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学術・研究

医科2020.12.12 講演

CKDの診療
-透析導入ばかりでなく、CKDの発症を予防する-
[診内研より519] (2020年12月12日)

吉祥寺あさひ病院 副院長 腎臓内科
東京医科大学 腎臓内科学分野 兼任教授
日本腎臓病協会 腎臓病療養指導士 教育研修小委員会 委員長
安田 隆先生講演

新規透析患者数の減少目標
 慢性腎臓病は、透析療法が必要となる末期腎不全にいたるばかりでなく、心血管系疾患の発症リスクが増加する疾患で、進行とともに患者のQOLを低下させる。2018年に厚生労働省より、腎疾患対策のさらなる推進をめざして「腎疾患対策検討会報告書」が提示された。その中にはCKD重症化予防の徹底とCKD患者のQOLの維持向上という全体目標とともに、「2028年までに、年間新規透析患者数を35,000人以下に減少させる」という具体的な達成すべき成果目標が示された。
 2018年の新規透析患者数はおよそ40,000人であり、目標達成には今後10年間で新規透析患者数を1割以上減少させる必要がある。このためには、進行したCKDを腎臓専門医が適切に管理するとともに、CKDの発症を予防し、治療効果の高いCKD早期から適切な管理を行うことが重要である。したがって、一般の診療医がCKDの発症および進行促進因子を理解し、適切に対応していくことが大切となる。
患者の行動変容への支援を
 CKDの発症、そして早期CKDの進行を抑制するために管理すべき事項には、血圧、血糖、脂質、尿酸値の管理に加え、適切な食事療法、適切な体重の維持、運動の励行、禁煙、飲酒量の適正化など多数ある。できるだけ多くの項目を管理することが、予後の改善につながることが示されているため、可能な限り多くの事項への介入が必要となる。
 一方、これらの事項の多くは患者自身によるセルフケア、すなわち行動変容を要するものである。忙しい外来診療において、医師のみで行動変容を促進していくのは至難の業である。行動変容を促すには、多職種の医療者が患者に関わり、それぞれの立場から適切な支援を行う必要がある。
腎臓病療養指導士
 日本腎臓学会では、腎臓病の克服へ向けて日本腎臓病協会を立ち上げ、協会が取り組む四つの事業の一つとして腎臓病療養指導士の育成とその普及が掲げられた。腎臓病療養指導士は、チーム医療に際して、それぞれの職種の専門的な知識のみならず、他職種の分野においてもCKD管理についての基本的な共通知識を持ち、適切な指導を行うことのできる医療スタッフの資格である。すなわち、チーム医療の一員として正しい知識のもとで、適切な指導を広く普及させるための制度である。
 現在、看護師、薬剤師、管理栄養士の資格を有する方々が腎臓病療養指導士の資格を得ることができるが、資格は容易に取得できる制度となっている。診療所や薬局においても医療スタッフがこの資格を取得し、CKDの予防と進行抑制のために多職種で患者に関わっていただけることを切に願っている。
目標血圧を設定する
 血圧の管理はCKDの発症予防、そしてCKDの進行抑制のためにも重要である。食塩制限をはじめとする生活習慣の是正とともに、個々の患者にふさわしい血圧とするには降圧薬を使用しなければならない。蛋白尿を伴う症例では、血圧管理とともに、蛋白尿の可能な限りの減少も目標とするため、RAS阻害薬の使用が勧められている。
 血圧はより低い値を目標とするが、過度の降圧は急性腎障害(acute kidney injury; AKI)やめまいやふらつき、さらに転倒、骨折の危険があるため、目標血圧は個々の症例の状態にあわせて決定すべきである。高齢などで動脈硬化の進行した症例では下げすぎに注意が必要である。血圧の自己管理を強化するには家庭血圧の測定と記録が重要で、これにより過剰な降圧を予防することもできる。
血糖管理と食事療法
 糖尿病を伴うCKDでは、血糖の管理も重要である。一方、CKDでは、腎機能障害の進行とともに低血糖を生じやすくなる点には注意が必要である。血糖管理には、メトフォルミンに加えて、DPP4阻害薬、SGLT-2阻害薬、GLP1受容体作動薬などの低血糖を生じにくい薬剤が使用可能となってきている。これらの薬剤は、その有用性と副作用を考慮して、使い分けていくことが勧められる。
 食事療法では食塩制限、そして進行したCKDではサルコペニアや栄養障害を生じない工夫のもとでの蛋白制限が行われる。また、CKDというとカリウム(K)摂取制限が強調されてきたが、むしろ果物や野菜などからKや植物繊維成分を多く摂取することによる血圧低下や腎機能障害進行抑制効果が明らかとなってきた。
 このため、CKDの初期ではKの制限は必要なく、むしろKの積極的な摂取が勧められる。もちろん高K血症の発症には常に注意が必要で、CKDの管理には腎機能とともに定期的な血清K濃度のチェックを欠かすことはできない。
 知っておくべき食事療法の追加すべき点はリン(P)の摂取制限である。CKDでは血管石灰化の進行が予後と深い関連を有している。そして、CKDでは早期から体内でのPの過剰貯留が示されている。過剰なPは血管石灰化を引き起こし、心血管系疾患発症と関連する。摂取したPの吸収は、肉や野菜に含まれるPでは比較的少なく、無機Pは90%以上が吸収される。このため、食品の安定化剤などとして用いられる無機Pを多く含む食品、すなわち、加工食品や清涼飲料などをできるだけ避けることが大切である。
AKIの予防を念頭に
 CKD管理において注意すべき点の第一は、AKIを予防するという点である。CKDはAKIの最大の感受性増大因子で、CKDでは腎毒性の薬剤の使用や軽度の脱水などの些細な要因でAKIを起こしやすくなる。そして、AKIの反復はCKDの進行を促進させる。このため、腎毒性の薬剤の回避や予防接種などによるAKIの予防を念頭に置いた診療が必要となる。CKDではその他にも、骨粗鬆症や骨折リスク、そして歯周病の増加、さらに低栄養やフレイルなどのリスクが高いことが知られている。このため、長期にわたる診療継続の中でこれらを予防していくことが大切である。
 また、CKDでは腎機能障害の進行とともに腎性貧血、治療抵抗性の高血圧、高K血症、酸血症などさまざまな併発症が出現する。これらは腎臓専門医の管理を要することが多く、必要と考えられる症例では腎臓専門医に紹介の上、二人主治医となって、腎臓専門医のアドバイスの元での管理が勧められる。
患者ごとに柔軟な対応を
 CKDの発症そして進展防止には、CKDのリスクの段階および早期CKDからの多方面にわたる長期的な管理が必要である。継続には患者の生き方に配慮した方法が必須となる。腎臓病療養指導士の活用を含め、多職種で患者の気持ちをくみ取り、患者にふさわしい対応が行われていくことが望まれる。

(2020年12月12日、診療内容向上研究会より、小見出しは編集部)

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