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[保険診療のてびき]
六君子湯の作用機構 −グレリンを中心に−

鹿児島大学大学院 心身内科学分野教授 鹿児島大学病院 漢方診療センター長 乾  明夫先生講演

六君子湯の有用性
 漢方薬の中でも、「虚証」に対して用いられてきたものは多く、六君子湯はその代表的な薬剤であり、主として消化器症状の改善に用いられてきた。六君子湯は、陳皮、人参、蒼朮・白朮、甘草、茯苓、半夏、生姜、大棗の8種類の生薬より構成される。『万病回春』には「脾胃虚弱、飲食少しく思い、或いは久しく瘧痢を患い、もしくは内熱を覚え、或いは飲食化し難く、酸を作し、虚火に属するを治す」という内容が記されている。白朮に代えて蒼朮を使用したのは江戸時代で、日本の創方であり、利水作用が強いと考えられてきた。六君子湯は、機能性ディスペプシア(FD)や胃食道逆流症(GERD)、胃がんをはじめとする消化器がん術後やがん化学療法に伴う食欲不振など、消化器領域で汎用されてきた(表)。
グレリン分泌を促進
 六君子湯はグレリンの放出を促進することにより、食欲や消化管運動に好影響を与えることが報告された。悪液質モデル動物において、六君子湯の投与は低下したグレリン分泌を増加し、摂食量や体脂肪量、骨格筋量の減少を改善した。六君子湯はさらに、悪液質モデルの寿命を延長させることが報告された。六君子湯の構成生薬のうち、陳皮に含まれるフラボノイドにグレリン分泌促進作用が認められ、一方、蒼朮に含まれるアトラクチロジンが、グレリン受容体の感受性を亢進させる(デュアルアクション、図1)。グレリンはアシルグレリンとして分泌された後、血中のエステラーゼによってただちにデスアシルグレリンに代謝されるが、六君子湯はこの酵素を阻害してアシルグレリンの半減期を延長する。これらもグレリン作用の増強効果をもたらす。グレリンを介する六君子湯の作用は、臨床的にも確認されている(表)。
カロリー制限と健康寿命延長

 近年、健康寿命延長に関して研究の進展が認められ、カロリー制限(Caloric restriction)の効果が注目されている。カロリー制限をすると、線虫からハエ、ネズミ、サルを含めた多くの種において、健康寿命が延長することが確認されている。われわれはこのカロリー制限のメカニズムに、グレリンシグナリングが深く関わると考え、病的老化マウスであるKlotho(クロトー)欠損マウス、SAM(サム)P8マウスおよび正常老化マウスであるICRマウスに六君子湯を長期投与し、その影響を検討した。クロトーはカルシウム代謝に深く関与し、クロトー欠損マウスは短命で異所性石灰化などの早発性老化の表現型を呈する。またサムは、老化徴候を有するマウスの交配により樹立され、P8は学習・記憶障害、免疫機能不全、概日リズムの異常などを呈する。六君子湯は、これら老化マウスの脳内活性化ミクログリアの低下、心筋の萎縮や石灰化の低下、行動リズムや学習記憶の改善など、健康寿命延長に寄与することが確かめられた。これらの老化マウスでは、血中グレリンは高いもののその情報が伝わらないグレリン抵抗性の状態にあり、六君子湯がグレリン受容体を活性化することにより、最終的にサーチュイン1を介し、その作用を発現させたものと考えられた(図2)。
 以上のごとく、六君子湯は消化器症状の改善に、付加価値として健康寿命延長作用が期待され、消化器症状を有する症例に早期から試みられるべきであろう。

(10月7日、西宮・芦屋支部研究会より、小見出しは編集部)

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