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学術・研究

医科2019.12.07 講演

外来での抗菌薬使用
[診内研より511](2019年12月7日)

埼玉医科大学総合医療センター 総合診療内科・感染症科診療部長 岡 秀昭先生講演

はじめに
 外来で抗菌薬を使用する際にまず選択される経口抗菌薬であるが、点滴抗菌薬と異なり消化管から吸収されやすいものを選ぶ必要がある。ニューキノロン系、ST合剤、クリンダマイシン、アモキシシリン、セファレキシン、ミノサイクリンなどは吸収されやすい抗菌薬である。次いで極力、ニューキノロン系は温存する姿勢も大切である。特に肺炎にニューキノロン系を処方する場合、結核ではないか注意する。
呼吸器系疾患で処方すべき抗菌薬
 抗菌薬を処方する対象であるが、典型的な風邪(咳、鼻水、咽頭痛がそろう)では処方するべきではない1)。一方で上気道症状を一切欠いて、熱源が分からない時には尿路感染症や胆管炎、カンピロバクター腸炎の初期、感染性心内膜炎、輸入感染症に注意する。特に悪寒戦慄を伴えば、菌血症、敗血症と考えて、血液培養が必須であるため、安易に経口抗菌薬を処方せず、病院への速やかな紹介や搬送を心がける方が良い。
 鼻水が強い場合、多くの場合には抗菌薬は不要であるが、強い副鼻腔炎症状や自然軽快せず増悪する場合は、アモキシシリンのような肺炎球菌に有効な狭域抗菌薬を処方する。
 咽頭痛が強い場合、まずは心筋梗塞や喉頭蓋炎、深部頸部膿瘍のような致死的疾患が背景にあることがあり、鑑別診断に考慮する。間違いなく咽頭炎でよければ、Center分類に基づいて溶連菌による咽頭炎を拾い上げる。溶連菌であったり、その疑いが強ければやはりアモキシシリンのようなペニシリンを処方する。EBウイルスの懸念があったり、ペニシリンアレルギーがあればクリンダマイシンを処方しても良い。
 咳が主体の場合、肺炎か、気管支炎かの鑑別が重要である。気管支炎であれば原則、抗菌薬を処方しない。ただし、周囲に百日咳の患者がいたり、その疑いがあれば、初回のみマクロライド系を処方して良い。
 肺炎か気管支炎の鑑別には胸部レントゲンを実施して鑑別するのであるが、咳の患者すべてにレントゲンを撮ることは無駄も多い。さらに胸部レントゲンの初期の肺炎の感度は必ずしも高くない2)また必ずしもレントゲンを実施できない外来もあるだろう。そのような場合は病歴とバイタルサイン、身体所見3)を組み合わせて肺炎を臨床診断4)して良い。
 肺炎と臨床診断した場合、重症度判定と非定型肺炎なのかどうかを判断する。
 重症度はバイタルサインが大切であり、炎症反応の値は必ずしも重症度の判断に使用しない。もし、軽症から中等症の肺炎と判定すれば、患者希望や背景を考慮して外来治療をして良い。その際には非定型肺炎を強く疑う場合にはドキシサイクリンやアジスロマイシンを処方するが、そうでない場合には肺炎球菌が主な原因菌であり、十分カバーできるペニシリン系5)であるアモキシシリンやアモキシシリンクラブラン酸を十分量処方する。ニューキノロン系もレボフロキサシンのようなレスピラトリーキノロンならば有効であるが、処方の際に背景に結核でないかに注意し、極力温存する方が望ましい。
避けるべき抗菌薬に注意
 膀胱炎に関しては、大腸菌が主な原因菌であり、近年、ニューキノロン系の耐性化が著しいこともあり、ニューキノロン系を避け、セファレキシンやST合剤6)で治療すると良い。
 蜂窩織炎であれば、溶連菌や黄色ブドウ球菌が主な原因菌であり、これらをカバーできるセファレキシンを選択すると良い7)。第3世代セフェム系はグラム陰性菌へのスペクトラムが第1世代より拡大するものの、蜂窩織炎の原因菌は第1世代で良好にカバーできるため、バイオアベイラビリティが不良であることも合わせ、原則処方しない。
 感染性腸炎は近年、細菌性の場合にはカンピロバクターが本邦では多い8)。カンピロバクター腸炎は自然軽快することもあり、腸炎においては重症度が高くなければ原則として抗菌薬は不要である。重症度が高く、抗菌薬を処方する場合にはカンピロバクター腸炎を主に狙いエリスロマイシンやクラリスロマイシンのようなマクロライド系を処方すると良い。
(2019年12月7日、診療内容向上研究会より、小見出しは編集部)
参考文献
1)かぜ症候群の病型と鑑別診断 田坂佳千 今月の治療 13巻12号2005
2)AmJMed. 2004;117(5):305
3)JAMA 1997;278:1440-5
4)Ann Intern Med, 113:664-670, 1990
5)J Infect Chemother. 2017;23:587-97
6)IDSAガイドライン CID2011;52(5):e103
7)JAMA May 23/30, 2017 Volume 317, Number 20
8)平成28年厚生労働省 食中毒統計資料
全体を通して、
9)岡秀昭 感染症プラチナマニュアル2019 MDSi
推薦図書
10)岸田直樹 誰も教えてくれなかった風邪の診かた 第2版
11)山本舜悟 他 かぜ診療マニュアル 第3版
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