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学術・研究

医科2022.02.26 講演

高齢者診療における身体診察のエッセンス
[診内研より532] (2022年2月26日)

市立福知山市民病院総合内科医長兼研究研修センター長  川島 篤志先生講演

 高齢者身体診察のエッセンスとして講演させていただきました。
 個人的には、アクションが変わる身体診察を習うコト・議論するコトがなければ、身体診察の文化が成熟しないのではないかと思います。そのちょっとしたヒントになれば...と思って、この講演を続けています。
 高齢者診療で、分かっていそうで案外意識していない所見のリストを当院ではチェックリスト的に挙げています(図)が、皆さまの認識はいかがでしょうか?もし全部習得済み!という方がおられれば、同じ職場の仲間への浸透を進めてもらうと、より文化が醸成されると思います。
Vital sign測定
 身体診察の基本と言えばVital sign測定になりますね。救急診療などの状態悪化時のVital signというより、平常時や平常かどうかを考えるという視点での評価を共有しました。血圧測定に関しては、数値よりも患者さんの認識・意識の確認、脈不整=期外収縮と心房細動の違いの意識、呼吸数の測定のアプリケーション、軽労作直後のSpO2(+脈拍数)測定。それぞれピンとくるでしょうか?
心臓と肺の聴診所見
 聴診に関しては、心臓と肺の聴診所見で、押さえてほしいポイントをお伝えしました。聴診は奥が深いのですが、少なくとも理解してほしい収縮期雑音、また呼吸音(副雑音)を吸気のPhaseと音の質で何パターン使いこなしているか、を話題提供しました。超音波検査を使いにくい可能性がある現場や他の医療職の方にも役立つかも?な聴打診法も紹介しましたが、実用性は...いかがでしょうか?(尿閉での診察)。
 私見ですが、「聴診に興味を持っている医師かどうかは、聴診器を見たら分かる」こともお伝えしています。皆さまの聴診器は...いかがでしょうか?当科のシンボルマークに使っている聴診器はもちろんダブルチューブです。
フレイルの評価
 高齢者診療では、フレイルの評価が求められるようになりますね(フレイル検診が浸透するのはいつでしょうか?)。外来で簡単に診察ができるものとして、「顎落ち」(口を開けて寝ている状態のこと)と「下腿周囲径」(今では「指輪っかテスト」というセルフチェックもありますよね)、そして有用な問診項目のヒントをお伝えしました。自分の手の大きさを自覚していれば、簡単に診察器具に早変わり(周囲径34㎝がポイント?)。
 そして大事なことはこの診察後の患者さんとのお話で、限られた診療時間内に栄養や運動の話題提供が、どれだけスラスラとできるのかも腕の見せどころかと思います。
COPD
 喫煙者であることの認識は容易だと思いますし、質問紙票を用いてもいいのですが、できればCOPDは瞬時に疑える感覚を養いましょう、とお伝えしました。画面越しにCOPDが心配な人もいますよね!と、特徴的な所見を紹介。
 最終的な診断は呼吸機能検査になるとしても、その呼吸機能検査を依頼するのは医療者です。今はコロナ禍だから...と言っている皆さま、ぜひコロナ前の自分の診療を振り返って、ポストコロナの診療では、氷山の一角と言われるCOPD患者さんを数多く見つけてください。
 口腔内衛生の観察やニコチン依存症へのアプローチもお忘れなく(現在、薬剤の流通が滞っている...としたら、再開した時にはできますか?)。
人生の最終段階の医療
 高齢者診療のなかで避けて通れない、人生の最終段階の医療の方法についての説明は、ハードルが高いと感じている方も少なくないかもしれませんよね。そういったなか、「認知症」と判断した方(介護保険主治医意見書にチェックあり、もしくは抗認知症薬処方)は、もしかすると意思決定支援が必要になることが予想されますが、問題を先送りにしていませんか?がん検診の話題提供は、ALP:Advance Life Planningという医療受療の意向調査にも近いところもあると思うので、節目節目でぜひ確認しながら、本人の考え方や背景なども分かると良いかもしれません。
有症状者の診療
 有症状の高齢者診療についても少し言及させていただきました。個人的に重要なのは浮腫!昨今問題となっているポリファーマシーのなかで、処方カスケードという言葉は認識できていますか?浮腫を来す原因薬剤を5系統、スラスラと言えることが当科での研修修了要件の一つだったりします。その複数が、内科系診療科だけではなく、整形外科領域から処方される可能性があることを鑑みると、地域全体での啓発が重要になってきますね?浮腫=利尿薬という誤ったプラクティスから、浮腫=原因検索+説明をするということが日本全体で広まるといいですね。
 浮腫は遭遇頻度が高く改善が難しい症状なので、早めに対応可能な能力をつけたいものです(当院では説明用パンフレットも使用しています)。高齢者診療...に限りませんが、説明のつかない片側性疼痛に対して、帯状疱疹を鑑別に挙げる+説明する癖を早めに身につけておくと、いつか救われることも紹介しました。
やれる範囲で診療を変えていく
 講演の最後のスライドにも掲載しましたが、身体診察のレクチャーでは、ときどき名人芸な所見とか、稀な所見を魅せることもあるかと思います。身体診察に興味を持ってもらうキッカケには大事と思いますが、演者が伝えたいことは、「難しい身体診察」ではなく、「やれる範囲の病歴聴取・身体診察」から日常診療(高齢者診療)のアクションが変わるコトを目標とし、病歴聴取・身体所見は、時代を経ても変わることがきっとないので、磨けるうちから+磨き続けるコト(=医療機器の整備されている医療機関勤務の若いうちから意識して修練していくこと)が重要とお伝えして、講演を終了させていただきました。
※当講演で取り上げた所見の多くは、2020年2月発刊のGノート増刊号「誰でもできる!高齢者の身体診察」にも掲載しています

(2月26日、診療内容向上研究会より、小見出しは編集部)

図 高齢者身体所見のチェック
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