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学術・研究

医科2023.12.09 講演

身近に潜む中毒診療?!どうやって見抜く?
[診内研より541] (2023年12月9日)

国際医療福祉大学 救急医学講師 千葉 拓世先生講演

 私は比較的大きな病院の救急で働く救急医で、中毒を含めた救急患者の診療に日々当たっているが、その経験をもとに一般外来診療のなかで役に立つと思われる内容についてお話した。

〈トキシドローム〉
 トキシドロームはToxicとSyndromeをあわせて作られた造語で、ある種の症状やバイタルサインなどの組み合わせからどのような中毒であるか想定することができるというものである。中毒については血液や尿を分析にかけて確定診断がつくまでには多くの場合かなり時間がかかるため、病歴はもとより、バイタルや所見から何の中毒であるか予想しながら治療していく必要がある。
 例えば過去の例では地下鉄サリン事件の被害者が全員縮瞳を示していたことから何らかの神経剤の中毒であることが想定され、それに応じて治療が開始されたということもある。トキシドロームはこのように非常に有用なものにも関わらず、現時点では医学部の卒前教育でも学ぶ機会がない。中毒を学び始めてToxidromeの表を見た人の中にもどうやってこの表を覚えて、臨床に使えばいいのか迷う方が多いのではないかと想像する。そのため今回はこのToxidromeをどのように使っていくかを具体的に例示しながらお示しした。
 まるで違法薬物の売人のような表現ではあるが、Toxidromeはアッパー系とダウナー系に分けて考えることが第一のステップである。アッパー系は血圧・脈拍・体温が上昇し、意識も興奮・せん妄状態になるのが特徴で抗コリン薬中毒、交感神経賦活薬中毒、セロトニン症候群、ベンゾジアゼピンやアルコールなどの離脱症候群がある。ダウナー系は血圧・脈拍・体温が低下して、意識も朦朧として傾眠・昏睡状態になり、代表例としては鎮静・催眠薬中毒・コリン作動性中毒・オピオイド中毒などがある。
 例えば抗コリン薬中毒の中には血圧が正常という人もいるし、コリン作動性中毒の患者でも脈拍が正常という人もいる。いつも完全に合致するわけではないため、全体像をみてその患者がアッパー系の症状を示しているのか、ダウナー系の症状を示しているのか判断する必要がある。
 その次のステップとして、それ以外にどのような症状があるかを確認することである。アッパー系で足クローヌスや腱反射の亢進があればセロトニン症候群を考え、口腔内乾燥・腸蠕動低下・瞳孔の散大と対光反射消失があれば抗コリン薬中毒を、発汗・興奮状態であれば交感神経賦活薬中毒を想起する。逆にダウナー系で、縮瞳と呼吸抑制があればオピオイド中毒を、全身が水浸し(流涎、流涙、嘔吐、下痢、尿失禁、起動分泌)になるようであればコリン作動性中毒を、眠っているのがメインでバイタルは正常下限という状態であれば鎮静・催眠剤の中毒を疑う。
 このように二つのステップでどのようなトキシドロームかを考えることで中毒の原因に迫ることができるのが中毒診療の大きな魅力の一つである。ただし、トキシドロームも100%ではなく、交感神経賦活薬中毒のように見えるがセロトニン症候群や抗コリン薬中毒の可能性も否定はできないといったように、常に鑑別疾患を考えながら臨床では進めていく必要がある。
〈実際に出会うことがある中毒〉
 次に実際に外来でも遭遇する可能性がある中毒について述べた。
◯セロトニン症候群:セロトニン症候群は薬物過量服用でも起こるが、複数の薬剤を組み合わせることで必ずしも過量服薬でなくとも発生することがある。SSRIのような抗うつ薬のみならず、トラマドール、メトクロプラミド、デキストロメトルファン、リチウム、トリプタンなど普段処方する可能性のある薬にもセロトニン症候群を起こす可能性がある薬剤は多数含まれており、処方をする際には薬剤の相互作用を慎重に考慮する必要がある。軽症のセロトニン症候群は慎重に身体所見を取ることで早期発見できれば予後はよい。
◯コリン作動性中毒:近年認知症や神経因性膀胱の治療薬としてコリンエステラーゼ阻害薬が使用される機会が増えている。高齢者では代謝機能の低下から血中濃度が増加して中毒症状が出現することもあれば、認知症を基礎疾患に持つような場合には飲んだことを忘れて複数回内服したり、貼付剤を剥がし忘れたりするなどの影響で過量服薬になってしまい中毒になることもありうる。
 コリン作動性中毒はその目で診察しなければ徐脈・低血圧・発汗など心原性ショックと間違われる可能性が高く、ここでもやはり服薬歴と身体所見の組み合わせが診断の鍵となる。
◯BRASH症候群:β遮断薬やカルシウムチャネル拮抗薬を服用している患者が、何かを契機に脱水になり、腎機能が悪化し、薬物の血中濃度が上昇し、徐脈・低血圧となり、腎血流がさらに低下して腎機能が悪化し、高カリウム血症が発生し、徐脈・低血圧がさらに悪化するという負のスパイラルにいたる疾患で、早期に発見して高カリウム血症・脱水・ショックの治療を適切に行うことが必要な疾患である。血清Cr値・血清カリウム値は単体ではショックや徐脈を起こすほどではなく、薬物も特に過量服用しているわけではないため一見するとなぜ高度な徐脈に至るのかわかりにくく、高齢者の徐脈傾向を見たときに注意をしておきたい概念である。
〈最近のトピックス〉
 最後に最近話題になっている中毒について、その注意点などをまとめた。
◯大麻関連のグミなど:大麻の中でもっとも精神面への影響が大きく、乱用の危険があるのがTHC(テトラヒドロカンナビノール)であるが、大麻の中にはそれほど精神面への影響がないCBD(カンナビジオール)という成分も含まれている。THCは所持が法律で禁止されているものの、CBDやTHCの類縁物質は完全には規制されておらず(最近話題となったHHCH-ヘキサヒドロカンナビヘキソールはすでに販売停止命令がでており、今後もこういった規制は強化されることが予想される)、インターネットなどで購入が可能な状態である。
 それらグミなどの経口摂取できる物質の危険性として①精製や分離が完全ではなくTHCが混入している可能性、②大麻以外の危険な薬毒物が混入している可能性、③経口摂取であるため症状発現が遅くなり中毒症状が出始めたときにはすでにかなり多くの量を体内に取り込んで症状が遷延する可能性などが挙げられる。
◯市販薬:最近は市販薬の中毒が増えている。規制の動きもあるが、現状はまだ薬局での購入は比較的容易である。市販薬の内容は一錠あたりの内容量は少ないものの含まれている成分はほとんど処方される薬と違いはなく、大量に服薬すれば強い中毒症状が出る。医療従事者からみて問題になる点としては複数の成分が互いに別の影響を与えるため、トキシドロームを使って原因物質を推定することが極めて難しくなることがある。
◯ボタン電池:ボタン電池、特に20㎜大の起電力の高く薄い電池(コイン型とも呼ばれる)による事故は、その使用が増加するなかで増えてきている。
 一般に、食道にある場合にはすぐに取り出す必要があるため、何はともあれレントゲンを撮影して食道にあればとにかく早く取り出すことが最善の治療で、特に自宅でできることはないと言われてきたが、近年はちみつやジャムを服用させることで食道粘膜の損傷を防ぐことができるという研究も発表されており、今後ガイドラインなどにも反映される可能性がある。

(2023年12月9日、第604回診療内容向上研究会より)

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