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学術・研究

医科2019.07.06 講演

これだけは押さえておきたい皮膚疾患診療のコツ(下)
~こっそり学ぶ!ありふれた皮膚疾患~
[診内研より510](2019年7月6日)

医療法人社団 廣仁会 札幌皮膚科クリニック 褥瘡・創傷治癒研究所 安部 正敏先生講演

(前号からのつづき)
見逃してはいけない皮膚疾患
 見逃してはいけない皮膚疾患は数多く存在するが、本稿では悪性腫瘍に焦点を当てる。皮膚においても、他臓器と同様、さまざまな悪性腫瘍が生ずる。当然、放置しておけば他臓器へ転移し、患者の生命予後に大きな影響を及ぼす。内臓悪性腫瘍同様、皮膚癌においても早期発見が重要である。皮膚に生ずる腫瘍はおおむね自覚症状を伴わないため、患者は単なる湿疹などと自己判断し放置する場合も多い。本稿ではジェネラリストが見逃してはならない皮膚腫瘍である、(1)日光角化症、(2)乳房外パジェット病、(3)基底細胞癌の三つに絞って解説する。
(1)日光角化症
 本症は臨床所見が湿疹・皮膚炎に類似するため、患者は軽症と考えている場合が多い。特に顔面に出現するため、容易に家族などに指摘されるものの、市販薬などで対処されることも多い。
 本症では、自覚症状がない点を見逃してはならない。また、表面の鱗屑が極めて厚い点に着目する必要がある(図7)。時に鱗屑が結節状になったり、皮角とよばれる角状になったりする。また、時に患者が鱗屑を自ら剥がしてしまいびらんとなる場合もあるため注意を要する(図8)。湿疹ではこのような臨床にはならない。
 本症は紫外線照射による、表皮の前癌病変である。表皮基底層付近の細胞に配列の乱れや異型性をみる。放置していると、有棘細胞癌に進展する場合がある。
 治療は、以前は外科的切除が第一選択であった。当然在宅においては難しかったが、近年はイミキモドが保険適用となり、より低侵襲で治療が可能となった。イミキモドは外用薬であり簡便に治療が可能である。この他、液体窒素による凍結療法を行う場合もある。
 日光角化症が進行すると、有棘細胞癌となる。本症は表面が角化傾向を有する乳白色から鮮紅色を呈する硬い腫瘍である。表面は粗糙で時にカリフラワー様外観を呈する(図9)。ただし、症例によっては角化傾向が少なく、比較的表面平滑な紅色結節としてみられる場合もある。本症は進行すると、主に中央部がびらん・潰瘍化し、表面に湿潤した黄白色調の壊死物質が付着するようになる。このため時として皮膚潰瘍と誤診されて延々と外用療法を行われている場合があるが、その間にも癌は内臓に転移してしまう! なお、有棘細胞癌は、熱傷瘢痕や紫外線による日光角化症など先行病変があることがほとんどであるので、詳細な問診が重要である。
 有棘細胞癌の治療は原則外科的切除であり、進行度合いによっては化学療法や放射線療法が選択される。
(2)乳房外パジェット病
 高齢者の外陰部に好発する紅斑であり、湿疹や真菌症として誤診されている患者が多い! 診断できなくともいいので、本症を絶えず疑う姿勢が重要である!
 本症は汗腺細胞由来と考えられている悪性腫瘍である。皮膚科医には良く知られた疾患であるが、未だ他科領域で湿疹やカビと誤診され、病期が進行してしまう症例が存在する。さらに、外陰部であるがゆえに、羞恥心から患者自身が内密にしてしまい、自ら市販薬で長期間加療している場合もある。外陰部の紅斑を診た場合には、必ず本症を念頭に置き、早急に皮膚科受診を促し、皮膚生検すべきである。
 本症は一見、湿疹や白癬を思わせる臨床症状であるので、患者の病識が低い場合が多い。悪性腫瘍であるため、放置していれば死に至るため、早急に適切な治療を受けるように勧めるべきである。
 臨床症状は、外陰部、特に陰茎、陰嚢、陰唇、恥丘を主に侵し、肛囲、会陰などにも発生する境界明瞭な湿潤やびらんを伴う紅斑局面である。時に色素斑や白斑を伴う場合もある。進行するに従い、皮疹は拡大し隆起性の結節を形成する(パジェット癌)。また所属リンパ節転移をみる。時に紅斑上に白色の鱗屑を付し、患者が瘙痒を訴える場合もあるので湿疹やカンジダ症などとの鑑別に十分注意する。しかし、本症でみられる瘙痒は軽度である場合が多く、注意深い病歴聴取が重要である。
 治療は、比較的広範囲な外科的切除を行う。本症においては、病変部外側の健常部と見える部位においても、病理組織学的に腫瘍が存在することが多く、手術に関しては必ず皮膚科専門医にコンサルテーションすべきである。
(3)基底細胞癌
 基底細胞癌は、まず黒色の小腫瘍から始まるため、患者はホクロと誤解する場合が多い。黒色で出血を伴う小腫瘍である。顔面の中央部が好発部位である。皮疹の特徴として、結節の周囲を細かく観察すると、小さな点状の黒色斑がみられることである(図10)。
 基底細胞癌は悪性腫瘍であるが、局所で増殖するものの遠隔転移は少なく、比較的予後良好な腫瘍である。高齢を理由に切除を拒否する患者も少なくないが、放置しておくと腫瘍は拡大を続け、中央部が潰瘍化し悪臭などを伴うこともある。その時点で治療は容易ではないため、腫瘍の生活史を十分説明の上、早期に手術を受けさせるべきである。
 本症に遭遇した場合には、必ず生検し、病理組織学的所見を確認した上で切除する。十分なマージンをとって切除することが重要である。手術を行うことが多く、皮膚科専門医にコンサルテーションすることが重要である。
(2019年7月6日、診療内容向上研究会より)
参考文献
・安部正敏:たった20項目で学べる褥瘡ケア、学研メディカル秀潤社、東京、2014
・安部正敏:たった20項目で学べる外用療法、学研メディカル秀潤社、東京、2014
・安部正敏:たった20項目で学べる皮膚疾患、学研メディカル秀潤社、東京、2015
・安部正敏:たった20項目で学べるスキンケア、学研メディカル秀潤社、東京、2016
・安部正敏:たった20のトピックスで学べる! 創傷・スキンケアの新常識、学研メディカル秀潤社、東京、2018
・安部正敏:たった20項目で学べる在宅 皮膚疾患&スキンケア、学研メディカル秀潤社、東京、2019

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