兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2021.10.23 講演

[保険診療のてびき] 
気血水(津液)について(2021年10月23日)

東大阪市・小阪医院  曺  桂植先生講演

はじめに
 人が生存するためには先天の精(両親から受け継いだ物)、後天の精(地上の精、天空の清気、睡眠)が必要です。気血津液は後天の精に属します。なかでも、重要なのは睡眠で、睡眠中に、体は正常細胞の再生、異形細胞(癌細胞の元)の駆除、体の成長、さらに腎陰の補充が行われています。細胞の新生は約1カ月、血液は約3カ月で生まれ変わります。
気の生理
 気は生理機能を五臓に分けて検討します。
 (1)腎気は温煦作用によって腎陰を温め、全身に巡らせ、臓腑に栄養と潤い(虚熱の鎮静)を与えます。また、回収された津液を気化して清と濁に分け、濁は尿として排出します。腎陽は全身の陽気の元となり、臓腑に真陽を付与します。腎は"先天の本"と言われます。
 (2)脾気は地上の精より"水穀の精微"を胃腸から吸収(運化作用)して、昇清作用により肝に受け渡します。脾は"後天の本"と言われます。
 (3)肝気は発揚作用により、脾から受け取った"水穀の精微"を肺に運び入れます。また、肝気は肺との協調で発汗の調節を行っています。さらに、肝気は肺において上昇から下降性に変換して、肝の疏泄作用が心の推動作用と協調して、"巡る物"を全身全細胞に搬送します。
 (4)肺気は天空の清気を取り込み"水穀の精微"を気、血に完成させます(図1)。肺は肝の発揚作用と協調して発汗し、体温の調節、表層の防衛機能を果たしています。肺気は上昇(宣散)から下降性(粛降)に変換して、気血を下降性に全身に搬送します。
 (5)心気は推動作用により肝の疏泄作用と協調して"巡る物"を全身全細胞に搬送します。心は神を司り、記憶、学習などに関係し、意識状態、睡眠、随意運動を司ります。
血の生理
 血は人体機能の根源です。
 (1)血の活動作用:血の供給によって臓腑機能は活性化されます。素問では"目は血を受けて良く視、足は血を受けてよく歩き、掌は血を受けてよく握り、指は血を受けてよく摂す"と表現され、いずれも血を配分する肝の臓血作用に属する機能です。人体機能は血を根源として活動を生じています。
 (2)血の鎮静作用:心の活動主体である"神"は心血の中に納まるとされています。従って、睡眠、記憶、意識などの神の機能は心血が十分に満たされることで初めて安寧に機能します。心血が不足する状態では、イライラ、煩燥、不寧や夜間の不眠、多夢などの動的(邪陽、虚陽)な病態を生じます。心は君主の官であり、心は活動することを主としています。血は心における活動を支えるための養分としての機能よりも、心の興奮状態に対して鎮静、抑制に働きます。
津液の生理
 津液は腎、脾によって生成され、脾、肺、腎の働きによって津液を全身に搬送しています。
 (1)脾は津液を生成し、脾の失調によって津液の巡りが悪くなり、痰飲を形成します。"諸湿腫満は皆脾に属す"、"脾は生痰の臓"、"肺は貯痰の臓"と言われています。
 (2)肺は宣散によって津液を衛気と共に表層への不感蒸発、発汗、涙腺、唾液腺、呼気に含まれる水蒸気、気道粘膜の湿潤として外向きに運ばれます。また、内向きには肺の粛降、肝の疏泄作用によって臓腑を滋潤、潤養し、裏層には胃液、胆汁、膵液、腸液を分泌し、大腸にて津液を回収し、腎に戻されます。
 (3)腎は回収された津液を清濁に分け、濁は尿として排出し、清は腎陰とともに腎の温煦作用によって脾に搬送し、脾によって新生された津液と共に全身へ搬送されます。
結語
 東洋医学的病態生理では、(Ⅰ)気、血、津液は異常な状態になると、(1)気は気虚、気逆、気滞、鬱結がみられます。(2)血は血虚、?血がみられ、③津液は陰虚、痰飲の異常な病態としの症状を表します(図2)。
 (Ⅱ)五臓は気血津液の異常によって、(1)腎は腎陽虚、腎陰虚、肝腎陰虚証、(2)脾は脾気下陥証、脾気虚、寒湿困脾、肝脾不和、(3)肝は肝気鬱血、肝血凝滞、肝血虚、肝陽上亢、肝風内動、肝火上炎、(4)肺は肺気不調、肺陰虚、(5)心は心血虚、心陰虚、心脾両虚等の病態を呈します。以上のように、五臓における気、血、津液の異常(過剰、不足)から出現する症状を検討、分析することによって、治療の方法が明確になります(図3)。

(2021年10月23日、薬科部漢方研究会より)

参考文献
1)仙頭正四郎著『標準東洋医学』金原出版 2000年4月
2)佐々木賢二『金匱要略を読み解く』たにぐち書店 2018年9月
3)曺 桂植『見える漢方薬-エキス製剤の解説』たにぐち書店 2021年5月

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