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学術・研究

医科2018.02.04 講演

日常診療で使える整形知識(14)
整形外科的外傷学各論(5)
[臨床医学講座より](2018年2月4日)

静岡県・西伊豆健育会病院 院長  仲田 和正先生講演

(2018年12月15日付からのつづき)
膝前十字靱帯損傷
 スキーで転倒する時のように膝屈曲、外反、下腿外旋して転倒した時や走り幅跳びなどで勢い良く着地した時などに受傷する(図1)。前十字靱帯が切れていると走っていて急に停止しようとした時、膝が崩れる。
 Lachman's test:膝を軽度屈曲位。片手で大腿を把持し片手で下腿を把持して下腿を前へ引き出してみる。前へずるずると出るようなら前十字靱帯が切れている。
 前方引き出しテスト:患者を寝かせ膝を立てる。術者は患者の足背の上に座り下腿を引き出す(図2)。
 治療:前十字靱帯が切れていると自然治癒は起こらない。若人では手術するが40〜50歳以上は保存治療をすることが多い。
Osgood Schlatter氏病
 大腿四頭筋は膝蓋腱に変わった後、脛骨粗面に付着する。小児期には脛骨粗面にはまだ軟骨がありランニング、跳躍で大腿四頭筋が収縮し脛骨結節が引かれて損傷を受ける(図3)。治療は一時的に運動を休ませる。
 運動の前には膝前面のストレッチングをよく行わせる(立位で膝を屈曲して手で足首を持ち、足を臀部につける)。
大腿骨骨幹部骨折
 下肢の大きな骨折を見た場合、骨盤骨折の合併を疑うこと
 骨折部は著しく腫脹し屈曲し外旋変形を起こし(足が外側に回旋している)また短縮している(図4)。大腿が妙な格好をしていたら骨折と思え。開放性骨折でなくても皮下で大量に出血するため輸液しないと失血性ショックを起こすことがある。
脂肪塞栓症候群
 大きな骨折が起こった時、骨髄の中の脂肪が静脈に入り肺の血管に詰まってARDS(adult respiratory distress syndrome)と言われる肺炎を起こしたり脳に飛んだり(MRIで診断できることがある)することがある。骨折を起こした患者さんが頭部外傷もないのに妙なことを言い出したり同じことを繰り返し言ったりする時は脂肪塞栓症候群の可能性を考える。結膜や皮膚(特に首、前胸部、脇の下)に小さな点状出血が見られることもある
大腿骨近位部骨折
 お年寄りがつまずいたりして転んだ直後からそけい部を痛がり立つことができない時はまずこれを考える。布団の上で転んだりごくささいな外傷でも起こるので注意せよ。
 若人ではめったにない。仰向けに寝かせると大腿骨骨幹部骨折と同様、折れた側の足が外旋(外側に回旋)する。大腿骨頸部骨折は骨頭直下の頸部が折れる場合(大腿骨頸部内側骨折)とそれより下の大転子から小転子にかけて折れる場合(大腿骨頸部外側骨折)とがある。
 内側か外側かで手術法は全く違ってくる(図5)。
大腿骨頸部骨折(内側骨折)
 大腿骨骨頭への血流は頸部から入って上行し骨頭内に入る。従って骨頭直下で折れると骨頭の血流が悪くなりせっかく手術で骨を接合しても後で骨頭の壊死を起こすことが多い。
 骨折しても骨の転位がほとんどなければ、らし(ねじ)、鋼線、ハンソンピンなどで固定する。骨の転位が大きい時は最初から人工骨頭置換をすることが多い。
 なお股関節の骨頭のみ置換することを人工骨頭置換といい骨頭と臼蓋両方を置換することを人工股関節置換(変形性股関節症などで行われる)という。
大腿骨転子部(間)骨折(外側骨折)
 この場合は骨折していても骨頭の血流は保たれているので骨の接合を行う
 コンプレッション ヒップ スクリュウ(CHS)やエンダー釘、ガンマネイルなどで固定する。現在日本で一番よく使われているのはCHSである。
股関節脱臼
 車の正面衝突で起こることが多い。衝突で膝をダッシュボードに打ち付け大腿骨がロケットのように後ろへ飛び出して後方へ脱臼する。
 股関節は屈曲かつ内転(股を内側へ閉じる動作)したままで動かすことができない。脱臼した側の膝の高さが低い(図6)。後方へ脱臼するとすぐ後ろに坐骨神経があるためこの麻痺を起こすことがある。
 足趾を動かせるか、しびれはないか聞いておこう。早めに整復しないと後で大腿骨骨頭壊死を起こすことがある。整復は麻酔下でないと不可能のことが多い。
 整復法:麻酔下に一名が両手で骨盤を押さえる。もう一名は患者の膝を屈曲し両手、または肩にかついで股関節を内旋位で引っ張る。入ったら外転、外旋する。
骨盤骨折
 外からは分かりにくい。骨盤を軽く押さえてみて痛みの有無を確認。あまり強く押すと再出血を起こすので1回だけとする。時間が経つと骨盤付近が腫れてくる。出血がひどく容易に数リットルは出る。ショック、失血死を起こしやすいので病院への搬送を急げ。
 Malgaigne(マルゲイン、マルゲーニュ)骨折:骨盤輪が二箇所で折れ、不安定なもの。骨盤輪が一箇所で折れている時は安定している。
 治療は保存的治療が多いが創外固定やプレート固定を行うこともある。
・横から落ちると特に恥骨枝の骨折を起こす。
・前後から挟まれると恥骨結合が離開し本を開いたような形(open book)になる。
・高所からの転落で足から着地すると骨盤が垂直方向にずれる(図7)。
脊椎圧迫骨折
 若人では高所から飛び降りて尻餅をついたり、前屈みになってるところへ後ろからのしかかられたりして起こる。老人の場合、布団の上で軽く尻餅をついたり、または凸凹道で車が縦揺れしただけで骨折することがある。背中を痛がりわずかの動作で非常に痛がる。また、肋間神経に沿って痛みが腹部まで放散することがある。
 第12胸椎、第1腰椎の骨折がもっとも多い。しかし、この辺りの胸腰椎移行部が折れた場合、案外このあたりには痛みを感じずもっと下の臀部近くに痛み(放散痛)を感じることが多く、病院でX線を撮っても見逃されてしまうことがある。背骨をこぶしで上から下へ軽く叩いてみると骨折部に一致して痛みを訴えるので分かる。座位だとはっきりせず、寝かせて叩いたほうがよく分かる。下肢のしびれ、麻痺がないか確認すること。
 治療は保存治療が多いが麻痺がある時は手術をすることもある。
(つづく)


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