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学術・研究

医科2022.01.15 講演

外来診断目利き術(備えよ、常に!)~頭痛症例を通じて~
[診内研より530] (2022年1月15日)

大阪市・いたがねファミリークリニック院長  板金 広先生講演

 ボーイスカウトの創始者・ロバート ボーデンパウエル氏の唱えたスカウトの心構え「Be prepared」の日本語訳「備えよ、常に」は、まさに名訳です。若かりし頃スカウトだった私は、臨床に対する態度も、こうありたいと思っています。よくある疾患は、ピットフォールもしっかり押さえてさらに深く理解し、出会う頻度の少ない疾患も典型例であれば気付けるように準備したいです。昨年に発刊した「プライマリケア外来診断目利き術 50」は、日常臨床でよく出会う症候別に、最低限思い浮かべたいことを見開きページにまとめました。今回の講演では、頭痛の症例を通じて「備えよ、常に!」を実践してみたいと思います。
頭痛診断のフレームワーク
 図1は「外来診断目利き術」で上田剛士先生が書かれた頭痛の鑑別診断のフレームワークです。日常臨床ではくも膜下出血や髄膜炎に代表される二次性頭痛をまず除外し、一次性頭痛(三叉神経・自律神経性頭痛、片頭痛、筋緊張性頭痛)を的確に診断しつつ、薬物乱用頭痛を忘れないベテラン医の頭の中が描かれています。一次性頭痛で、頻度の少ない三叉神経・自律神経性頭痛から考えるというのが上田剛士流です。
三叉神経・自律神経性頭痛
 私自身は研修医の時に、群発頭痛に罹患しました。新婚旅行中に、流涙、鼻漏を伴う約1時間持続する耐え難い左眼窩部痛が1日2~3回、連日群発しました。帰国後に医局の先輩医師に相談しましたが、正しい診断はつかず、副鼻腔炎や三叉神経痛と誤診されて無駄な治療を受けました。開業して、頭痛診断を勉強する中で、自分が群発頭痛であることを知りました。診断に気づいた時、嬉しい気分と情けない気分が入り混じったことをよく覚えています。
 図2に三叉神経・自律神経性頭痛に分類とその特徴を示します。発作性片側頭痛や持続性片側頭痛は群発頭痛ほど、有病率が高い疾患ではありません。しかし、片頭痛と誤診されて治療されている例も多いと思います。発作性片側頭痛や持続性片側頭痛はインドメタシンが著効し、治療により完全寛解が期待できます。ぜひこれらの疾患を意識できるようにご準備ください。
片頭痛
 一次性性頭痛でまず考える疾患は片頭痛です。POUND Criteriaに代表される診断ツールもよく知られ、比較的診断が容易だと考える先生も多いと思います。私の敬愛する鬼才、國松淳和先生は、著書の艦別疾患リスト(Kunimatsu's List)で、一次性頭痛の鑑別の項で片頭痛、緊張性頭痛、群発頭痛に加えて「非典型の片頭痛」と「緊張型頭痛と片頭痛の合併」を挙げておられました。さすがというしかありません。
 緊張型頭痛と片頭痛の合併には特に注意が必要です。国際頭痛分類では両者は明確に分類されています。しかし頭痛分類は患者分類ではないことに注意が必要です。詳細に病歴を分析すれば1人の患者に2種類の頭痛があることはよく経験します。特に片頭痛患者は他の頭痛疾患の合併が多いのです。頭痛診療の第一人者、竹島多賀夫先生がおっしゃるように、「片頭痛か緊張型かを考えるよりも片頭痛があるかどうかを考える。片頭痛があれば片頭痛から治療する」ことが非常に大切です。
見逃したくない頭痛
 外来の頭痛診療で「くも膜下出血」と「髄膜炎」を見逃さないと呪文を唱えながら診療しています。次にあげる疾患は、私もまだ見ぬ疾患です。しかし、機会があれば正確に診断したいと思っています。
 まず可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome:RCVS)です。くも膜下出血や脳出血をきたすような重症RCVSは救急受診されるでしょう。プライマリケア医には、比較的軽度の繰り返す雷鳴様頭痛を訴えて来るはずだと思っています。本症は20~50歳の女性に多く、トイレ・運動・精神的な興奮・シャワー・入浴・いきみ動作や鼻づまり薬などの血管収縮薬やSSRIなどに関連することが多いとされています。
 二つ目は巨細胞動脈炎による頭痛です。本疾患は頭痛の部位や性状に特異的なものは少なく、併発する全身消耗性症状と側頭動脈の観察が重要です。診断の遅れは失明を招くので、速やかな診断が必要です。
 最後は急性閉塞隅角緑内障です。結膜充血、角膜混濁、散瞳、対光反射減弱があり、診断は比較的容易と考えておられる先生も多いと思います。しかし、正しく診断し眼科紹介できたのは40%程度との報告があります。正診率が最も低かったのが開業医です。頭痛の症状に引っ張られて、片頭痛や側頭動脈炎と診断したり、目の症状に気がついても結膜炎と誤診したりします。高齢者の発症が多いので、訴えが分かりにくいのも関与しています。
 頭痛以外の症候についてもまだ見ぬ疾患に備えて準備しておきたいと思います。皆さまもぜひ「プライマリケア外来診断目利き術 50」をお手にとって、「備えよ、常に!」を実践ください。

(1月15日、診療内容向上研究会より)


図1 頭痛診断のフレームワーク
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図2 三叉神経・自律神経性頭痛
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