兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2019.07.27 講演

[保険診療のてびき]
子宮頸がんと予防ワクチンについて (2019年7月27日)

川崎医科大学 産婦人科学教室1 教授  中村 隆文先生講演

若年女性に増える子宮頸がん
 子宮頸がんは、がん腫の中でも細胞診による定期がん検診が一番有効であることは周知の事実であります。しかしながら、罹患数はがん検診の普及とともに順調に低下してきていたのですが、1990年代から再上昇してきています(図1)。これは中高生の性交率やHIVの感染の増加と一致しています。
 2012年に子宮頸がん罹患率は10万人当たり16.7人で、2014年の死亡率は10万人当たり4.5人です。2012年の子宮頸がん罹患数は10,908人で、2014年の死亡数は2,902人です。近年、婦人科がんのなかでも卵巣がんや子宮体がんと比較して30~40歳の若年女性で多いのが子宮頸がんの特徴です(図2)。
発がん性ヒトパピローマウイルス
 子宮頸がんは発がん性ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染で発症します。病理組織では主に扁平上皮がんと腺がんに分類されます。特に子宮頸部腺がんは予後が悪く、また細胞診のがん検診での発見が困難です。頸部腺がんは最近の若年女性の子宮頸がんの上昇と一致して上昇しています(図3)、また20~30歳代の若年女性ではHPV16/18の感染率が約80%と高いことと関連していると考えられます(図4)。
 HPV感染は自然免疫によって2年で感染率が10%まで低下するも、持続感染するケースでがん化します(図5)。
 ウイルスは子宮頸部粘膜の傷から侵入し、基底膜の幹細胞に感染して増加して再感染を繰り返す軽度扁平上皮内病変から、ウイルスDNAが宿主のジェノミックDNAに組み込まれて異形成を発生する高度扁平上皮内病変と進展します。
 つまり子宮頸部軽度異形成(CIN1)・中等度異形成(CIN2)・高度異形成~上皮内がん(CIN3)と多段階発がんして浸潤がんとなります。子宮頸部異形成の自然史はCIN1の1%が浸潤がんに進行し、CIN2では5%、CIN3は約10数%が浸潤がんに進行します(図6)。そのため一般にはCIN3に進行すると子宮頸がんになる前に子宮頸部の一部を切除する円錐切除術を施行して治療します。
子宮頸がんの予防ワクチン
 子宮頸がんの予防ワクチンには2価・4価予防ワクチンがあり、ともに子宮頸がんの発生に約60%関与しているHPV16/18の予防ワクチンです(図7)。子宮頸がんの予防ワクチンは、2009年12月から日本でも承認され、2013年4月から12~16歳女児の定期接種が開始されました。世界ではワクチン接種後CIN3の発生が減少したと報告されています(図8)。最近では子宮頸がんの発生も減少したとの報告も出てきています。
 しかしながら、日本では2013年の定期接種開始後まもなく、重篤な副反応が2価と4価ワクチンを合わせて、約10万回接種に3.9例起きていると報告されたため、厚生労働省は定期接種開始後まもなく、重篤な副反応の疑いで積極的接種勧奨を中止して、6年間も経過してしまいました。しかし世界各国では有意な副反応は科学的には証明されていないことから、継続的に接種を続けています。欧州では70~80%の接種率となる一方、日本では1%以下に減少しています。
ワクチン接種とがん検診の重要性
 私たち医師は、生涯で女性が子宮頸がんになる確率は1.3%(76人に1人)であり、生涯で女性が子宮頸がんで死亡する確率は0.3%(332人に1人)であることを説明して理解していただくとともに、子宮がん検診で子宮頸がんを発見しても、妊娠出産を希望する女性の子宮を摘出しなければならなくなる場合があることから、HPVワクチン接種による子宮頸がんの予防がどれだけ重要であるかを説明する責任があります。
 また子宮摘出や放射線治療で命が救われても若年女性のQOLを下げる重大な副作用や合併症と、残る人生戦い続けなければならないことも説明しなければなりません(図9)。
 特に、定期接種になっているHPVワクチンは、若年子宮頸がんに約80%関与しているHPV16/18感染の予防ワクチンで、若年子宮頸がんを80%予防できる可能性があります(図4)。世界ではワクチン接種後、前がん状態であるCIN3の発生が減少して、流産や早産を増加させる円錐切除術の頻度も減少してきていると報告されています。
 日本では、近年若年子宮頸がんが増加してきています。これから妊娠・出産・育児をしなければならない20~30歳代の若年女性の命と子宮を守るために、HPVワクチン接種とがん検診が重要であることを積極的に発信しなければなりません。
(7月27日、神戸支部研究会より、小見出しは編集部)

図1 子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん罹患数年推移
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図2 年齢階級別罹患数(2013年)
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図3 腺がんの子宮頸がんに占める割合は近年増加傾向にあります
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図4 日本人子宮頸がん患者における年齢別HPVタイプ
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図5 Average clearance,persistence,and progression of carcinogenic HPV infections
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図6 子宮頸部異形成の自然史
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図7 日本人の子宮頸がんに関する発がん性HPVの頻度
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図8 スコットランド各誕生コホート別の接種率、CIN1,2、3リスク比較
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図9 子宮頸がん治療後の問題点
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