兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

医科2022.12.17 講演

急増する肺MAC症
知っておきたい最新のエビデンス
[診内研より537] (2022年12月17日)

国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科 倉原  優先生講演

急増する肺MAC症
 肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacterium:NTM)症は、結核菌と同じ抗酸菌に属するNTMによって発症する呼吸器感染症である。結核菌と異なるのは、NTMは基本的にヒト-ヒト感染しないこと、症状が比較的軽いこと、治療自体は結核よりも長期になることが挙げられる。実臨床では、胸部画像上陰影があり、抗酸菌が塗抹になった症例で鑑別に入れるが、しばしば結核と区別が困難である。
 肺結核については罹患率では10万人あたり9.2人と低まん延化が達成された。反面、肺NTM症については、2014年に7年ぶりの調査がおこなわれ罹患率が増加したことが示されている1)。この88%がMycobacterium avium complex(MAC)である。
 肺MAC症患者のほとんどがやせ型の中高年女性である。プライマリ・ケアレベルでは、喀痰の抗酸菌塗抹検査が陽性かつ抗酸菌培養検査でMACが陽性というパターンが多いが、塗抹が陽性の時点で専門施設に紹介されることもしばしばである。
 気管支鏡検体の場合1回の検出でも肺NTM症の診断は可能だが、喀痰から2回検出されることが診断の基本である。
 抗体検査(MACの細胞表層に存在する主要な糖脂質抗原であるGPL coreに対するIgA抗体)の普及もあり、画像上肺MAC症が疑わしい抗体陽性例で診断的治療を開始することもある(ただし、マクロライド感受性をみるためにもできるだけ菌を生やす努力はすべきである)。
 診断された場合、早期に治療を開始すべきか、注意深く観察(watchful waiting)するかは、臨床上で長らく議論されてきた命題である。年齢、治療効果、副作用のリスク・ベネフィットを検討した上で決定すべきである。空洞を合併していると治療反応性や予後は悪くなる。
肺MAC症の治療(表)
 MACのキードラッグはマクロライドである。実臨床ではクラリスロマイシンを内服している患者のほうが多いが、2020年2月にアジスロマイシンが肺NTM症に対して適応拡大され、忍容性の高さ、相互作用の少なさ、錠剤の数の少なさから、選択される機会が増えてきた。
 マクロライドに感受性がある肺MAC症の場合、マクロライドを併用した3剤併用療法(マクロライド+リファンピシン+エタンブトール)が推奨されている(表)。少なくとも培養陰性化から12~15カ月以上投与することが望ましい。マクロライド耐性MACの場合、アミノグリコシドなどを併用しながら治療にあたる。ガイドラインでは吸入アミカシンやアミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS)がセカンドライン以降で推奨されており、日本でもALISが現在保険適用となっている。
MACの「再感染」リスク
 高頻度に土壌に曝露される場合(ガーデニング、畑、土いじりなど)、MACの「再感染」リスクが高い。また、肺MAC症の患者自宅では、菌同定率が有意に高いことが示されている。特に風呂場の同定率が高い3)。さらに風呂場の給湯口やシャワーヘッドにNTMが存在すると、肺MAC症になりやすいことも報告されている4)
 実臨床では、ガーデニングや土いじりをできるだけ控えてもらい、水回りの分解洗浄などをすすめることもある。それが本当に再感染を減らすことができるのかはまだ分かっていない。

〈参考文献〉
1)Namkoong H, et al. Epidemiology of Pulmonary Nontuberculous Mycobacterial Disease, Japan. Emerg Infect Dis. 2016 Jun; 22(6): 1116-1117.
2)Daley CL, et al. Treatment of Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease: An Official ATS/ERS/ESCMID/IDSA Clinical Practice Guideline: Executive Summary. Clin Infect Dis. 2020 Aug 14;71(4):e1-e36.
3)Nishiuchi Y, et al. The recovery of Mycobacterium avium-intracellulare complex(MAC)from the residential bathrooms of patients with pulmonary MAC. Clin Infect Dis. 2007 Aug 1;45(3):347-51.
4)Tzou CL, et al. Association between Mycobacterium avium Complex Pulmonary Disease and Mycobacteria in Home Water and Soil. Ann Am Thorac Soc. 2020 Jan;17(1):57-62.

(2022年12月17日、診療内容向上研究会より。小見出しは編集部)


表 肺MAC症の治療(文献2より引用)
2033_01.gif

※学術・研究内検索です。
歯科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(医科)
2017年・研究会一覧PDF(医科)
2016年・研究会一覧PDF(医科)
2015年・研究会一覧PDF(医科)
2014年・研究会一覧PDF(医科)
2013年・研究会一覧PDF(医科)
2012年・研究会一覧PDF(医科)
2011年・研究会一覧PDF(医科)
2010年・研究会一覧PDF(医科)
2009年・研究会一覧PDF(医科)