兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2025.07.05 講演

[保険診療のてびき]
児童精神科での不登校の診かた(2025年7月5日)

兵庫県立こども病院 精神科部長 関口 典子先生講演

不登校とは
 不登校とは、文部科学省の定義によれば「なんらかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」とある。
 不登校自体は「問題行動」ではなく、教育機会をどう与えるかという視点から考えられるようになり、各学校では別室など登校しやすい工夫がなされるようになっている。しかしながら、小中学校における不登校児童生徒数は、年々増え続けている。
不登校と医療
 不登校でかかりつけ医に受診する場合、何らかの身体的不調を訴えてのことになる。受診したことで、「病気(病院に行くような状態)だから学校に行けなくても仕方ない」、「治るまでしっかり休まないといけない」と不登校状態を認めてもらえるという、身体科ならではの許され感があるだろう。日ごろからかかっている医師への安心感は、家族や学校関係者とはまた違った、第三の「なんとなく自分の言い分や気持ちを聞いてくれる存在」として機能しうる。それは不登校児と家族がエネルギーを貯めて再び進む力を手にするまでの止まり木となるだろう。
精神科への紹介
 不登校の精神科的背景疾患としては、統合失調症、強迫症、不安障害など薬物療法が有効な群、知的障害、学習障害、発達障害など特性に応じた療育や構造化が必要な群、適応障害や身体症状症など非薬物療法がメインの群がある。統合失調症やうつ病が疑われる場合は早急な精神科受診が必要である。
精神科での評価
 診察の前に、こどもファーストであることやこちらが何も提供できない可能性について改めて考えておく。家族の思いに同調して、こどもに説教や説得をしてはならない。
 また、心理的要因が明らかであっても身体疾患の検索を忘れてはならない。睡眠障害、起立性調節障害、過敏性腸症候群など不登校と関係の深い心身症だけでなく、甲状腺ホルモンの異常や悪性腫瘍なども念頭に置き、医療者として体調に気を配る姿勢を忘れてはならない。
 精神科での評価は精神症状、知的を含む発達上の問題、環境要因など多軸で考える。生物的・心理的・社会的観点から多面的にアセスメントを行い、一面的な判断にならないよう注意する。
1)現病歴

 主訴は親とこどもとを分けて考える。違うことを考えている場合は少なくない。いつどのように不調になったのか、以前にも同じようなことはあったのか、その時はどうなったのか。今回はだれがどのように対応して、どうなったのか。ライフイベントや友達、家族との状況などと不調となったタイミングの関連を考える。
 睡眠や食欲、便通の有無など基本的な身体状況の確認も行う。そういった話題は非侵襲的で答えやすく、医療者側も生活状況のイメージがしやすくなる。
 「今困っていること」だけでなく、「現在できていること」についても確認したい。塾に通っている、家の手伝いをするといった能動的なことだけでなく、夜寝ている、食欲があるなど、「あたりまえ」なことも聞き取っていく。それらは「なにもできない」、「できていない」と思い込んでいる認知を肯定的に変化させるきっかけとなり、レジリエンスにつながる。
2)精神症状

 見られている、噂されている、気分の波(1週間以上継続するもの)、不安、焦燥感、強迫症状(こだわりとの鑑別は難しい場合がある)、不安発作(外出時の不安や過呼吸など)など、不登校の原因となる症状について確認する。「噂されている」という訴えが、学校に行くと友達がこちらをみて「来たと言っている気がする」という場合と全然知らない通りすがりの人が自分の不登校を知っていて笑っている気がするというのでは症状の意味合いが違う。症状はできるだけ具体的に聞き取っていく。
3)生育歴

 乳幼児健診での指摘、幼少期の集団適応、遊び方、こだわり、育てにくさや育てやすさ、兄弟との違いなどを確認する。日常的なこだわりは家族の配慮で生活の一部となり目立たなくなっていることもある。発達障害の診断には丁寧な問診と行動観察が欠かせない。
 被虐待や不適切養育によって発達障害様の症状を認めることがあり、安易に発達障害のレッテルを貼らないように気を付ける。特に多動衝動性は注意欠如多動性障害だけでなく、知的障害、境界知能の不適応、愛着の問題などでも生じるため鑑別が問題となる。
4)家族背景

 ジェノグラムは遺伝負因だけでなく、家族の事情や家庭内力動の把握についても役立つ。同胞の不登校の有無、祖父母との関係など確認する。
不登校への対応
 まずは本人の希望を確認したうえで「いま、ここでできること」を考える。睡眠や楽しみの確保、ラジオ体操やストレッチ、家の中での役割を担うことなどである。
 こどもにとって重要なことは人との関係の中で体験を積み、成長していくことである。そのため誰かと関わる居場所の確保は重要である。
 学校では、別室や保健室、図書室、時には校長室が居場所として提供されることがある。そこにいる「人」も重要である。学校と連携する場合は必ず本人家族の了承(もしくは学校が本人家族からの承認を得ていること)を確認する。学校への不信感がある場合、よかれと思って勝手に連携を取る、もしくは何とかしたいと思っている学校からの連絡に対応することで本人家族からの信頼を失うことになる。できれば学校側との面談前に学校に対する要望を本人家族に確認しておいて、それを伝えるのもよい。本人のペースをできるだけ守れるように、復帰に際しては丁寧に作戦を立てる。
 学校以外にも居場所はある。フリースクール、学童保育、発達障害がある場合は放課後デイサービスも利用できる。習い事など意欲的に取り組めることが見つかれば強みになる。オンラインゲームが新しい人間関係の場として機能することもある。
 彼らなりに力をためて不登校の時代を卒業するこどもたちは多い。小学校の途中から中学まで全くの不登校であったこどもが自分のやりたいことを見つけ、それが学べる高校に通うケースをしばしば経験する。われわれは焦らず、彼らがのびのびと自分たちのしたいことができる力を蓄えることができるように支援していきたい。

(7月5日、女性医師・歯科医師の会研究会より)

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