兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

医科2019.03.30 講演

恐い疼痛疾患を見抜く6つの基本事項(下)
[診内研より508](2019年3月30日)

順天堂大学医学部附属練馬病院 救急・集中治療科 坂本  壮先生講演

(前号からのつづき)

(3)増強する疼痛は要注意!
 これも(1)、(2)とポイントは同様である。とにかく患者の症状に重きをおくことが大切。痛みの問診において、Onsetの次に大切と考えるのがTime(時間)である。徐々に増悪する疼痛はやはりまずいサインである。
 例えば、75歳の女性が左下腿の痛みを認めて来院したとしよう。見た目は蜂窩織炎らしい所見であるが、痛みが強くなってきているという。本当に蜂窩織炎で良いのだろうか。壊死性軟部組織感染症ではないのだろうか。
 壊死性軟部組織感染症でよく見る写真といえば、色調が悪く、水疱形成を認めるものではあるが、それはある程度時間が経過したものである。そこに至るまでに介入できなければ、治療は難渋し、場合によっては四肢の切断、さらには死に至る病気である。
 適切な介入を行うためには、皮膚所見を正確に読むことよりも、痛み、そしてバイタルサインに注目して判断することをお勧めする。CTやMRIを撮影するのは悪いことではないが、どこでもできる対応とは限らず、1分1秒を争う病気であることを考えると、ベッドサイドで判断可能な指標を持っておいた方が良い。
 それが、[1]痛み、[2]バイタルサインである。痛みが徐々に増悪する、皮疹の範囲を超えて痛みがある場合には要注意である。そして、代謝性アシドーシスの代償である頻呼吸、さらには臓器障害の指標ともなる意識障害を認める場合には、蜂窩織炎と考えるのではなく、壊死性軟部組織感染症を疑って対応するべきだ。
 実際にはfinger testといって、疼痛部位に切開をおき、dish waterを確認することになるが、その後の経過も考えると、痛み、バイタルサインで疑ったら、整形外科(部位によっては泌尿器科)の対応可能な診療科、病院へ迅速に対応を依頼するのが良いだろう。
 アセトアミノフェンなどの痛み止めを使用することは、患者の苦痛を取り除くために重要ではあるが、経静脈的な鎮痛薬で症状が改善傾向にない場合には、"まずい状態"と考え、繰り返し痛み止めを使用するのではなく、腹痛であれば外科的介入が必要な疾患などを考える必要がある。
(4)非典型的な経過は要注意!
 救急外来で見逃される代表的な疾患はいくつかある。虫垂炎や骨折は代表的だ。虫垂炎は胃腸炎と判断されることが多いが、これはちょっとした意識で予防可能である。
 胃腸炎には満たすべき条件が3つある。[1]嘔気、嘔吐・腹痛・下痢の3症状を認める、[2]3症状が上から順(嘔気、嘔吐→腹痛→下痢)に認める、[3]食事摂取後のタイムラグが存在する、これら3つを満たしていれば胃腸炎はその場で診断可能である。
 腹痛を認めその後嘔吐、嘔吐のみ繰り返している、食べた直後に嘔吐などは、胃腸炎らしくない。これらを、きちんと胃腸炎とするには非典型的なので慎重に対応することができれば、虫垂炎や異所性妊娠、急性冠症候群や小脳梗塞、カフェインや薬剤などの中毒症状を見逃すことはぐっと減るはずである。
(5)Common is common!
 30歳代の女性が、全身の関節痛、熱を主訴に来院した。蝶形紅斑を認め、まさかSLE(全身性エリテマトーデス)? と考えてはいけない。
 もちろんその可能性もあるだろうが、もっと頻度の高い疾患が存在する。伝染性紅斑である。子どもであれば、典型的な皮疹や流行の程度によって診断は容易だが、成人がかかると意外と初診時に診断することは難しいこともある。鑑別に挙げ、「お子さんはいますか?」「保育園や幼稚園などで働いていませんか?」など、子どもとの接触歴を確認し精査するとあっという間に診断がつく。
 抗核抗体を提出するのではなく、病歴を聞くことが大切だ。SLEの初発症状と考えるよりも流行性疾患の1つを考える方が疫学的にも理にかなっているのである。
(6)病歴・身体診察・バイタルサインは超重要!
 改めて最後に頭に叩き込んでおこう。80歳女性が胸痛を主訴に救急外来を受診したとしよう。当然ACSは疑って対応するが、ACSは前述の通り1回の診察で否定するのは容易ではない。その際、他の疾患の確定診断が得られれば過度に心配しすぎる必要はない。
 この症例では、心電図は正常、トロポニンも陰性であったため、担当した研修医は1時間後に再度心電図や採血を行う予定としていた。しかし、背部を確認すると皮疹が...。そう、帯状疱疹だったのだ。
 帯状疱疹は高齢者では非常にcommonな疾患であり、痛みや皮疹以外にも、尿閉や運動障害(腕が上がらないなど)、顔面神経麻痺で来院することもある。高齢者では常に意識しておくべき疾患である。
 検査へのアクセスは非常にしやすくなった。しかし、検査の結果の解釈は検査前確率に依存する。大切なことを改めて理解し、見逃し厳禁な疾患を拾い上げよう。
(2019年3月30日、診療内容向上研究会より、講師の役職は当時のもの)
参考図書
坂本壮.内科救急のオキテ.医学書院.2017
坂本壮.あたりまえのことをあたりまえに救急診療の原則集.シーニュ.2017
※学術・研究内検索です。
歯科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(医科)
2017年・研究会一覧PDF(医科)
2016年・研究会一覧PDF(医科)
2015年・研究会一覧PDF(医科)
2014年・研究会一覧PDF(医科)
2013年・研究会一覧PDF(医科)
2012年・研究会一覧PDF(医科)
2011年・研究会一覧PDF(医科)
2010年・研究会一覧PDF(医科)
2009年・研究会一覧PDF(医科)