医科2025.04.26 講演
プライマリケアにおける呼吸器感染症の診かた(上)
[診内研より555] (2025年4月26日)
亀田総合病院 呼吸器内科 主任部長 中島 啓先生講演
1.咳嗽の対応
咳嗽はプライマリケアで最も頻度が高い症候であり、呼吸器感染症の多くが咳嗽を呈するため、的確な鑑別と対処が重要です。咳嗽は図1のように持続期間で分類され、期間によって頻度の高い鑑別診断が変わります。急性咳嗽(3週間未満)では、かぜ症候群、肺炎、COVID-19、インフルエンザなどが考えられます。流行期にはまずCOVID-19とインフルエンザを抗原検査で除外することが必要です。急性咳嗽患者の約5%が肺炎であり、下気道症状(呼吸困難、膿性痰、胸痛)、全身症状(発熱、悪寒戦慄、寝汗、全身倦怠感)、バイタルサインの異常(呼吸数増加、SpO2低下)、聴診所見の異常を認める場合は積極的に胸部X線を撮像します。
遷延性咳嗽(3~8週間)では、主に感染後咳嗽が原因です。感染後咳嗽は、感冒症状が先行し、周囲に同様の症状の人がいる場合に疑われ、基本的には鎮咳薬で対症療法を行います。
咳嗽の鑑別診断は、胸部X線で異常を認めるものと認めないものに分類すると整理しやすいです。胸部X線で異常を認めない慢性咳嗽では、病歴聴取が極めて重要であり、最も疑わしい疾患から診断的治療を行います。図2に示すように、頻度が高いのは咳喘息、GERD、COPD、後鼻漏、アトピー咳嗽の5大疾患です。診断の手がかりとなる病歴に基づいて、原因疾患を疑い、治療的診断を行います。
咳喘息は喘息診療実践ガイドライン2024に基づき、図3の喘息を疑うチェックリストで該当項目があれば、ICS/LABAで治療的診断を行いましょう。
2.かぜ症候群
かぜ症候群(普通感冒)は、図4に示すように急性気道感染症のうち、咳嗽、鼻汁、咽頭痛を同時に三つ(少なくとも二つ)認めるもので、ほとんどがウイルス性で自然軽快します。かぜ症候群に対して抗菌薬投与は推奨されません。抗菌薬を投与しても、症状改善効果はなく副作用がプラセボと比較して2.6倍増加すると報告されています。かぜ症候群は自然軽快するため、原因微生物の特定は通常不要ですが、A群溶連菌による咽頭炎・扁桃炎は見逃さないようにし、Centor criteria(図5)で判断します。
急性気管支炎は咳を主症状とする急性気道感染症で、原因の90%以上がウイルスです。基礎疾患のない成人ではバイタルサインに異常がなければ胸部X線は不要で、抗菌薬投与は推奨されません。百日咳は痙攣性の咳発作などが特徴ですが、成人では遷延性咳嗽のみの場合も多く、カタル期に抗菌薬(アジスロマイシン)を投与することで慢性咳嗽への進行を止められる可能性があります。
(次号につづく)
(4月26日、第620回診療内容向上研究会より)
図1 咳嗽の分類
図2 胸部X線で異常を認めない慢性咳嗽で頻度が高い疾患
図3 咳喘息の診断
図4 かぜ症候群の定義
図5 Centor criteria