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学術・研究

医科2022.04.23 講演

さあ困った、力が入らない、動けないにどう対応する?
[診内研より533] (2022年4月23日)

大阪医科薬科大学病院総合診療科科長  鈴木 富雄先生講演

 脱力を考える時には次の三つのステップで考えます。
(1)真の筋力低下(運動麻痺)と倦怠感や痛みによる運動障害とを区別する
 「動けない!」場合は筋力低下による運動麻痺とは限りません。実際多いのは「全身状態が悪くて動けない」という場合です。その場合の訴えは「だるい」「息苦しい」「動けない(動かないではなく)」あるいは「(何も訴えなく)苦しそうにしている」という状況で、疾患としては、敗血症、心不全、COPDの急性増悪、各種のショック、甲状腺機能低下症、慢性疲労症候群、抑うつ状態、過労、睡眠不足などが考えられます。
 また「(体のどこかが)痛くて動けない」場合もあります。疾患としては、外傷、膠原病類縁疾患(リウマチ、リウマチ性多発筋痛症など)、圧迫骨折、線維筋痛症などが考えられます。また「運動麻痺以外の神経疾患があり動けない」という場合もあります。疾患としては小脳梗塞、多系統萎縮症、パーキンソン症候群、認知症などが考えられます。
 これらの場合を、真の筋力低下(運動麻痺)と混同しないようにすることが重要です。
(2)筋力低下を来している病変の部位を特定する
 日常生活の中で特定の動作ができないことの病歴が筋力低下の部位を示すことがしばしばあり、表1に示しますが、問診時にこの項目を意識すると役に立ちます。
 次に筋力低下の原因となる障害部位とそれに伴う主な症候の関係の原則を表2に示します。これを頭において、障害部位の推測をするのが良いでしょう。
 国試にもよく問われる上位ニューロン障害と下位ニューロン障害の所見の比較を表3に示しますが、脳血管障害の急性期にはバビンスキー反射のような病的反射を認めても、腱反射の亢進や筋トーヌスの亢進が認められないこともあるので、注意が必要です。
(3)病変の原因疾患を究明する
 最後に(2)で示した三つの表の原則の上に、基礎疾患、発症の様子および随伴症状から鑑別診断を考え、画像検査や神経伝導検査などを行って診断を確定していきますが、脊髄病変の場合は病変の部位により症候の出方が少し複雑になります。
 表4に脊髄の障害部位とそれに伴う所見と鑑別診断を記載しておきました。一見難しそうに見えますが、図1に示したような脊髄における神経経路が理解できていれば、障害部位と原因疾患の推定は困難なことではありません。ここにあげた私が描いた稚拙な図ではなく、ネット上に脊髄における神経経路のわかりやすい図がたくさんあげられていますので、ご参照いただければ幸いです。

(4月23日、診療内容向上研究会より)

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