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学術・研究

医科2021.06.26 講演

[保険診療のてびき]
緊急避妊薬の処方とよくある質問への回答(2021年6月26日)

淀川キリスト教病院 産婦人科  柴田 綾子先生講演

 日本では1年間に16万人の女性が人工妊娠中絶術を受けており、性教育を含め予期しない妊娠の予防は早急の課題です。緊急避妊薬(アフターピルとも呼ばれる)は産婦人科医でなくても医師免許があれば処方でき、望まない妊娠を予防できます。新型コロナの流行に鑑み、緊急避妊薬のオンライン診療では、(1)処方箋はFAXで薬局へ送付でき、(2)薬は患者の自宅へ郵送で届けることも可能となっています2)。今回は、緊急避妊の処方とよくある質問への解説を紹介します。

急避妊薬(レボノルゲストレル)の処方の流れ2)

(1)問 診
・最終月経、性行為の日・避妊法を確認
 →現在妊娠していないこと、性行為から72時間以内であることを確認
・薬剤アレルギー、重篤な肝障害
 →禁忌項目がないか確認
(2)緊急避妊薬の説明
・服用方法
 →時間が経つと効果が下がるため、早く飲むように説明する。妊娠阻止率は、性行為から24時間以内で95%、25〜48時間で85%、49〜72時間で58%と低下する2)
・副作用
 →嘔気、不正出血、頭痛が起こることがあるが自然に改善することを説明
・値段
 →自費であり、レボノルゲストレル先発品で2万円前後、後発品で1万円前後となる
(3)情報提供
・確実な避妊方法の説明
 →内服後は確実な避妊が必要であることを説明
・性暴力被害の方の場合
 →ワンストップセンター(相談窓口)の情報提供をする
・産婦人科の受診について
 →内服後3週間以内に月経が来ないときは妊娠検査または産婦人科受診を推奨

よくある質問への解説

(1)副作用は大丈夫?
 レボノルゲストレルは黄体ホルモン単剤であり、低用量ピルのように血栓のリスクはありません。禁忌は、黄体ホルモンへの薬剤アレルギー、妊娠、重篤な肝障害の三つです。アメリカ産婦人科学会は「緊急避妊薬には重篤な副作用はなく、基礎疾患がある人を含めて安全に内服できる」としています。ヤッペ法(中用量ピルを使用した緊急避妊)では、嘔気・頭痛などが起こりやすいですが、レボノルゲストレルの国内使用成績調査では嘔気・頭痛の頻度は1〜2%と低く、もし起こったとしても1日で自然に改善します。薬の内服後2時間以内に嘔吐があった場合は、成分が吸収されていない可能性があり再度内服が必要です。
(2)飲むと将来妊娠しにくくなる?
 黄体ホルモンを内服しても将来の妊娠への悪影響や不妊症のリスクは上昇しません。内服後に不正出血が起きることがありますが、その後の月経周期や妊娠へは長期的な悪影響は起こりません。
(3)もし妊娠してしまったときは?
 妊娠していることを気づかずに緊急避妊ピルや低用量ピルを飲んでしまったとしても、胎児の形態異常(奇形)リスクは上昇しないとされています。胎児へ悪影響はないため、妊娠はそのまま継続可能ですが、産婦人科を受診し診察を受けてください。
(4)何度も使っても大丈夫?
 レボノルゲストレル内服後、12時間以内の性行為であれば追加の内服は不要です2)。緊急避妊薬は必要であれば何度でも安全に使用できますが、一時的に月経不順が起こることがあります。確実な避妊法である避妊ピル(低用量ピル)の使用をお勧めしてください。
(5)妊娠していないか心配
 緊急避妊薬を飲んですぐには、効果判定はできません。次の月経がちゃんと来れば妊娠していないことが分かります。内服して21日しても月経がこない場合は妊娠検査(尿中hCG検査)または産婦人科受診をしてください。
(6)避妊ピルを飲み始めたい
 医学的には、レボノルゲストレル内服後は翌日から避妊ピルの内服を開始/再開可能です。
 ただしその場合は避妊ピルの1シートを飲み終わらないと月経(消退出血)がこないため、妊娠していた場合に発見が遅くなることがあります。理想は「次の月経がくるまでは禁欲をし、月経が来て妊娠していないことが判明してから避妊ピルを飲み始める」です。禁欲が難しい状況であれば、レボノルゲストレル内服翌日から避妊ピルの内服を開始していただきます。避妊ピルのシートを飲み終わっても月経がこないときは妊娠検査が必要です。
(7)新型コロナウイルスのワクチンは接種していいの?
 現時点では新型コロナのmRNAワクチン(ファイザー社、モデルナ社)の接種で血栓症リスクが上昇するという報告はありません。緊急避妊薬、低用量ピルともに、ワクチン接種前後でも通常どおり内服可能です。
(8)望まない性行為をされた
 女性自身が望まない性行為を強要された場合は、性暴力被害になります。相談窓口のワンストップセンターへご相談ください(全国共通の電話番号は#8891)3)。兵庫県では、
・性暴力被害者支援センター・ひょうご電話06-6480−1155
・ひょうご性被害ケアセンター「よりそい」電話078-367−7874
 緊急避妊薬は、すみやかに処方し内服していただきます。警察へ被害を届けることで、薬や診療費用の一部(または全額)が支援される制度があります。性暴力被害状況の確認や記録、性感染症の検査・治療には産婦人科での診察が必要です。
(9)薬の機序は?
 レボノルゲストレルの緊急避妊薬では、黄体形成ホルモン(LH:Luteinizing hormone)の上昇を抑え、卵巣からの排卵を約5〜7日間遅延されることが1番の機序だと考えられています2)。そのため数日後に排卵するときは、妊娠しやすい状態になっています。緊急避妊薬の内服後は妊娠しやすくなっているため、確実に避妊をしていただく必要があります。

(6月26日、薬科部研究会より)

参考文献

1)緊急避妊薬のオンライン診療についてのお知らせ、日本産科婦人科学会、令和2年9月
  http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20200907_whc.pdf
2)緊急避妊法の適正使用に関する指針−日本産科婦人科学会、平成28年度改訂版
  http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/kinkyuhinin_shishin_H28.pdf
3)性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
  https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html

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