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学術・研究

医科2024.02.10 講演

[保険診療のてびき]
高齢者のポリファーマシー対策(2024年2月10日)

東京大学大学院医学系研究科 老年病学 東京大学医学部附属病院老年病科 教授 秋下 雅弘先生講演

はじめに
 高齢者は多病ゆえにポリファーマシーとなることが多く、薬物有害事象や服薬管理上の問題を生じやすい。日本老年医学会や厚生労働省からポリファーマシー対策の指針も発表されており、メディアや社会の関心も高い問題である。本稿では、ポリファーマシー対策について上記指針の内容を含めて概説する。
ポリファーマシーとは
 厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」1)では、ポリファーマシーは単に服用する薬剤数が多いことではなく、薬剤数増加に関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態であるとし、何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はなく、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化するとしている。薬剤数のみに着目するのではなく、安全性の確保等からみた処方内容の適正化が何より重要である。
 ただし、75歳以上の約4割が5種類以上、約4分の1が7種類以上の内服薬を一つの薬局から調剤されており1)、高齢者は多剤服用状態にある場合が多い。また、6種類以上で急性期病院入院患者の薬物有害事象リスク、5種類以上で診療所通院患者の転倒リスクが増加するといった報告があり2)、5~6種類以上をハイリスク群と考えて処方見直しなどの対応を考えるべきであろう。
ポリファーマシー形成と解消の過程
 多病で複数の医療機関または診療科を受診していると、足し算的に服用薬が積み重なり、結果的にポリファーマシーとなる。お薬手帳などを利用してすべての診療科からの処方全体を把握し、処方内容の適正化を図る必要がある。また、薬物有害事象に薬剤で対処し続ける処方カスケードと呼ばれる悪循環に陥ることもある。やはり複数医療機関、診療科の受診で起きやすい問題である。
 したがって、ポリファーマシーは、例えばかかりつけ医による包括的診療が開始された際に薬剤の処方状況全体を把握すること、または薬局の一元化などで解消に向かうことが期待される。特定の領域の専門医であっても専門領域の処方だけに目をとられず、お薬手帳などで患者の常用薬すべてを把握し、高齢者の全身に気を配れる専門医であってほしい。
処方見直しの基本的な考え方
 図に処方見直しのプロセスをフローチャートで示す1)。処方の適正化を考えるにあたり、病状だけではなく、患者の生活機能や生活状況などを総合的に把握することが必要であり、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment;CGA)を行うことが推奨される。
 その上でポリファーマシーに関連した薬学的問題を検討することで、処方見直しが可能となるのである。また、①予防薬のエビデンスは高齢者でも妥当か、②対症療法は有効か、薬物療法以外の手段はないか、③治療の優先順位に沿った治療方針かといったポイントに沿って、各薬剤を再考してみることが勧められる。
特に慎重な投与を要する薬物
 高齢者の薬物有害事象は老年症候群として表れることも多く(薬剤起因性老年症候群、表)、見過ごされがちであることに注意が必要である。日本老年医学会による「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」2)も参照しながら、薬剤との関係が疑わしい症状・所見があれば、処方をチェックし、中止・減量・変更を考慮する。
 特に注意が必要なのが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬と抗コリン系薬物であり、表および上記リストにも多く含まれている。抗アレルギー薬、抗潰瘍薬、過活動膀胱治療薬、抗不整脈薬、抗精神病薬などに抗コリン作用をもつ薬剤が多くあり、単独では弱くてもいくつも重複すれば便秘、口腔乾燥、認知機能低下といった有害事象につながることに注意しなければならない。
多職種連携および患者・家族の理解
 薬物療法の様々な場面で多職種の連携・協働は今後ますます重要になる。特に、薬の専門家である薬剤師、服用状況や症状の把握には看護師、非薬物的対応については理学療法士、作業療法士、言語聴覚士や管理栄養士の役割が期待される。院内や地域での多職種連携には、厚生労働省から「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」4)という手順書があり、地域版も出る予定なのでぜひ参照いただきたい。
 患者と家族を含む一般の方の理解も必須である。①自己判断で薬の使用を中断しない、②使用している薬は必ず伝える、③むやみに薬をほしがらない、④若い頃と同じだと思わない、⑤薬は優先順位を考えて最小限に、といった原則をよく理解していただきたい。一般向けの啓発パンフレット「高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用」(https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20161117_01_01.pdf)なども活用して、十分な説明と同意のもとに行わないと、ポリファーマシー対策を上手く行うことは困難である。

引用文献

1)高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編).厚生労働省.2018年5月.(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/koureitekisei_web.pdf)
2)高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015.日本老年医学会、日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班(編).東京:日本老年医学会;2015.
3)高齢者の医薬品適正使用の指針〔各論編(療養環境別)〕.厚生労働省.2019年6月.(https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000568037.pdf
4)病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方.厚生労働省.2021年3月.(https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000762804.pdf

(2024年2月10日、薬科部研究会より)


図 処方見直しのプロセス
2065_01.gif

表 薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤
2065_02.gif

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