兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

医科2021.11.27 講演

小児救急外来 ただいま診断中!
[診療内科研究より 529] (2021年11月27日)

兵庫県立こども病院 救急科  竹井 寛和先生講演

 講演した内容のうち、小児の発熱と異物誤飲の初期対応の原則について概説します。
発熱している子どもの初期対応
原則1.見た目が悪ければ即介入する
 発熱している児で「なんだか危ない、危険だ」と直感的に判断した場合、その児が重症感染症である可能性は高い(陽性尤度比22.4)と言われています。見た目が悪い、なんだか危ないと直感的に思ったらその直感を信じて人を呼び、モニターを装着し、酸素投与をしながら、速やかに気道・呼吸・循環などの一次評価に移りましょう。
原則2.ショックかどうか?を検討する
 発熱を呈する小児に対しては、すべての児で必ず末梢循環不全の兆候がないかを慎重に評価します。SIRSの基準項目に準じて、心拍数や呼吸数が+2SDを超えて逸脱しているかどうかを評価します。
 感染症に起因するSIRS、いわゆる敗血症かもしれないという懸念があれば、循環不全徴候として、CRT(capillary refilling time)、末梢冷感、皮膚色、網状チアノーゼなども参考になります。発熱している児でショックがあれば、多くは敗血症性ショックです。日本版敗血症診療ガイドラインに沿って、静脈路確保後、等張液のボーラス投与、血液培養の採取、抗菌薬投与を行い、継続的な集中治療管理が可能な施設へ搬送します。
原則3.年齢による基準でdispositionを決める
 生後3カ月未満の乳児は、その免疫学的未熟性から重症細菌感染のリスクが高いことが知られており、30年以上前からさまざまなクライテリアが開発されていました。2021年8月にPediatricsという雑誌に発表された、"Evaluation and Management of Well-Appearing Febrile Infants 8 to 60 Days Old"に日齢60未満の発熱児のマネジメントがまとまっています。日齢60以上の小児では、鑑別疾患とマネジメントを考える上で、以下の二つの原則が重要になります。
原則4.必ずワクチン接種歴を確認する
原則5.年齢に応じて熱源を探すための身体診察を行う
 予防接種のうち、特に肺炎球菌ワクチンとHibワクチンは必ずチェックします。生後36カ月未満の乳幼児で、熱源を示唆する所見がなくワクチンをしっかりと接種している場合、有熱期間で大きくアプローチが変わります。5日以上発熱が続けば川崎病を筆頭に、精査が必要な疾患ではないかを確認します。有熱期間が5日未満であれば、「尿路感染症ではないか?」にフォーカスをあてます。乳幼児における尿路感染症の背景に先天性尿路奇形の存在があるため、その疫学は成人の尿路感染症とは異なります。嘔吐・不機嫌などの非特異的な症状であることも多いため、下記の条件を満たせば積極的に尿検査を行っても良いでしょう。
・熱源不明の2歳未満の小児で、腋下温38.5度以上が24時間以上続いている場合
・黄疸、恥骨上部の圧痛、腹痛、背部痛、頻尿・排尿時痛がある場合
・腎泌尿器系の異常が指摘されている場合
・過去に尿路感染症の既往がある場合
 尿路感染症による敗血症性ショックも度々経験します。見た目の異常がある場合やショックと判断した場合にも、熱源として考えましょう。3歳以上の小児で見逃してはいけない感染症は多岐にわたります。小児で比較的よく経験する原因として、川崎病、咽後膿瘍、骨髄炎などがあります。鑑別に挙がる疾患が小児のどの年齢層で多いのか、その特徴的な身体所見は何かを押さえておくと良いと思います。
誤飲した子どもの初期対応
原則1."症状・部位・もの"の3要素で考える
 まず、気道閉塞症状があれば緊急摘出の適応です。食道閉塞を示唆する摂食拒否、嚥下困難、流涎、胸骨後部痛などが続いているかどうかも重要です。通常原因物が胃以下まで進んだ場合は無症状となりますが、腸閉塞や消化管穿孔が生じれば腹痛、嘔吐などの強い消化器症状を認めます。
 「誤飲したものが今どの部位にあるか?」に関しては、食道、胃・十二指腸、腸管という三つの部位に分けて考えます。食道に停滞する場合には緊急または準緊急に摘出する可能性が高いですし、胃・十二指腸にある場合は原因物によっては緊急摘出も考慮します。部位診断のスタンダードはX線検査ですが、近年は超音波検査も使用されています。
原則2.Red flagとなる危険なものを知っておく
 危険な原因物として、ボタン電池、複数個の磁石、鋭利な物体、5㎝以上の長い物体、高吸収性ポリマー(水で膨らむビーズ)があります。ボタン電池のうち、リチウム電池は極めて危険度が高く、食道内・胃内に停滞している場合は原則全身麻酔下に緊急内視鏡的摘出術を行います。「CR2025」、「CR2032」などという表記がなされていますが、頭文字のCはリチウム電池を示しています。複数個の磁石も消化管穿孔や穿通のリスクが高いと言われ、特に近年磁力が強い磁石が安価で手に入れられるようになり、誤飲事故が増加しているという報告もあります。
 危険な原因物として1錠でも飲むと致死的な薬剤(One pill can kill a child)も覚えておきましょう。Ca拮抗薬、抗不整脈薬、SU薬、抗精神病薬などが知られており、祖父母や両親の内服薬を誤って飲んでしまうリスクがあります。チャイルドレジスタンス機能の容器に入れ替えておくなどの工夫で予防できます。また、工業用アルカリ洗浄剤など組織の腐食作用が強い液体も危険です。誤飲してしまった場合、無症状であっても経過観察入院が望ましいと言われています。
原則3.事故予防やホームケアに使えるツールがある
 事故予防に使えるツールとして、日本小児科学会の「Injury Alert(傷害速報)」があります。実際に報告いただいた子どもに生じた傷害が事実に沿って掲載され、傷害予防に関するコメントが記載されています。また、ホームケアの助けになるサイトとして「教えて!ドクター」があります。佐久医師会や佐久総合病院の小児科医が中心となって作成した、こどもたちの健やかな成長と育児の不安を解消する、保護者向けの情報サイトです。小児科医が監修しており、情報の根拠もしっかりしているため重宝しています。

(2021年11月27日、診療内容向上研究会より)

※学術・研究内検索です。
歯科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(医科)
2017年・研究会一覧PDF(医科)
2016年・研究会一覧PDF(医科)
2015年・研究会一覧PDF(医科)
2014年・研究会一覧PDF(医科)
2013年・研究会一覧PDF(医科)
2012年・研究会一覧PDF(医科)
2011年・研究会一覧PDF(医科)
2010年・研究会一覧PDF(医科)
2009年・研究会一覧PDF(医科)