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学術・研究

医科2019.07.06 講演

これだけは押さえておきたい皮膚疾患診療のコツ(上)
~こっそり学ぶ!ありふれた皮膚疾患~
[診内研より510](2019年7月6日)

医療法人社団 廣仁会 札幌皮膚科クリニック 褥瘡・創傷治癒研究所 安部 正敏先生講演

 皮膚疾患を診療する上において、重要なことは、皮疹を3次元でアセスメントすることである。つまり、皮膚表面に現れた皮疹をただ眺めるだけではなく、その背景にどのような病理学的変化が起こっているのかを推察し、診断につなぐ能力である。その上で、ジェネラリストが頻回に遭遇する皮膚疾患の発症機序を理解することで正しい診断と治療が可能となる。ここではまず皮膚の組織学とアセスメントに言及した上で、ありふれた皮膚疾患について記載する。

皮膚の組織学
 皮膚は、皮下脂肪組織を加えると体重の約15%に及ぶ人体最大の臓器である。皮膚は人体をくまなくすっぽり覆い、過酷な外界環境から内臓を守る健気な臓器であるが、その面積は各個人の手掌100枚分である。皮膚の厚さは1.5~4.0㎜であるが、部位により異なり、眼瞼や包皮・小陰唇内側が最も薄く、手掌・足底が最も厚い。このため、部位により外用薬の吸収に大きな差が出ることが明らかとなっている。
 皮膚は表面から順に、表皮、真皮、皮下組織に分かれ、これ以外に毛孔などの附属器が存在する。外用療法では、表面に塗布された外用薬が表皮から吸収され、真皮レベルにまで達することで効果を発揮する。ただし高齢者に多いドライスキンは表皮の機能低下が大きく関与する。
 表皮は例えると、ブロック塀を想像するとよい。ブロック塀は頑丈なコンクリート製のブロック同士がセメントでしっかり固められて外敵から家を守っている。表皮のブロックにあたるものは角化細胞と呼ばれる。角化細胞は、下から順に基底層、有棘層、顆粒層、角層と4種に分けられる。このうち角層は死んだ細胞であり、表皮の角化細胞はあたかも自らを犠牲にして外敵からわれわれを守ってくれる細胞である反面、一方外用薬の侵入も防ぐこととなる。
 また、表皮には、表面に皮脂膜、表皮細胞間の天然保湿因子、セラミドが存在し、保湿能に関与している。このうち皮脂膜は、さまざまな部位で作られる脂により構成される。脂腺由来のトリグリセライド、スクアレン、ワックスエステルなど、細胞膜由来のコレステロールエステル、遊離コレステロールなど、細胞間由来の脂肪酸、スフィンゴ脂質などが主成分として、外界からの遮断作用を発揮する。いわば目に見えない手袋であり、実は外用薬を塗布しなくても正常な人は脂で覆われている。天然保湿因子は、ケラトヒアリン顆粒から生ずるアミノ酸とアミノ酸代謝産物、糖、ペプチド、無機塩などにより作られる。水分子と結合し、保湿能を発揮する。セラミドは、細胞間脂質であり、サンドイッチ状の構造で水を蓄え、保湿能を発揮する。これらの因子が減少すると、表皮はあたかも"ざる"のようになってしまい、外界からの異物の侵入と共に、生体からの水分が外界に逃げることとなる。
皮疹のアセスメント
 何事も正しいアセスメントなくして正しいケアを行うことはできない。皮膚科領域においては、皮膚に現れる色調変化を発疹学として定義している。これは単に色調変化を表したものではなく、組織学的変化を踏まえたものであり、その発症機序を類推することが可能となる。
 在宅現場ではよく"発赤"という用語を用いるが、これは文字通り皮膚が赤くなっているという状態を指すだけである。赤くなる原因には炎症、出血、充血など様さまざまな状態が含まれ、アセスメントに用いた場合その本質を反映していないものであるといえる。本稿はありふれた皮膚疾患に特化しているため、今回はたった6項目を解説するに留める。まずは、この六つのキーワードを記憶し、使いこなせるように努めたい。
 発疹は原発疹と続発疹に分けられる。それぞれ在宅診療にはコレ!という五つを挙げる。
(1)原発疹
 最初に現れる発疹である。
1.紅斑:真皮乳頭層の血管拡張や充血によりおこる紅色の斑である。硝子板で押すと紅斑は消える。
2.紫斑:皮内出血による紫色の斑。硝子板で押しても紫斑は消えない。
3.白斑:色素脱失や局所の貧血により生じた白色の斑。
4.色素斑:メラニンやヘモジデリンなどによる黒褐色の斑。硝子板で押しても色素斑は消えない。
5.水疱:透明な内容物を有する隆起性発疹。
(2)続発疹
 原発疹や他の続発疹に次いで出てくる発疹である。
 鱗屑:角層が蓄積した結果、白色のいわゆる"フケ"様物質が付着した状態。皮膚が乾燥した場合にもみられる。
湿疹の診断項目
 湿疹・皮膚炎は極めてありふれた皮膚疾患である。湿疹とはあくまで診断名である。時に何でもかんでも"湿疹"と表現する患者に遭遇するが"発疹"という意味で使用しているのがほとんどである。湿疹は、湿疹三角形と呼ばれる三要素を満たしていることで診断する。湿疹と診断する上において、重要な項目は(1)瘙痒、(2)点状状態、(3)多様性、以上3点(図1)であり、漿液性丘疹や充実性丘疹といった多彩な小型の皮疹が同時に存在し、瘙痒を伴う臨床像が重要である(図2)。
 湿疹も「急性湿疹」と「慢性湿疹」の分類がある。急性湿疹はおおむね発症直後で、紅斑、丘疹、漿液性丘疹、びらんなどで構成され、おおむね皮膚表面は湿潤している。一方慢性湿疹は、皮膚表面は乾燥傾向であり、苔癬化などを生ずる長期化した局面である。アトピー性皮膚炎はアレルギー素因を基盤として湿疹が起こりやすい体質と理解することもできる。
 「湿疹」の原因として多いものに「接触皮膚炎」いわゆる"かぶれ"がある。接触皮膚炎は皮膚に接触した物質により惹起される皮膚炎であり、刺激性とアレルギー性に分類される。このうちアレルギー性接触皮膚炎は、物理的バリアで解説したⅣ型アレルギーである。
刺激性接触皮膚炎
 他方、刺激性接触皮膚炎は、アレルギー機序を介さない皮膚炎であり、原因物質の非常に強い刺激により起こる皮膚炎である。この概念は、古くから知られたものであるが、その病態解明は最近になって大きく進んだ。スキンケアにおいては、さまざまな外来物質による刺激性接触皮膚炎も重要であるが、特に失禁患者におけるおむつ部の接触皮膚炎において、その理解は重要である。この他、手湿疹や医療用テープ貼付皮膚などにおいて、アルカリ、洗剤、溶剤、粘着剤などの化学物質に接触することによって生ずる。
 刺激性接触皮膚炎は、皮膚表面に接触した刺激物が表皮細胞を傷害することで、表皮細胞からアデノシン三リン酸や熱ショックタンパク質、尿酸が放出されることがきっかけとなる。それにより表皮細胞からケモカイン〈特定の白血球に作用し、その物質の濃度勾配の方向に白血球を遊走させる活性(走化性)蛋白〉が放出され、病変部に白血球が遊走する。さらに、インターロイキン-1β(IL-1β)や腫瘍壊死因子α(TNF-α)などが産生されることで、病変部に炎症が惹起される。
 以上のことより、皮脂膜やセラミド、天然保湿因子が減少し、バリア機能が障害されている場合、刺激性接触皮膚炎は起こりやすくなることが容易に理解でき、スキンケアの重要性も理解できる。つまり、刺激性接触皮膚炎の予防を行うためには、保湿などを基本とするスキンケアが重要なのである。
 治療は当然原因刺激物を排除することであるが、アレルギー性接触皮膚炎と異なりある程度原因刺激物の濃度や接触回数などを減ずることで対応可能な場合がある。さらに治療は、適切な強さの副腎皮質ステロイド外用が必要であり、さらに場合によっては抗アレルギー薬内服が必要であることを理解させる。
乾燥性湿疹
 乾燥性湿疹(皮脂欠乏性湿疹とも呼ばれる)は、在宅現場において極めてありふれた皮膚疾患である。高齢者に多いが、近年気密性の高い都市型住居などの影響で、幅広い年齢に生ずる。保湿のスキンケアが重要であり、患者教育が重要な疾患である。
 皮膚症状として、通常全身に小型の鱗屑が多数付着する。この状態は、皮膚表面の皮脂膜が欠如し、角質水分量も減少していることを意味する。また、皮脂分泌の減少、セラミドや天然保湿因子の減少が起こり、いわゆるドライスキンの状態に陥り、バリア機能が低下する。高齢者では、生理的にいわゆるドライスキンとなりやすいことを理解させ、保湿のスキンケア方法を指導する。瘙痒は、他人がわからない不快な感覚であることを家族に理解させ、患者支援を促す。
 乾燥性湿疹のケアの基本は保湿薬の外用である。具体的には、保険診療で使用が可能であるヘパリン類似物質含有軟膏(ヒルドイド®ソフト軟膏)や尿素軟膏、白色ワセリンなどを用いる。また、瘙痒を有する場合には副腎皮質ステロイド外用薬を併用する。外用アドヒアランスが悪い場合には、両者を混合処方するのも良い。(つづく)

図1 湿疹三角形
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図2 湿疹の臨床所見
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