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学術・研究

医科2018.06.23 講演

総合診療のcommon diseases(下)
[診内研より503](2018年6月23日)

福岡県・飯塚病院 総合診療科  清田 雅智先生講演

(前号からのつづき)
体温研究の歴史
 講演の後半では、習慣性高体温(HH:habitual hyperthermia)の症例を提示した。若い女性が、高熱が続くという主訴で現れるが、その間に採血や画像検査などをしても異常がはっきりしないという理由で受診する。採血ではCBC、CRP、ESR、TSHを測定し、異常がないことを確認しておく必要がある。なぜなら、体温上昇が炎症により起こる発熱(fever)でなく高体温(hyperthermia)であり、病的でないことを示すためである。
 Carl Reinhold August Wunderlich(1815〜1877)は、当時25000人から100万の体温のデータを測定し、正常体温とは何かを調べていた8)。当時の体温計は長さが30㎝以上あり、一回の計測に20分はかかったとされている。彼のこの努力により腋窩温で37℃がほぼ正常であろうと考えられた。そしてWunderlich自身は、38℃を超える体温は"恐らく"発熱とみて良く、また女性は男性より少し体温が高く、また変動も激しいという観察をしていた。
 米国メリーランド大学のPhillip Mackowiakは、ワクチンの対象者148人から700の体温データを同様に調査して、Wunderlichの観察同様、概ね36.8℃が平均で、日内変動があり、朝が低くて夜が高い傾向を示した9)。国内では昔の水銀体温計では37℃のところに赤い線が引いてあり、一般の人は37℃以上は"発熱"があると理解して、病的な意義がないかを気にするだろうが、実際は、運動や緊張や女性〉男性などで、夕方などには37℃を生理的に超えることがあることを知る必要がある。
 さて、多くの発熱はウイルス感染のように自然軽快することが多いのであるが、2週間以上続く時には何かしらの原因が存在することは、New England Journal of MedicineのMGH-CPCを創設したことでも知られるRichard Clarke Cabot(1868〜1939)が1907年に示した10)。この当時はチフスがその原因の大半であるとしていた。その後、熱源不明の疾患に関する報告が出てくるが、各々の定義が曖昧なため、比較が困難であった。
 1961年にPetersdorfとBeesonが示したいわゆる『古典的不明熱』の定義(図)が、前向きの研究をするために定められ、この基準を満たす症例をYale大学で集めて、100人の最終診断の結果を報告した11)。この基準を作成するにあたり、38.3℃という数値基準を用いているが、これを示した理由が、HHであった。
習慣性高体温(HH)の診断
 HHは、1913年ドイツのMoro教授が小児で発熱が続くという3例の報告をしたのに始まる12)。直腸温で37.8℃〜38℃台の発熱があったが、腋窩温で測りなおすと36.5〜37.2℃であり、数字上37℃以上でも小児は体温も高く、病的意義はないことを提唱していた。
 米国の医師Hobart Amsteth Reimann(1897〜1986)は、William Oslerの書いた教科書Principle and Practice of Medicineの後継編集者Thomas McRaeにゆかりがあり、Thomas Jefferson大学の内科のchairmanを引き継いだ人物である。このReimannが1932年にMoroの観察を踏まえ、18年間も体温が高いとしていた23歳女性の症例を報告し、入院させてみても朝が低く、夕方に高くなるが38.3℃を越えず、さまざまな検査をしてみても異常がない症例をHHと報告した13)。また1935年にreviewを書き、「この状態の患者はしばしば医師が繰り返し行っている検査が陰性であることに不満足になり、ここに示す4例の患者のようにさまざまな医師たちを巡る長いツアーに出て行く」と記述している14)
 HHは、体温上昇という現象が、生理的なものなのか病的なものかを見極める能力を医師に問うているものであり、また身体症状の裏に隠れる心理的な問題を包括的に捉えないと見えてこない疾患と著者は考えている。現代でもそのような患者さんは存在するが、案外検査のみで診断がつかないとして診療のpitfallに陥っていないだろうか?
 今回の講演で明らかにはしていなかったHidden Agendaとして、臨床医として身体症状から疾病(disease)を探り当てるとともに、心理的(Phycological)、社会的(Sociologic)な問題も含めた病気(Illness)をケアすることの重要性を示したつもりである15)
参考文献
8)Mackowiak PA, Worden G. Carl Reinhold August Wunderlich and the evolution of clinical thermometry. CID 1994;18:458-67
9)Mackowiak PA, et al. A critical appraisal of 98.6°F, the upper limit of the normal body temperature, and other legacies of Carl Reinhold August Wunderlich. JAMA 1992;268(12):1578-80
10)Cabot RC. The three long-continued fevers of New England. Boston Med Surg J 1907;157:281-285
11)Petersdorf RG, Beeson PB. Fever of unexplained origin:report on 100cases. Medicine(Baltimore)1961;40:1-30
12)Moro E. Über rektale hyperthermie im Kindesalter. Monastschr f Kinderh 1913;11:430-438
13)Reimann HA. Habitual Hyperthemia. JAMA 1932;99:1860-62
14)Reimann HA. Habitual Hyperthemia. Arch Intern Med 1935;55:792-808
15)日野原重明 未来の医学の中の内科学の位置づけ 日本内科学会雑誌 2014;103(9):2222-2227
(6月23日、診療内容向上研究会より、小見出しは編集部)

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