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学術・研究

医科2025.04.26 講演

プライマリケアにおける呼吸器感染症の診かた(下)
[診内研より556] (2025年4月26日)

亀田総合病院 呼吸器内科 主任部長 中島  啓先生講演

(前号からのつづき)
3.肺炎
 肺炎は「肺実質に起こった急性の感染による炎症」と定義され、胸部画像検査での新たな浸潤影と肺炎に合致する症状(発熱、呼吸困難、咳嗽、喀痰増加など)で診断されます。市中肺炎は病院外で生活している人に起こる肺炎です。肺炎診療では、浸潤性粘液産生性肺腺癌、結核、特発性器質化肺炎/好酸球性肺炎といった「市中肺炎ミミッカー」に注意が必要です。
 市中肺炎の主な起炎菌は、図6に示すように、細菌性肺炎として肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ、非定型肺炎としてマイコプラズマ、クラミドフィラ、レジオネラ、そして呼吸器系ウイルス(インフルエンザ、COVID-19など)です。
 肺炎と診断したら、病歴(年齢、先行感染、周囲の状況、曝露歴など)、身体所見、検査所見(グラム染色、尿中抗原、多項目遺伝子検査など)から起炎菌を推定します。多項目遺伝子検査(FilmArray®など)は、ウイルス性肺炎やマイコプラズマ肺炎を疑う場合に有用です。
 肺炎の重症度評価にはA-DROPやCURB-65を用い、治療の場(外来、入院、ICU)を決定します。抗菌薬選択は、予測される病原微生物と重症度に基づいて行います。経験的治療を図7に示します。緑膿菌やMRSAのカバーは、リスク因子がある場合に限定します。
4.肺炎予防のためのワクチン
 肺炎予防にはワクチンが重要です。肺炎球菌ワクチンには、23価多糖体ワクチン(PPSV23)と結合型ワクチン(PCV15、PCV20)があります。近年、小児へのPCV導入後、PPSV23の有効性が低下している可能性が示唆されており、PCVを中心とした戦略への移行が考えられています。米国CDCは高齢者や基礎疾患を有する成人にPCV20またはPCV15/PPSV23を推奨しています。
 インフルエンザワクチンは、全ての成人に推奨されます(特に高齢者、基礎疾患を有する者)。
 COVID-19ワクチンは、米国CDCは全ての成人に推奨、日本では高齢者や基礎疾患を有する者が定期接種の対象です。
 RSウイルスワクチンは、米国CDCは75歳以上や60歳以上の基礎疾患を有する者に推奨しています。
5.抗酸菌
 肺結核はヒト型結核菌による感染症です。2週間以上の咳嗽に加え、発熱、体重減少、寝汗、倦怠感などの全身症状や結核リスクファクター(高齢、糖尿病、免疫不全など)があれば疑います。画像所見では、胸部X線で上肺野の浸潤影や空洞、胸部CTではS1、S2、S6に小葉中心性粒状影や空洞性病変が典型的ですが、多彩な陰影を呈することもあります。診断には喀痰抗酸菌塗抹・培養検査を3日間連続で行います。3回の喀痰塗抹陰性であれば感染性は低いと考えられます。IGRA(QFT・T-SPOT)は結核菌への感染を示しますが、活動性結核を意味するわけではありません。特に日本人高齢者は既感染率が高いため解釈に注意が必要です。LTBI(潜在性結核感染症)の治療対象は、ステロイドや免疫抑制剤治療前の患者や接触者検診など、結核発病リスクが高い人に限られます。
 非結核性抗酸菌症(NTM症)は、結核菌やらい菌以外の抗酸菌による感染症で、環境常在菌です。M.avium complex(MAC)が代表的です。近年罹患率・死亡率が増加しています。診断には臨床的基準と細菌学的基準の両方を満たす必要があります。治療はマクロライド系薬(アジスロマイシンなど)とエタンブトール、リファンピシンなどを組み合わせた多剤併用療法が基本で、菌陰性化後1年間の治療が推奨されます。肺MAC症は、近年の治療の発展に伴いコントロールや治癒が可能な疾患であり、疑ったら早期に呼吸器内科への紹介を検討します。抗酸菌塗抹陽性例や空洞を有する場合は早期の治療開始が望ましいです。
 肺M.abscessus species症は、近年増加している難治性NTM症で、専門医への早期介が重要です。

(4月26日、第620回診療内容向上研究会より)



図6 市中肺炎の原因微生物
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図7 市中肺炎の経験的治療
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