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学術・研究

医科2025.05.31 講演

「非神経系」医療者のための「最新てんかん診療これだけは」
[診内研より557] (2025年5月31日)

一般財団法人広南会広南病院病院長 中里 信和先生講演

はじめに
 赤ちゃんからお年寄りまで、脳をおもちなら誰でもいつでも「てんかん」を発症する可能性があります。どの年代でも「100人に一人」の病気と言われています。
 医師も例外ではありません。患者が医師の場合、自己判断で治療が遅れるケースもあります。偏見から病名を隠すだけでなく、専門医を受診しない医師もいます。医師でも誤解しているのですから、一般の方が誤解や偏見をもつのは無理もありません。「てんかんかも?」と思い悩んだり、あるいは「てんかんです」と言われてショックを受けます。
 しかし正しい知識をもてば、てんかんの有無で人生は変わりません。
てんかん発作とは
 突然倒れて白目をむき、全身を硬直させてガタガタふるえる。これが全身けいれんです。しかし、てんかん以外でも全身けいれんはおきます。血圧が一瞬低下する「失神」、心理的ストレスからの「心因性発作」、飲酒や薬物の禁断症状などでも体はふるえます。無効な抗てんかん発作薬をのみ続ける人もいます(図1)。
 一方、てんかんでは全身けいれん「以外」の小さい発作もあります。本人が気づかなくとも、「ボーッとして一点を見つめる、呼びかけても返事がない、動作が止まっている、無意識な行動を数分間続ける」などです。
 もっと小さい発作では、「上腹部がムカムカと込み上げる、恐怖や不安におそわれる、おかしな音や人の声が聞こえる」などで、てんかん診療に慣れた医師でないと発作を見抜けません。
抗てんかん発作薬の進歩
 最近、新しい抗てんかん発作薬が次々と登場しました。従来薬に比べて副作用が少ないのが特徴です。
 てんかんでも、発作が2年消失しているなどの条件を満たせば、車の運転も可能です。薬をのみながらでも、妊娠や出産、授乳も禁止されなくなりました。
 もし「てんかん診断で働けない」という悩みを抱えている患者がいれば、ぜひ一度、専門医に相談してください(図2)。
てんかんの入院精査
 薬で発作を抑えられないてんかん患者は約3割です。あれこれ薬を試すより、思い切って入院した上で精密検査を受けるのが解決につながります。私が開設した東北大学病院てんかん科では2週間が入院の基本です(図3)。最初の3泊4日は脳波とビデオで長時間の「モニタリング検査」を行います。この間、発作がおきてもおきなくても診断精度が一気に高まります。てんかんが否定される方もいます。てんかんのタイプによって治療薬も変わります。手術を受けたほうが発作を止めやすいと判断される場合もあります。
 入院は発作を診断するだけでありません。公認心理師やソーシャルワーカーが、お一人おひとり時間をかけて、さまざまな相談に乗ります。心の問題や経済的問題など、患者が抱える悩みは発作以外にもたくさんあるからです。退院後、多くの患者さんに「もっと早く入院していれば良かった」と言ってもらえることが専門医の喜びです。
おわりに
 患者や家族は、てんかんのすべてを勉強する必要はありません。てんかんのタイプは千差万別ですから、自分や家族のてんかんについて、誰よりも詳しくなることが大切です。そのためには医師の説明をよく聞くことが大切ですが、患者や家族向けの書籍で正しい知識を身に付けることも大切です。
 自分のてんかんに誰よりも詳しく。そうすれば、てんかんを克服して自分らしい人生を歩むための逆転の発想が生まれるのです。
 おわりに参考文献をつけました。拙著1と2は医療者向けに執筆しましたが、患者や家族が読んでも理解できる内容がほとんどです。拙著3~5は患者や家族向けに執筆しましたが、医師や医療者にも気づきが多いと存じます。

【参考文献】

1)中里信和:改訂2版 ねころんで読めるてんかん診療.メディカ出版,大阪,2024
2)中里信和:もっとねころんで読めるてんかん診療.メディカ出版,大阪,2020
3)中里信和:変わる! あなたのてんかん治療.NHK出版,東京,2018
4)中里信和(監):「てんかん」のことがよくわかる本.講談社,東京,2015
5)中里信和,藤川真由:てんかんと就労~患者さんとご家族の方へ(https://www.towayakuhin.co.jp/oyakudachi/miniclinic/tenkan_syuurou/)

(5月31日、第621回診療内容向上研究会より)

図1
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図2
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図3
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