兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2017.08.26 講演

[保険診療のてびき]
糖尿病治療について、かわってきたこと、かわらないこと

東灘区・神戸海星病院 糖尿病センター長 内科部長  竹内 康雄先生講演

はじめに
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図 150年の歴史を持つ海星病院

 私の勤務している海星病院は明治4年に開設され、あと数年で150年になります(図)。開港150年の港神戸とともに歩んできたようです。開設時は外国の方に特化したキリスト教の病院で、当時はシスターが患者さんの看護もしていたようです。現在は病院もスタッフも患者さんも大きく変わっていますが、愛と奉仕を理念としていることや、他国語にも対応できるボランティアさんや国際内科など外国の方にも利用していただきやすい面は残っていると思います。
 糖尿病の治療についてですが、インスリンが発見されて97年近くになります。私が生まれる前の治療は知らないので、医師として私が糖尿病と関わった約26年で感じた治療の変化についてお話しさせていただきます。
薬物療法の変遷
 糖尿病治療には食事療法、運動療法、薬物療法があります。薬物療法の選択肢はめざましく増え、これほど治療薬の種類が増加した疾患は他にないのではと思うほどです。医者になりたての当時はグリベンクラミド(ダオニール、オイグルコン)を少量から開始し、少しずつ増量、10㎎でもコントロールが悪ければインスリン導入のため入院?といったことが普通だと感じていました。
 インスリン療法に抵抗等がある患者さんには、入院後しばらく食事療法とSU薬(インスリンでいったん糖毒性を改善してみるということは当時少なく)で経過をみていましたが、それだけで血糖コントロールが良くなる症例は結構ありました。入院で血糖値が良くなることは現在でもかわらないように思います。
 グリベンクラミドは経口血糖降下薬の中で血糖を下げるという点では最も切れ味が優れると思いますが、使用する状況は少なくなっています。グリベンクラミドの後継?とも言えるアマリールは現在も使用されますが、高用量はほとんど用いていません。比較的少量で朝食前と食後血糖がコントロールされてかつ低血糖がなければ良いのですが、CGM(Continuous Glucose Monitoring)でチェックしてみるとSMBGでは見逃していた高血糖や低血糖が明らかになることも少なくありません。
 平均血糖値を反映するHbA1cだけでなく血糖変動を少なくするといったことは重要と考えられるようになっています。SU薬で朝食前の血糖が良くても、朝食後高血糖になる例は少なくありません。無自覚でも夜間は低血糖気味であることもしばしば認めます。
 SU薬を先行させず、低血糖をきたさない薬をファーストチョイスにすることが多くなりました。低血糖をきたしにくい経口血糖降下薬にビグアナイド薬があります。研修医時代にはSU薬以外の経口血糖降下薬で唯一使用可能であったと思います。体重増加をきたしにくい点でもSU薬にまさりますが、当時はほとんど使用されていませんでした。ところが近年欧米では2型糖尿病の薬物療法のファーストチョイスとなっています。肥満度やインスリン分泌能が欧米と異なるため、同様とは言えないにしても使用機会は格段に増えています。
 α-GI(グルコシダーゼ阻害薬)やグリニド系の薬剤が登場し、食後血糖管理の重要性も認識されてきました。肥満が増加し、内臓脂肪やメタボリックシンドロームの概念などその分野の研究が進歩、インスリン抵抗性改善薬としてチアゾリジン誘導体も選択肢に加わりました。その後に登場したDPP-4阻害薬は現在糖尿病治療薬で最も使用されるようになり、近年の2型糖尿病のコントロール改善に大きく寄与していると言われています。
 最近登場したSGLT2阻害薬は心血管イベント抑制のエビデンスや体重減少効果、エネルギー効率や腎機能保持など多くの期待があり、使用頻度はさらに増える可能性があります。いずれの薬もSU薬に比して低血糖をきたしにくく、グリニド系を除けば低血糖リスクはほとんどない(SU薬との併用時には注意)と考えられます。
 これら経口血糖降下薬は併用の機会も多くなりました。血糖コントロール不良が長期にわたると合併症などの併発で投薬がさらに増えることも問題です。ポリファーマシーに対して、週1回製剤や合剤などで対処することも可能になっていますが、早期介入で合併症をきたさないことが最も重要であることはかわりないと思います。
 注射薬はインスリンだけでなくGLP-1アナログも登場しています。DPP-4阻害薬とGLP-1アナログは共にインクレチン関連薬になります。インクレチン関連薬はインスリン分泌を助けるのみならず、グルカゴン分泌を抑制、血糖降下作用が発揮されます。糖尿病がインスリン作用の低下といった病態のみならずグルカゴン過剰分泌といった面も重要なファクターとして認識されてきました。
 インスリン製剤についてはヒトインスリンからアナログインスリンが主に使用されるようになっています。持効型インスリンはより長い効果の製剤の登場により基礎分泌の補充はより安全確実にできるようになっています。2型糖尿病のインスリン導入の際は中間型1回〜2回、混合型2回注射が主流であった時代、速効型や超速効型3回注射から始めることが多かったのが、現在は経口血糖降下薬に持効型インスリンを上乗せする形での導入が多くなっています。薬物療法の選択肢が多くなったことで個々の患者の状態に応じたオーダーメイド治療が考えられる一方、治療が複雑になったとも感じます。
食事・運動療法
 食事、運動療法について大きくかわったという印象はありません。重要性、優位性は先に述べたとおりかわらないと思います。糖質の摂取の仕方は昨今注目が高いように思い、当日はそういった面にも少し触れさせていただきました。運動療法にちなんで当院での糖尿病患者さまにおける筋力のデータなどについても提示させていただきました。またCGMについては最近登場したFGM(Flash Glucose Monitoring)との比較について触れさせていただき、最後に当院での療養指導についての話もさせていただきました。
(8月26日、神戸支部研究会より)

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