医科2025.07.19 講演
知っているようで知らないせかい~HbA1c~(2)(全5回)
[診内研より560] (2025年7月19日)
遠別町国民健康保険診療所 院長 江橋 正浩先生講演
(前号からのつづき)8.グリコアルブミン(glycoalbumin:GA)
ここまでHbA1cの測定方法について述べましたが、今回の宿題に示されたもう一つの血糖指標であるGAについて説明します。GAは、ブドウ糖が結合したアルブミンのことです。アルブミンの半減期は17日と短いため、より短期間(約2~3週間)の血糖変化を反映します。赤血球の寿命とは関係ないため、貧血などがあっても、血糖値の評価を問題なく行うことができます。正常値は12.3~16.9%とされています。また、GAは異常ヘモグロビンや貧血の影響を受けないことが知られています43)。
9.HbA1cとGAには関係があるのか?
HbA1cもGAも、どのくらいの時期の血糖を評価するかに違いはあるとはいえ、全くの無関係とは考えにくいです。このように、これら二つになんらかの関係が存在するのではないか、と考え、統計的に検討した方がいます。田原先生はDeming法と名付けて、HbA1c(NGSP)=GA÷4+223)と記しており、他に、HbA1c=GA÷4+2.226)や、韓国のデータでHbA1c5.868以上ではGA=3.720×HbA1c(%)-9.60940)、1型糖尿病の長期合併症研究であるDCCT(the Diabetes Control and Complications Trial)/EDIC(the Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications)ではGA=HbA1c×3.3741)などいくつかの関係式が示されていますが、最も大雑把な換算式としてHbA1c(%)=GA÷342)があり、概ね、HbA1cの3倍がGAの目安になるものと考えられます。10.この症例(図1)でのGA/HbA1c比は?
上記関係式を踏まえ、HPLC法9.5%のほうでGA/HbA1cを計算すると、2.10...となり、3に比べてずいぶん小さくなることがわかります。これの意味するところは、本来の血糖よりもGAが小さく評価されているか、もしくはHbA1cが大きく評価されているか、のいずれかが考えられるということです。
11.HbA1cが実際の血糖コントロールに比べて高値になる場合(図5)
【病態解説】①血糖コントロールの急激な改善
GAとHbA1cの血中半減期は、それぞれ17日と36日であり、GAの方がHbA1cと比べ、実際の血糖コントロールの変化に応じて迅速に変動する5)。血糖コントロールが急激に改善した場合は、GAの方が低下するスピードが早いため、GA/HbA1cが低下する。
②食後血糖改善薬での治療
アルブミンは、ヘモグロビンと比べ糖化速度が約10倍速い。そのため、GAは、HbA1cと比べ空腹時血糖よりも食後高血糖を反映しやすい6)。
食後血糖改善薬や超速効型インスリン治療で食後血糖が改善した場合は、HbA1cに比べてGAで改善がより顕著にみられ、GA/HbA1c比が低下する。
③鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血では、鉄欠乏により十分にHbが合成できないため赤血球の寿命が延長し、HbA1cが実際の血糖コントロールに比べ高値となる7)。
④BUNの上昇(50㎎/dl以上)
BUNが高値の場合、尿素から生じるシアン酸によりカルバミル化Hbが増加する。HPLCカラムによっては、カルバミル化HbがA1c分画と重なる位置に溶出され、HbA1cが実際の血糖コントロールに比べて高値となる8)。
⑤大量のビタミンCやアスピリンの投与
大量のビタミンCやアスピリンを投与した場合、アセチル化Hbが増加する。HPLC法では、アセチル化Hbの溶出ピークがA1c分画に重なるため、HbA1cが、実際の血糖コントロールに比べて高値となる9)。
⑥慢性のアルコール中毒
慢性のアルコール中毒では、アセトアルデヒド化Hbが生成される。HPLC法では、アセトアルデヒド化HbはA1c分画の近傍に溶出するため、HbA1cが実際の血糖コントロールに比べて高値を示す9)。
⑦成人の胎児ヘモグロビン(fetal hemoglobin:HbF)の高値
成人のHbFは、通常総ヘモグロビンの1%以下である。HPLCでは、HbFのピークはHbA1cの近傍にみられるため、血液疾患などによりHbFが増加すると、見かけ上HbA1cが高値となり、実際の血糖コントロールと乖離する9)。
⑧異常Hb(abnormal Hb)or変異Hb(variant Hb)
主にグロビン鎖を構成するアミノ酸配列の置換により電気的変化をきたす10)。
【HPLC法】
異常(変異)Hb由来の糖化HbがHbA1cよりも早く(または遅く)溶出し、本来のHbA1cのピークと分離して検出された場合に、HbA1c値が実際の血糖コントロールと比べ低値となる11)12)。
異常(変異)Hb由来の糖化Hbのピークが、本来のHbA1cのピークと重なった場合に、HbA1c値が実際の血糖コントロールより高値か測定不能となる12)13)。
【免疫法】
(抗体認識部位である)β鎖N末端から6位までのアミノ酸の変異がある場合に、HbA1c値が、実際の血糖コントロールと乖離する可能性がある14)。
糖化の亢進する異常Hbや不安定Hbの場合は、HPLC法と免疫法の両方で、実際の血糖コントロールとHbA1c値が乖離する可能性がある14)。
(次号につづく)
参考文献
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(7月19日、第623回診療内容向上研究会より)
図1 症例
図5












