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学術・研究

医科2017.11.25 講演

聴診器発明から200年
〜コモンな疾患を中心に、実際の聴診音とともに〜
[診内研より501](2017年11月25日)

杏林大学医学部付属病院 呼吸器内科 講師  皿谷  健先生講演

伝承されてきた聴診の技
 フランス人のラエンネック先生が聴診器を発明してから200年経ちました(写真1)1)。内科外来をやっていると胸部聴診をしたとき、腹部の触診をしたときなど、"あ〜、久しぶりに診察してもらった"と言う患者がいます。様々な機器が発達し、それなりの診断が可能になった現在では、身体診察に関しては一昔前の先生方の方が現代よりも優れていたのかもしれません。
 実際にスペインかぜの日本での状況を示す論文が最近出ました。1919年〜1920年まで国立国際医療センターの前身である病院に入院した軍人470人のカルテ調査です。その中では、血圧計の調達もままならない時代ではありましたが、呼吸数、体温、脈拍の他、"肺胞呼吸音の気管支呼吸音化"の記載が肺炎合併の所見としてきちんと記載されていたようです2)
 聴診器による聴診は200年もの間、伝承されてきた技であり文化でありアートです。また患者と医師をつなぐツールであるとも感じます。
 最近の私は、『武士の家計簿』の著者として知られる歴史学者の磯田道史さんの本を読むことが多いのですが、新潮新書の『日本人の叡智』の一文で以下のような記載があります。
 人は、かならず死ぬ。しかし、言葉を遺すことはできる。どんなに無名であってもどんなに不遇であっても、人間が物事を真摯に思索し、それを言葉に遺してさえいれば、それは後生の人々に伝わって、それが叡智となる。この叡智のつみかさなりが、その国に生きる人々の心を潤していくのではないか。
 これはわれわれ医療者にも当てはまると考えています。ちょっとした気づきや発見を日本語または英語論文で遺し、財産として共有することができるからです。どの分野の小さい仕事でもその価値を見いだして報告しておけば、共感し評価してくれる人がきっと世界のどこかにいると思います。医師を含む医療従事者それぞれが日々診断や治療に悩みながら、そこから生まれる小さな発見を繰り返しながら診療していることは尊い作業だと思います。
 Laennecは胸膜摩擦音を除くすべての副雑音をraleと称し、実際に患者の前ではラテン語のrhonchus(複数形rhonchi)を使っていました。その理由は、raleという言葉はdeath rattleと呼ばれ、死ぬ直前の患者の喉がゴロゴロ鳴る音の意味をもっていたためです。その後、聴診音の分類は紆余曲折がありましたが、1984年にわが国で開催された第10回国際肺音学会の会議において各国の肺音の分類と用語の表がまとめられ、この日本での会議が現在の国際分類の礎になっています(表1)4)
聴診で患者の人生を振り返る
 歴史を振り返るということは、日本史や世界史を勉強するだけでなく、一人ひとりの患者の人生そのものに興味を持つことだと思います。一例を挙げます。
 症例は87歳女性です5)。既往は特にありませんが、14歳の頃、終戦間近に戦闘機のブレーキパッドを作る工場で1年間作業していたそうです。たった1年だけの作業でしたが、昼間に太陽にさらした両腕をみるとキラキラと光るアスベストが皮膚にささっているのが見えたそうです。
 身体所見では右前胸部にパチン、パチンと吸気途中に胸膜摩擦音(石灰化した胸膜同士が当たる音)を聴取します5)。この症例の胸部X線やCTは、患者の生き様(歴史)を明瞭に物語っています(写真2)。また頸部の聴診でwheezesの出現、消退を繰り返し、左の気管支呼吸音の減弱から後縦隔腫瘍と診断された症例も最近経験しました6)
これからの聴診教育
 今後は聴診音を共有できる音源クラウドの確立、聴診教育アプリの開発などを目指して企業と組んだ活動も予定しております。またネットで無料公開している聴診スキル講座(図)では、実際の聴診音の聴取も可能ですので7)、携帯電話でイヤホンをしながら聞いていただけますと幸いです。
(2017年11月25日、診療内容向上研究会より、小見出しは編集部)
参考文献
1)皿谷健.聴診器発明から200年.化学療法の領域.2016;32(11):19.
2)Kudo K, Manabe T, Izumi S, Takasaki J, Fujikura Y, Kawana A, et al. Markers of Disease Severity in Patients with Spanish Influenza in the Japanese Armed Forces, 1919-1920. Emerg Infect Dis. 2017;23(4):662-4.
3)Sakula A. R T H Laennec 1781-1826 his life and work:bicentenary appreciation. Thorax. 1981;36(2):81-90.
4)Mikami R, Murao M, Cugell DW, Chretien J, Cole P, Meier-Sydow J, et al. International Symposium on Lung Sounds. Synopsis of proceedings. Chest. 1987;92(2):342-5.
5)Shirai T, Saraya T, Oda M, Takizawa H. Memory of World War II with loud atypical friction rub due to pulmonary asbestosis. BMJ Case Rep. 2017;2017.
6)Saraya T, Nunokawa H, Sada M, Takizawa H. Critical pitfall:another cause of wheezing. BMJ Case Rep. 2017;2017.
7)Saraya T.聴診スキル講座.看護roo.

写真1 聴診器を発明したLaennec3)
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表1 各国の肺音の分類と用語4)
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写真2 70年以上前にアスベスト曝露した87歳女性5)
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図 聴診スキル講座では実際の聴診音の聴取も可能
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