気湯投与の意義は遷延するめまいに伴う怒りを軽減し、活気を改善することで精神的QOLを高めるという点にあると思われる。難治性めまい患者は集団めまいリハとめまい治療薬の併用、さらにめまい患者の精神症状は、補中益気湯を併用することで改善が得られることが確認できた。

参考文献
1)新井基洋.綜合臨床:51(8),2493-2497,2002
2)新井基洋ほか.Equilibrium Res:68(6),430-436,2009
3)新井基洋.医学のあゆみ:235(9),917-920,2010
4)新井基洋ほか.Equilibrium Res:70(2),57-66,2011
5)新井基洋.Jpn J Psychosom Med:54,753-756,2014
6)Hiromi Kobayashi, et al:eCAM:7(3),367-373,2010
7)新井基洋、伊藤敏孝、中山貴子:めまい集団リハビリテーションによる患者のQOL改善と不安・抑うつの関係 Equilibrium Res 68:018,2009
8)新井基洋、五島史行、保坂隆:めまい集団リハビリテーションとSSRIの併用療法(第1報)心身医学: 51:416-423,2011
9)新井基洋、五島史行、保坂隆:めまい集団リハビリテーションとSSRIの併用療法(第2報)心身医学:51:919-926,2011
10)室伏利久、中原はるか、松崎真樹:めまい症例における心理状態の検討−POMSを用いて Equilibrium Res 65:30-34,2006
11)新井基洋他:めまい集団リハビリテーションと補中益気湯併用療法 心身医学:52:221-228,2011
(6月10日、神戸支部研究会より)
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