兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2023.02.18 講演

[保険診療のてびき] 
潰瘍性大腸炎の治療
(2023年2月18日)

神戸市立医療センター中央市民病院 消化器内科 医長 井上 聡子先生講演

潰瘍性大腸炎とは
 炎症性腸疾患は、主に潰瘍性大腸炎(以下UC)とクローン病を指し、どちらも再燃と寛解をくりかえし、現時点では根治療法はない。近年、本邦で急激に患者数が増加しており、とくにUCは、若年者に限らず高齢発症もまれではないのが現状である。
 UCは、下痢、血便、腹痛を主訴とする。長期経過例では、炎症性発癌が問題となる。寛解維持できている症例でも、大腸癌発生のリスクがあることに留意する。特に全大腸炎型、慢性持続型、罹病期間が10年以上の症例で発癌のリスクが高い。UC関連腫瘍は、同時多発および異時多発例が多いこと、通常の大腸癌に比べて悪性度が高い癌の比率が高いこと、内視鏡で発見しにくい形態をとることから、発病8年後以降は年1回の内視鏡検査が推奨されている。
 UCは病変範囲から直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分類される。治療は炎症の進展範囲と程度によって決める。
5-ASA製剤とステロイド
 UCの基本薬剤である5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤は、寛解導入・維持ともに使用する。現在はサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)、時間依存型徐放剤メサラジン(ペンタサ)、pH依存型徐放剤メサラジン(アサコール)、pH依存型徐放剤+MMX構造メサラジン(リアルダ)の4種がある。それぞれ放出された5-ASAが腸管内に分布する領域が異なるため、それを考慮して使い分ける。
 ステロイドは、強い炎症抑制効果によりUCの中心的薬剤であるが寛解維持効果はなく、寛解導入のみに使用する。ステロイド減量中あるいは中止後すぐに再燃する症例(ステロイド依存例)では、ステロイドを長期投与するのではなく、あとに示す薬剤を導入して、ステロイドを必ず離脱する。副作用として感染症、骨粗鬆症、高血糖、消化性潰瘍、不眠症、満月様顔貌、ざ瘡、精神症状などがあり、治療開始時にはこれらの説明、対策をしっかり行うことが、次回の投与時に患者さんがスムーズに受け入れるためにも必要である。
 5-ASA製剤とステロイドは、坐剤や注腸といった局所療法が存在する。S状結腸や直腸など、遠位大腸での炎症が持続する症例では、内服治療に加えてこれらを併用する。とくに注腸は、通常は見慣れない薬剤であり、初めて使用する際には自分でうまく注入できなかったり、すぐに漏れてしまったりして、患者さんは拒否感を持ちやすい。しかし、注腸ができるようになっておくと、生涯にわたる疾患とのつきあいにおいて、徐々に下痢や血便が増えてきたときに自分で注腸を追加して、炎症をおさめることができる可能性があり、大きなメリットとなる。このため、局所療法を初めて行う際には、使用法を丁寧に説明し、最初はうまくできなくても当然であること、徐々にできるようになる人が多いことを伝えておき、苦手意識をもたないように導入することが重要である。
免疫調節剤アザチオプリン(AZA)
 5-ASA製剤による維持治療で再燃をくりかえす場合や、ステロイド依存例の維持治療において、免疫調節剤アザチオプリン(AZA)を使用することが多い。AZAは効果が安定するのに1~3カ月かかるため、ステロイド依存例で離脱するためには、ステロイド減量中からAZA投与を開始し、うまくスイッチできるように調整する。
 東アジア人では約1%の人で、全脱毛と高度の白血球減少が起こることが知られており、これはNUDT15遺伝子多型に強い相関があり、AZAを初めて投与する際には必ずこれを調べる。これがCys/Cysの変異の場合は上記副作用が必発であるため、AZAを使用できない。また、AZAの薬物代謝に関わる酵素は人種差、個人差が大きいため、至適投与量が異なる。WBC3500前後をひとつの目安として投与量を決定し、しっかり効果を発現させる。
新規薬剤が次々と承認
 UCにおいては新規薬剤が次々と承認されており、ステロイド依存性あるいはステロイド抵抗性といった難治性UCに対する治療の選択肢が大きく広がっている。
 カルシニューリン阻害剤であるタクロリムスは、効果発現が速やかで強力な炎症抑制効果があり、重症例の寛解導入治療に使用する。血中トラフ濃度を測定して、投与量を決定する。
 JAK阻害剤は、炎症性サイトカインの細胞内シグナル伝達に関わるヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素の働きを抑制し、炎症のサイクルを止めるという薬剤である。JAKは多数のサイトカインのシグナル伝達に関与しているため、JAK阻害剤は広範囲に作用する。内服薬で、抗体製剤ではないため、抗薬物抗体ができて薬の効果が落ちる二次無効の心配がない。現在UCに対しては、トファシチニブ、フィルゴチニブ、ウパダシチニブの3種類が承認されている。重症寄りの中等症に使うことが多い。
 抗TNF-α抗体製剤は、炎症性サイトカインのTNF-αを直接ブロックするため、TNF-αが炎症の主体となっている症例においては、寛解導入にも寛解維持にも有効である。現在、インフリキシマブ(点滴)、アダリムマブ(皮下注射)、ゴリムマブ(皮下注射)が承認されている。抗薬物抗体が産生されて二次無効になる場合があり、注意が必要である。
 抗IL-12/23p40抗体製剤(ウステキヌマブ)は、T細胞が分化するのに関与するIL-12とIL-23を抑制し、炎症のカスケードの始まりの方に作用する。トランスジェニック法という方法で製薬されており、抗薬物抗体ができにくい。
 抗α4β7インテグリン抗体製剤(ベドリズマブ)は、血管内を流れるT細胞が血管壁に接着して大腸粘膜内に浸潤する際に働く、T細胞上のα4β7インテグリンに結合し、T細胞が粘膜内に浸潤して炎症を起こすのを抑える。α4β7インテグリンの相手になるMADCAM-1は、腸管の血管壁にだけ発現しているため、ベドリズマブは腸管選択的に作用するといえる。ただし、粘膜内ですでに強く起こっている炎症そのものを抑える薬剤ではないため、注意が必要である。
 薬物療法以外に、患者さんの血液を静脈から脱血して専用のカラムに通し、活性化した顆粒球と単球を除去する顆粒球除去療法と、外科的手術がある。UCの手術は大腸全摘、回腸嚢肛門(管)吻合術を行う。
 UCは生涯にわたる治療が必要であり、開始する薬剤の効果を充分に発揮させるために、服薬、自己注射、通院のコンプライアンスが重要であり、そのための説明が必要である。

(2月18日、薬科部研究会より、小見出しは編集部)

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