兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2020.10.17 講演

[保険診療のてびき]
てんかん治療ガイドライン~高齢者てんかんを含めて(2020年10月17日)

市立伊丹病院脳神経外科主任部長  二宮 宏智先生講演

てんかんの診断
 てんかんの診断には、発作症状の理解が最も大切です。そして、2回のてんかん発作で治療を開始することが一般的です。
 てんかんの発作症状の分類は、国際てんかん連盟(ILAE)の1981年の分類から2017年の新分類への過渡期ですが、焦点性の発作(部分発作)の時には、意識消失(減損)と運動兆候に注目すると理解が進みます(図)。失神でない意識消失に、動きのある症状と動きのない症状を分けて、目撃者(家族、友人など)から聞き出すことが大切です。
 本講演では、成人てんかんで見られる焦点性発作に話題を絞りました。焦点性のてんかんでもっとも多い内側型側頭葉てんかんでは、前兆に幻臭や上腹部の不快感、発作時の意識減損に加え、一点凝視、口部の自動症、ジストニア肢位などの特徴があります。前頭葉てんかんでは、全身痙攣と間違うような激しい動きや左右差のある強直肢位などがあります。そして、発作の好発時間帯に特徴もあり、前頭葉てんかんでは、夜間未明に多く、救急車で全身痙攣とされていることも多いため、注意深く左右非対称な肢位の目撃があると診断に結びつくことがあります。
てんかんの内服治療
 焦点性の発作の治療では、「第一選択薬としてカルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム」と、てんかん診療ガイドライン2018に記載があります。これはエビデンスに基づく記載で、使い勝手や治療効果、副作用を考慮した推奨順ではありません。実臨床での演者の経験、米国のエキスパートオピニオン2016を参考に、新規の抗てんかん薬を中心にした、副作用の少ない治療薬で、患者さんの忍容性の得られる薬剤の選択を演者は勧めています。
 新規の抗てんかん薬は、相互作用も少なく、作用機序がはっきりしていることから、多剤併用がしやすく、代謝の点では腎排泄型もあり、また、点滴製剤やドライシロップなど剤型が豊富で、アドヒアランスを得られやすいという利点があります。
 一方、古典的となった抗てんかん薬は、使い勝手に習熟された先生も多いのが利点ですが、酵素誘導薬で併用薬の代謝を促進し相互作用をもたらすことに注意が必要だと、近年注意喚起しています。Scottらは新規のてんかん治療に酵素誘導薬を使用し、有意差をもって脂質異常、血管障害を認め、古典的な抗てんかん薬の使用を悪い選択だ(poor choice)と言及しました(Epilepsia, 2020)。てんかんが神経の慢性疾患であり、小児期の発症では50年服用することも念頭に治療薬を選択していく必要があるのではないかと考えています。
新規の抗てんかん薬について
 講演では焦点性発作の治療薬として、異なる作用機序の新規の抗てんかん薬を二つ紹介しました。ラコサミドとレベチラセタムです。いずれも血中濃度の測定は不要で、他の内服薬との相互作用がほぼありません。
 前者は、肝代謝が30%、腎代謝が40%であるのに対して、後者は肝代謝がほぼなく、腎代謝が70%とされています。そして、いずれも剤型が豊富であることを特徴にしています。
 てんかん患者さんが全身麻酔で手術を受けるときや、消化管出血で絶飲食となったとき、この2剤は、他剤に変更することなく、同量の点滴製剤で治療を維持することができます。てんかん患者さんの発作のリスクを軽減する利点の多い治療薬となっています。
高齢者てんかん
 最後に、話題に上ることも多い高齢者てんかんについて、自験例を述べます。
 2019年5月末で、てんかん外来609名において高齢者は、124名、20.3%を占めていました。さらに、65歳以上で発症したのは82名でした。この高齢での発症のてんかん患者さんに焦点を当てると、初発症状は、全身痙攣が21%、意識減損が43%、痙攣重積が2%、非痙攣性重積が2%で、意識に関わった発作が67%と3分の2を占めていました。てんかんセンターなので、CTやMRIで病変のない症例のご紹介が多く、49%と半数を占めていました。
 つまり、病変がなく、意識障害を呈するときに失神との鑑別が難しく紹介されてきたのが多かった結果となっていました。丁寧な問診と目撃証言が大切なのだろうと考えています。
 治療は、1剤加療がもっとも多く、56%でした。次に多いのが経過観察希望で、27%でした。1年以上の発作消失を得られたのが82%で、経過観察者は順次近医へ紹介していました。
 高齢者は、併存症で服薬の多い方が多く、てんかん診療ガイドラインでは、「レベチラセタム、ラモトリギン、ガバペンチン」を推奨されています。当科でも抗てんかん薬は多種類を使用していましたが、結果的にレベチラセタムの使用が最も多く、76%の忍容性が得られ、最も高い継続率となっていました。
 高齢者の初回てんかん発作は、再発しやすく、初回発作でも治療開始を検討しても良いと国際てんかん連盟の「てんかんの実用的臨床定義」にも記載されました(Epilepsia, 2014)。ARIC studyから認知症と脳卒中の既往は、てんかんのリスクとされました(JAMA Neurol, 2018)。そして、認知機能低下時には、新規の抗てんかん薬が忍容性と効果で優れているとされてきました(Lancet Neurol, 2017)。
 以上を踏まえ、初回のてんかん発作て゛あっても、高齢者てんかんは、新規の抗てんかん薬での治療を勧めることを講演でお伝えしました。明日からの診療に活かされることを祈念しています。
(2020年10月17日、第41回神戸支部総会記念講演より)

図 2017年の発作型の分類(新分類)

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