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学術・研究

医科2018.06.23 講演

総合診療のcommon diseases(上)
[診内研より503](2018年6月23日)

福岡県・飯塚病院 総合診療科  清田 雅智先生講演

はじめに
 Generalistはこれからの日本の医療に必要な存在で、多くの若手医師を育てるのが著者の役割だと考えている。飯塚病院は40万医療圏の中核病院で、大学病院と同じような機能を持っている。この立ち位置の認識は診療上重要で、Medical Ecologyを意識すれば、一般開業医の先生方の診療と大病院の診療で偏りがあり、特に総合診療科にはまれな問題や精神面の問題を抱えた患者さんが集まりやすい傾向を認識できる。
 米国で"Medical Ecology"の調査が行われたのには、医療が国民のニーズを満たしているかを調べる目的があり、1000人の地域住民が実際にどこに受診をしていたかを調査したものである。国内でも福井先生らにより調査が行われ、日本では診療所よりも病院にかかる傾向があることが知られている1)
 その前提で、著者のある日の外来のリストを分析すると、23人中17人には精神面のケアを要する問題があることを示した。英国のデータでは、高齢や社会的・経済的に恵まれないという要因により、患者さんの併存疾患は増えていき、うつ病や不安障害の罹患が高くなることが示されている2)。高齢化を迎えている現在の医療では、不安やうつに対する理解は必要で、Biopsychosocial modelを意識した診療が一般医にも必須になることを示したつもりである。
 総合診療科に紹介される患者さんの中には、強迫性障害(OCD:Obsessive Compulsive Disorder)のspectrumに入る患者さんが多く含まれているのではないかと著者は考えている。このスペクトラムに入る患者さんたちで、その疾患概念が知られていないために原因が不明とされている疾患として、恐怖性姿勢めまい症(PPV:Phobic Postural Vertigo)と習慣性高体温(HH:Habitual Hyperthermia)を今回取り上げてみた。一般開業医の先生方も、一度はそういう患者さんのことを頭に思い浮かぶ経験があったのではと考えている。
PPVの特徴
 講演の前半はPPVを知る上で、めまいの概略を説明した。フランス人のMarie Jean Pierre Flourens(1794〜1867)が、半規管の破壊により鳩の平衡感覚異常を誘発し、ドイツ人のErnst Julius Richard Ewald(1855〜1921)による追試により、半規管が破壊されても代償が起こることが分かり、めまいは時間と共に本来改善が見られるという観察が興味深い。
 末梢性めまいの多くは、中枢性代償が効いて症状は緩和するものであり、例えば前庭神経炎などによる眼振は、一生涯続くという症例はなく、何かしらの代償機転により改善がある。つまり、1カ月異常もめまいが続いているというのは、末梢性めまいとしても少しおかしいのではないかという疑問が生じる。こういう場合には心理性の問題も疑う必要がある。
 PPVは1986年ドイツのミュンヘン大学のThomas Brandtらによって提唱された概念である。もともと、心因性めまいの中で、広場恐怖症や高所恐怖症とは異なるめまい症と考えられており、表1のような特徴があるとした3)。脳外科医や耳鼻科医から当科に紹介される患者さんの大半、また"めまい"の主訴で普通に歩いてくる患者さん、頭を動かす姿勢になるときに感じる持続がほんの数秒しかない"めまい"と訴えの患者さんだと、PPVの可能性が高くなる4)。めまいの原因で最多である、耳石による良性発作性頭位めまい症(BPPV)では通常20秒程度は持続するものである。
 Thomas Brandtの報告では、最も多いBPPVが17.7%に対し、2番目に多いPPVは14.6%であり、実はめまい専門病院では多い原因とされる。国内でも五島先生らが16例の報告をし5)、国内で原因不明とされるめまいの頻度と、Thomas BrandtのPPVの頻度が近似した数値を示し、現時点で原因不明のめまいの診断上PPVが見逃されている可能性が高いと推察される5)。ミュンヘン大学のPPV434人の解析によると、5〜15年の長期フォローができた106例は、生命の危険はないものの83%は何かしらの仕事上の制約がこの"めまい"のため起こっていた6)
 発症して6カ月以内に診断されている群では、症状改善の率が高く、72週以上経過している患者では改善率が低いため、早期の診断とコントロールが必要であることを示唆している6)
OCDの治療
 著者はPPVと診断した患者に対しては、ocd-net.jpというインターネットのサイトを利用して診療にあたっている。このサイトの中の「ocdの症状」に照らし合わせて、強迫行為を日常的にしていないかを確認し、めまいの構図を説明する(図1)。少しでも合致することが分かれば、その行動についての認識を促し、「ocdの認知行療法」という場所7)にある図を利用して診療をしている(図2)。薬剤の介入には抵抗感を示す患者さんも多く、まずは認識を促すことが重要である。
 ごくまれに1回の受診の30分程度で完全によくなった症例を経験しているが、多くは数回の受診を継続し、説明しながら薬剤(SSRI)を導入し、数カ月〜1年は付き合うことが多いことは、医師としては忍耐も要するかもしれない。しかし、改善した時の患者さんからの信頼感は絶大であり、医師冥利に尽きることをお伝えしたい。(次号につづく)
参考文献
1)Fukui T, et al. The ecology of Medical Care in Japan. JMAJ 2005;48(4):163-7
2)Barnett K, et al. Epidemiology of multimorbidity and impli-cations for health care, research, and medical edu-cation:a cross-sectional study. Lancet 2012;380:37-43
3)Brandt T, et al. Phobic postural vertigo:a first follow-up J Neurol 1994;241:191-195
4)清田雅智 今日読んで、明日からできる臨床推論実践編9めまい 日本医事新報4704号2014年6月
5)五島史行ら 本邦におけるPhobic postural vertigo(恐怖性姿勢めまい)症例について Equilibrium Res 2007;66(3):123-9
6)Huppert D, et al. Phobic postural vertigo. A long-term follow up(5-15years)of 106 patients. J Neurol 2005;252:564-9.
7)http://ocd-net.jp/cure/03.html

表1 PPVの特徴
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図1 PPVにおけるOCDの構図
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図2 OCDの認知行動療法
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