兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2020.11.01 講演

第29回日常診療経験交流会演題より
[保険診療のてびき]
新型コロナウイルス感染症診療に関するアンケート調査の結果(下)(2020年11月1日)

西宮市・半田医院院長  半田 伸夫先生講演

(前号からのつづき)
アンケート結果
 保健所との問題(問7)については、あると回答した施設は17(11%)と少なかったが、保健所はできる限りPCR検査を避けようとしている、すべてかかりつけ医に受診と返答する、など診療所と保健所の対応の感覚の違いが指摘された。
 新型コロナへの貴院の対応についてクレームがあったか(問8)の設問では、あるとの回答は13件しかなかったが、過剰自粛で病状が悪化した例、発熱患者診察で時間がかかったため待ち時間のクレーム、院外(門外、廊下)で診察したことのクレーム、入院患者の面会再開の要望、感染者がバイキン扱いされた、十分に接触者と思われる例が保健所ではPCR検査から漏れていた、など一定の不満があった。
 新型コロナを指定感染症から解除すべきと考えられるかどうか(問9)については、図4に示したように、各科で意見が異なるものの、経過を見てから解除すべきとの考えが多かった。
 直ちに解除すべきと回答した人からは、報道されるほど重症化しないから、風評被害がおこるから、保健所を介さない従来の診療ルートで診察するほうが連携しやすい、届け出や隔離は不要では、医療体制への負担軽減のため、など。
 このままでよいでは、ワクチンや治療薬が開発されていない、感染が拡大する、クリニックでの対応は困難、医療費は公費のままで良い、重要な感染症だから、集団免疫ができるまではこのままでよい、2類のまま要件を緩和して対応、など。
 経過を見て解除では、基本は風邪のウイルスであり、重症化も少ない、ワクチンが開発されればインフルエンザ同様で良い、決して弱毒化していない、感染者の診断が困難だから、などであった。
考察
 重症肺炎を発症する新型コロナウイルス感染症COVID-19は世界中に広がり、2020年11月に入っても終焉する様子は見られない。この疾病の特徴は、高齢者や、肥満者、高血圧、糖尿病などの基礎疾患を有する人が感染した場合に、急速に成人呼吸窮迫症候群(ARDS)を起こして、死に至ることがあることと、症状発現前の無症候時にも感染力を有することである。このことから、防疫、公衆衛生面においても、また、医療、治療面においても極めて対応が難しい疾病である2)
 新興感染症で2類感染症であるため、全例報告や隔離を余儀なくされることから、公衆衛生面での保健所への負荷が極めて大きく、診断根拠となるPCR検査を十分に活用できなかった。このため政府としては、当初は病院での発熱外来の設置を進め、各医師会にPCRセンターの立ち上げなどを推奨してきている。その結果は西宮市のPCRセンター稼働などに表れている3)
 その後特効薬はないものの、疾病管理方法が整理され、当初高かった死亡率も少しずつ低下している。このため、政府や地方自治体は、一般診療所においても発熱外来を推進するための方策(補助金による奨励)を進め始めた4)。急性呼吸器疾患や有熱患者を診療する機会が多い、内科や小児科、耳鼻科では、対策ができるのであれば、PCR検体採取のできるいわゆる「発熱外来」で診療できれば、患者のニーズには応えやすい。一方で、疑い患者を異なる動線で診療できる体制を確保できるかどうかは、各診療所にとっては負担の重い課題でもある。明確な指針がない中で、ともすれば医療機関のボランティア精神にゆだねることは、今後の感染症対策にも齟齬が生じかねない。
 今回のアンケート調査は、比較的検査体制が確立しつつある西宮・芦屋支部におけるリアルタイムの新型コロナウイルス感染症対策や意見を求めたものである。その結果は、多くの診療所においては従来の対面診療を行うことは難しく、また薬局への配慮も必要であることが分かった。指定感染症についての考え方は、大きく意見が分かれ、治療法や予防法が確立するまでは現状のままで対応することが実質的であるとの意見が多かったが、指定感染症から外して、日常診療として取り組みたいという意見もみられた。もちろん、危険な感染症である限り、指定感染症として全例追跡の必要は残っている。
 また感染蔓延初期においては、保健所と医療機関の間でのPCR検査の適応について、感覚の相違があり、医療機関側としては、適応拡大を訴え、保健所側としては、適応を絞る方向にあったことは否めない。検査能力が拡大することで、それらは解消されつつあるが、保険適応となった現状では、いずれ多くの適応外検査となり返戻が増えることは予測される。
 われわれ一般医家は、未知の新しいこの疾患に関して、定期的に勉強会を開催し、専門家からの意見を聞いて、今後の診療の一助とするしかない。そのために、兵庫県保険医協会西宮・芦屋支部としては、新型コロナウイルス感染症の勉強会を定期的に開催しており、今後も継続しようと考えている。
まとめ
1.新型コロナウイルス感染症に対しての対応の現況をアンケート調査した。
2.歯科を含めて多くの医療機関から回答を得た。
3.現状では半数の医療機関が、診察室での対面診療は行えないのが実情であった。
4.また、診療後の院外処方では、半数の医療機関で発熱患者であることの情報を調剤薬局に通知していなかった。
5.現状では改善しているものの、保健所と医療機関でのPCR検査適応の温度差が存在した。
6.指定感染症解除については、治療法が確立するか、否か、が分かれ道になる
(11月1日、第29回日常診療経験交流会より、終わり)
参考文献
2)診療の手引き検討委員会編:新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き第3版 2020
3)PCR検査センター設置のお知らせ:西宮市政ニュース?WEB版 2020年8月10日第1578号
4)令和2年度インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金(インフルエンザ流行期に備えた発熱患者の外来診療・検査体制確保事業及びインフルエンザ流行期に備えた発熱患者の電話相談体制整備事業)に関するQ&A(第1版)について:事務連絡、令和2年9月29日 https://www.mhlw.go.jp/content/000678960.pdf

図4 指定感染症から解除すべきと考えるかどうかについて(問9)
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