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学術・研究

医科2019.02.07 講演

臨床医学講座より
臨床推論(上)〜攻める問診(2019年2月7日)

諏訪中央病院 総合内科  山中 克郎先生講演

 優秀な内科医は80%の診断を問診だけでつけるようです。残りの10%は身体所見、10%は血液/尿検査・画像などの検査が診断に寄与します。医学教育の基礎を築いたWilliam Osler先生(1849〜1919)も次のように述べています。
 "If you listen carefully to the patient, they will tell you the diagnosis."
 「患者さんの言葉に耳を傾けなさい。そうすればおのずと診断は見えてくる」
 問診は大切ですが、患者さんの話をそのまま聞いていてはだめです。症状や既往歴を聞きながら、どこが責任病巣でどのような疾患の可能性が高いのか、鑑別診断をどんどん絞り込んでいくことが重要です。診断に必要なことをズバッと聞きこむ問診技術の習得が必要なのです。
心をつかむ
 不安を持って訪れる患者さんに対しては「それは大変でしたね。今日来ていただいて本当に良かったと思います」と心から共感を持って接し手を握りしめます。最初の1分間で患者さんの心をグッとつかむことが大切です。心が通わなければ重要な情報は聞き出せなくなります。患者さんは全てを医者に話すわけではありません。ただ手を握るだけでは不十分です。患者さんに話しかけながら意識レベルをチェックします。橈骨動脈に触れながら血圧、心拍数(不整脈の有無)、呼吸回数、体温を推定します。プレショック状態なら何とも言えない嫌な冷汗を感じます。
Snap Diagnosisを生かす
 48歳女性。夕食の準備を終えた直後に、自分が作ったおかずを見て「これ何?」と言い出した。生年月日など昔の記憶は保たれているが短期記憶が障害されており、同じ質問を何度も繰り返す。可能性の高い疾患は?
 キーワードから瞬時に診断を思いつく時があります。これをSnap Diagnosis(一発診断)と呼んでいます。私が研修医の時には「誤診するのでSnap Diagnosisは絶対にしてはいけない」と教えられました。本当にそうでしょうか。臨床経験のない医師でも、特徴的な病歴や身体所見から疾患を瞬時に思いつくようにトレーニングを繰り返すことが、臨床診断能力を効果的に高めるために大切です。
 この症例には一過性全健忘(transient global amnesia)に特徴的な症状があります。原因は不明ですが、疼痛、ストレス、息ごらえが誘因となります。一過性全健忘では再発することはまれなので、このような症状を繰り返すならば側頭葉てんかんも鑑別診断に考える必要があります。
キーワードからの展開
 ベテラン内科医は鑑別診断に重要な「キーワード」を問診、身体所見、または検査結果から上手に見つけだし鑑別診断を展開していきます。たとえ大切なキーワードでも、それを起こす原因疾患リストが長すぎるものはだめです。例えば、倦怠感や正球性貧血はあてはまる疾患が多すぎて疾患を絞り込むことができません。
1分以内に最高に達する突然の頭痛
 救急室では1分以内に最高に達する突然発症の頭痛(thunderclap headache)では、くも膜下出血、内頸/椎骨脳底動脈解離、下垂体卒中、脳静脈洞血栓症、可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)を考えなければなりません。頭痛持ちでない40歳以上の人に、いきなり片頭痛が起こることはあり得ません。40歳以上の人が突然ひどい頭痛を起こし来院した時、私はかなり心配になります。このような重要キーワードからの鑑別診断の展開により、見逃してはいけない疾患についてすばやく考えることができます。
朝の頭痛
 最も頻度が高いのは二日酔いでしょう。他には睡眠時無呼吸症候群、一酸化炭素中毒、カフェイン依存症、糖尿病患者の夜間低血糖、脳腫瘍が考えられます。「朝の頭痛」というキーワードを拾うことができれば、これらの病気を想定することができ、どのような問診を追加すべきかが分かります。
 身体所見からも「キーワードからの展開」は可能です。バイタルサインや身体所見の後ろにある意味を読み解くことが大切です。
比較的徐脈
 比較的徐脈とは発熱に比べて脈拍の上昇が少ない状態です。体温1℃の上昇に対し脈拍は10回/分上昇するとされています。この予想値から大きく下回る時に比較的除脈と呼びます。原因としては細胞内感染症(レジオネラ、サルモネラ、ブルセラ、腸チフス、Q熱)が有名です。それ以外にもβ遮断剤の服用や薬剤熱、腎細胞がんが思い浮かべば、すぐにこれらに的を絞り、「攻める問診」を行うことができます。
徐脈+ショック
 徐脈+ショックでは高カリウム血症、低体温、徐脈性不整脈、粘液水腫、副腎不全、脊髄損傷を考えます。腎不全の既往およびNSAIDsの使用、カリウムを上昇させる薬剤の使用(スピロノラクトン、ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬)、血清カリウム測定、心電図、体温測定、TSHとコルチゾールの測定、外傷の有無をすばやくチェックする必要があります。
 検査所見からも鑑別診断が絞り込めます。
血沈〉100㎜/時
 結核、悪性腫瘍、心内膜炎、骨髄炎、亜急性甲状腺炎、側頭動脈炎、リウマチ性多発筋痛症(PMR:polymyalgia rheumatica)、多発性骨髄腫
持続する低血糖
 敗血症、肝硬変、アルコール、副腎不全/下垂体機能不全、ダンピング症候群、インスリノーマ
パッケージで繰り出す質問
 Snap Diagnosisやキーワードからの展開で上手くいかない場合には、可能性がある疾患のさまざまな典型的症状をパッケージにして、それらが存在するかどうかを患者さんに質問することが重要です。例えば、片頭痛では日常生活の妨げ、光過敏、頭痛時の嘔気が最も重要な症状です。さらに振動での増悪、閃輝暗点、拍動性頭痛、持続時間(4〜72時間)、誘引(月経、ストレス、チョコレート、チーズ、赤ワイン)...これらの特徴的な症状をパッケージにしてすばやく攻めたてます。
鑑別診断から原因を推定する
 身体所見から心不全と診断したら、その誘因の推定が大切です。心不全は感染症(多いのは肺炎ですね)、虚血性心疾患、弁膜症、尿毒症、塩分過剰摂取、甲状腺疾患、貧血、不整脈、肺塞栓、薬の飲み忘れにより増悪しますから、これらの誘因がないかどうかを問診や検査データで確認することが大切です。
 敗血症ではフーカスとなりやすい肺炎、腹腔内感染症(胆石胆嚢炎、イレウス、虫垂炎)、尿路感染症、褥瘡のチェックをすばやく行いましょう。
(つづく)

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