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学術・研究

医科2020.11.28 講演

血算・生化学検査で患者の病態がここまでわかる
-信州大学方式のReversed Clinico-pathological Conference(RCPC)を用いて-
[診内研より518] (2020年11月28日)

信州大学医学部病態解析診断学 教授  本田 孝行先生講演

ルーチン検査(基本的検査)

 Reversed Clinico-pathological Conference(RCPC)では、検査値のみで患者の病態を検討するという、臨床でしてはいけないことをあえて行っている。現病歴および現症に惑わされずに、検査値を読むトレーニングを行う。
 世界中で最も頻回に行われている臨床検査は、血算、生化学、凝固線溶、尿検査である。信州大学では、これらに動脈血ガス分析を加えてルーチン検査と呼んでおり、河合忠先生の基本的検査に相当する1)。ルーチン検査は、臨床で十分に活用されているとは言えない。ルーチン検査を解釈する系統的な教育が行われていないのが最大の原因であり、医療従事者自身が詳細にルーチン検査を読めると勘違いしている。
 ルーチン検査は、各々が密接に関係しているのが特徴で、一つの検査だけでは患者の病態を捉えられない。複数の検査値を組み合わせて初めて患者の病態が明らかになり、これらの検査値を時系列で検討できれば、患者の経過が追える。ルーチン検査を読むには、それなりのトレーニングが必要である。
 総合診療では、現病歴+現症にて4~6の鑑別診断を挙げる。臨床検査の立場からは、現病歴+現症+ルーチン検査でお願いしたい。多少の医療費を要するが、より正確な鑑別診断ができる。ルーチン検査は陰性所見にも意味があり、現病歴+現症だけでは得にくい"肝臓・腎臓には問題ない"等の所見は重要である。ルーチン検査で鑑別診断が絞れれば、確定診断検査の回数が減り、医療費削減にもつながる。
 信州大学方式のRCPCでは、なるべく多くのルーチン検査を行った症例を検討している。必要ない検査と理解して初めて最小限の検査が行えるからで、多くの検査を推奨してはいない。RCPCは、最小限の検査を行うためのトレーニングでもある。
 検査を最大限に活用してほしいというのが、臨床検査室の願いである。ルーチン検査は病態を検討するので、診察によく似ている。"診察するようにルーチン検査を読もう"と"ルーチン検査が読めると、医者としての人生が2倍楽しくなる"は、私がRCPCの講義の前に学生に伝える口癖であり、私自身の実感でもある。

信州大学方式RCPCの四つの特徴

a.ルーチン検査データで患者の病態を読む
 ルーチン検査は、血算、生化学、凝固線溶、尿・便検査および動脈血ガス分析を含んでいる。これらの検査値にて患者の病態を詳細に解析するのが、信州大学方式の検査値の読み方である。
b.患者を診察するように13の病態を解析する
 表の13病態を同じ順序で解析する。全身状態を把握し、次に各臓器の病態を探る。それらをまとめると、患者の病態が見え、診断につながることも少なくない。
c.時系列検査データで患者の病態を読む
 ルーチン検査はその変動に意味があるので、時系列で読む必要があり、習慣づけなければならない。変動幅および変動速度により病態が異なる。基準範囲内にあっても変動すれば意味がある。
d.複数の検査データで一つの病態を読む
 一つのルーチン検査データで病態のくわしい解析は不可能で、複数データを組み合わせて検討しなければならない。そのためには、各々の検査値がどのようなメカニズムで増減するかを正確に理解する必要がある。

ルーチン検査を読むために必要な知識を得る

 複数の検査を用いて一つの病態を解釈するためには、各検査項目が異常値をとるメカニズムを正確に理解しなければならない。理解せずに、ルーチン検査値を読むことはできない。
 ただ、頻繁に用いるルーチン検査は50項目程度であり、学習にはそれほど時間を要さない。50項目の異常値の出るメカニズムが理解できれば、あとは実践あるのみである。日々検査データを読んで考えるだけで、めきめきと上達する。長い医師としての人生の中のどこでルーチン検査の解釈方法を学べばよいか。私には、なるべく早くとしか言いようがない。
 これらの知識を得るため、下記の2冊の本をお勧めする。
・異常値の出るメカニズム第7版、医学書院2)
・水・電解質と酸塩基平衡第2版、南江堂3)
 また、実際に信州大学方式のRCPCを学ぶためには、
・検査値を読むトレーニング -ルーチン検査でここまでわかる-、医学書院4)

(2020年11月28日、診療内容向上研究会より)

参考文献

1)河合忠、目で見る初期診療の検査計画と結果の読み方、東京臨床病理センター、東京、1998
2)河合忠(監修)、山田俊幸、本田孝行(編集)、異常値の出るメカニズム第7版、医学書院、東京、2019
3)黒川清、水・電解質と酸塩基平衡第2版、南江堂、東京、2004
4)本田孝行、検査値を読むトレーニング -ルーチン検査でここまでわかる-、医学書院、2019

表 13病態と検査項目
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