兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2018.10.20 講演

[保険診療のてびき]
明日から役立つ認知症のかんたん診断と治療(2018年10月20日)

誠弘会池袋病院副院長 脳神経外科部長  平川  亘先生講演

認知症のかんたん診断
 臨床における認知症の病型診断は治療を前提に考えた方が良い。最も大事なのはレビー小体型認知症と前頭側頭型認知症(ピック病)を見逃さないことである。レビー小体型認知症は薬剤感受性が高く、認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬)の副作用が出やすく、ピック病はコリンエステラーゼ阻害薬により興奮性の行動・心理症状(BPSD)が悪化することが多いからである。
 この両者を除外した上でアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症を区別する。日常診療におけるアルツハイマー診断は指模倣テストと時計描画テストが有効である。
指模倣テスト(図1)
 患者さんと対座する。私のまねをしてくださいと言って、両手を出して親指と人さし指で丸を作って見せる(OKマーク)。次いでキツネの形にする。OKマークからキツネの形を作る。次いで左右の手のキツネの耳を合わせる。その後手を元に戻して今度は逆キツネを作ってもらう。右手を180度ひっくりかえして、キツネの耳と耳とを合わせる。
 まずOKマークはほとんどの方ができる。このOKマークからキツネにする段階で人さし指がくっついてしまう、人さし指と中指がくっついてキツネの形が作れないと、まず100%アルツハイマー型認知症である。アルツハイマー要素が大きいほどこの模倣ができない。
時計描画テスト(図2)
〈1枚目〉
 好きな位置に好きな大きさで時計の絵を描いてもらう。小さな円を描くのは頭頂葉の機能が低下している証拠。男性で直径3㎝、女性では直径2.7㎝以下の円を描けば間違いなくアルツハイマーである。この円の小ささは頭頂葉機能の低下の具合を反映しており、病歴の長さが分かる。
〈2枚目〉
 検者が大きな円を描き、それに時計の数字を入れてもらう。ここで着目するのが数字の配置である。頭頂葉機能が低下すると視空間認知が悪くなり、円の空間を上手く認識できず、内側に寄った数字の配列になり、数字の位置が偏位する。ただしこれらの数字の配列の異常はアルツハイマーの初期では認められない。明らかな数字の異常があればアルツハイマー要素が大きい(中等度か重度)。
〈3枚目〉
 検者が時計を描き、それに10時10分の針を入れてもらう。診断のポイントは、まず針の中心を円の中心に描ける(打てる)かである。アルツハイマー型認知症では中心が上にズレる。針の異常はさまざまであるが、中等度以上のアルツハイマー型認知症で認められる。
認知症のかんたん病型診断
 前頭側頭型認知症(ピック病)は、簡単に言うと元気があって怒りっぽい、興奮しやすい認知症である。純粋なピック病は若年者であるが高齢者でもピック病は少なくない。対してレビー小体型認知症は弱々しく元気が無くて、歩行はヨチヨチ歩き(パーキンソン様)、椅子に座ると身体が傾いている患者さんである(体幹傾斜)。寝言や夜中の大声もレビー診断のヒントになる(図3)。
 この二つの認知症をまず初めに鑑別しないといけない理由は、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症とは治療方法が異なるからである。ピック病は認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬)で易怒や興奮が悪化し、レビー小体型認知症は薬剤過敏性のために容易に副作用が出てしまう。
かんたん診断の手順
(1)臨床症状で前頭側頭型認知症とレビー小体型認知症を診断
(2)指模倣テストと時計描画でアルツハイマー度(アルツハイマー要素の大きさ)を診断
 認知症の病型診断に画像検査はあまり役立たない。画像は参考程度にするべきであり、画像を信用するとだまされる。認知症の病型診断に役立つのは患者さんの臨床症状である。
 アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症は厳密には区別しなくてもかまわない。治療方法にさほど差はないからである。ただし認知症と診断するには記憶の障害だけでなく明らかな生活障害があることが必須になる。生活障害がなければ治療を開始する必要はない。
認知症のかんたん治療(図4)
 ドネペジル(アリセプト)は前頭葉の賦活作用が最も強いが、同時に易怒、興奮、妄想、徘徊などの興奮性のBPSDを悪化させることがある。また遅発性に運動障害を認めることがあり注意を要する。アルツハイマー型認知症に対する当院でのドネペジルの治療成績は規定量の半分である2.5㎎が最も良かった。
 高齢者のレビー小体型認知症は副作用のためにドネペジルでは治療困難なことが多い。ドネペジルは少量でも効果的であることが少なくないので、高齢者では患者にあわせた量で治療した方が良い。
 リバスチグミン(イクセロン・リバスタッチ)パッチは覚醒作用が強く効果発現が極めて速い。ドネペジルと同様に過量投与では運動障害の副作用を認める。リバスチグミンは規定量の半分の9㎎でも過量投与になることが多く、高齢者の治療成績は4分の1量の4.5㎎あるいは2.25㎎が最も良い。適応外ではあるがリバスチグミンはレビー小体型認知症には極めて有効であり、せん妄にも効果的である。
 当院で行った検討ではアルツハイマー型認知症に対する2年以上の長期治療成績はガランタミン(レミニール)が最も優れていた。ガランタミンは興奮などの副作用は少ないが、吐気、傾眠、めまい、失禁などが目立ち、半年以上の治療では体重の異常減少が目立つ。規定量で治療できることも多いが、時に患者の元気を奪うため上記二剤と同様に無理な増量は避けるべきである。
 軽度認知障害(MCI)に抗認知症薬を使うかについては論議のあるところだが、当院ではMCI患者にシロスタゾール(プレタール)を使用して良好な治療成績を得ている。シロスタゾールはアルツハイマー型認知症にも有効だが、特にレビー小体型認知症には効果的である。副作用が多いので散剤を使い25㎎×2から使いこなすとよい。頭痛を認める場合には高い確率で効果がある。ただしシロスタゾールのジェネリック品では効果が得られないので注意を要する。
 認知症治療を成功させるには各薬剤の特性を知ることが必要であり、患者に合った薬剤を選択した上で患者をよく観察し、投与量には細心の注意を払い、副作用を出すことなく治療することが大事である。そして抗認知症薬のパフォーマンスを最大限に引き出せれば、治療成績は必ず上がる。
(10月20日、第37回加古川・高砂支部総会記念講演より)

図1 指模倣(OKキツネ)テスト
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図2 時計描画テスト
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図3 認知症のかんたん病型診断
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